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by hinaseno
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牛窓暮色(その6)


想田和弘監督の『港町』本予告編をYouTubeで初めて見たときに、一番おっと思ったのはこのカットでした。

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すぐに思い浮かべたのは小津の『東京物語』の、あの福善寺で撮影されたこのカット。

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物語には「とみ」と「しょうじ」の墓。すごく気になってこのカットが撮影された場所を探しました。写真と見比べながら、かなりの時間をかけて。


想田さんの、あのカットを見たときに、これは絶対に『東京物語』のあのカットを意識したに違いないと思いました。

でも、墓がどこかは皆目見当がつかない。以前ブログにも書きましたが、今村昌平監督の『黒い雨』に映った墓のシーンは本蓮寺の裏の墓だとすぐにわかりました。でも、あそこの墓地とは全然風景が違う。いったいどこだろうと気になっていました。それがあの猫たちのいる井戸のそばの坂道を上がったところにあったとは。


想田さんがその墓に行くきっかけになったのは、猫に餌を与えている人のところに偶然通りがかった例の「DOG HUNTING」のジャンパーを着た女性。彼女は菊などの花を供えるために自分の墓に行く途中だったんですね。

これは「花くらべ」という岡山に現在も残っている風習。僕もここ数年、母親を連れて「花くらべ」に行っています。

「墓に花が並べられてきれいですよ」と女性に誘われて想田さんたちも付いて行ってみることにしたんですが、結果的には映画的にというか物語的にそれがとても重要なシーンになったんですね。

興味深かったのはその女性の墓のそばに上から落ちてきたという墓があって、そのだれのものだかわからない墓の世話も女性がしていたこと。たぶんそういうことのできる人だからこそ、野良猫に餌を与えていることに対して迷惑そうな目を向けることがなかったような気もします。


このシーンに関しては先日紹介した想田さんと中島さんの対談でもかなり語られていました。想田さんも「お墓に行き着いたのは全くの偶然だったのですが、撮影している時から『これは今回の映画にとって非常に重要な部分になるだろうな』と思っていました」と語っていますが、そんな重要な出来事が生まれるきっかけが、あの猫たちのいる場所で起こっていたということに、ただただ驚きました。


ということで猫たちのいる場所から坂道を登って墓のある場所までビデオで撮ってきました。




実は猫たちのいる場所に行くまでも緩やかな坂で、そこから立ち止まることなく結構急な坂を登って行ったので、正直息が切れかけていたんですが、ハアハアと息しているのが入らないようにするのって大変ですね。観察映画の大変さを少し知ることができました。


さて、墓のある場所に着いたものの、あのカットが撮られた場所は見当たらない。もう少し山を登ってみたら、もっと大きな墓地が広がっていたので、あちこち歩き回ったんですが、残念ながら見つかりませんでした。墓はさらにその山の向こうにも点在していて、それらをくまなく探すのは無理だなとあきらめました。戻って改めてあのカットをよく見たら、左の奥に見える山がポイントだったなと(山の入れ方も『東京物語』と似ています)。また、改めて行ってみます。


それはさておき、この山の上の方が墓地になっていたということは、物語的にあとにつながっていたんですね。


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by hinaseno | 2018-04-30 12:35 | 映画 | Comments(0)

牛窓暮色(その5)


昨日の夕方、ちょこっと牛窓に行ってきました。いくつか確認したい場所があったので。暮色までの時間はいれなかったけど。

その話の前に、ひと月前に牛窓に行ったときに撮った写真をもう一枚。『港町』に倣ってモノクロで。

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牛窓にはいい路地がいくつもありますが(まだ歩いたことのない路地もいっぱい)、ここは一番好きな路地の奥の方。牛窓で最もディープな感じの場所といってもいいかもしれません。古い街並みが続くしおまち唐琴通りから入るんですが、何度行ってもどこから入るんだっけ、となります。

で、昨日、そのしおまち唐琴通りからこの場所までの風景をビデオで撮ってきたのでそれを貼っておきます。途中、別の路地からおじさんが出てきて、ちょっと動揺しています。



ビデオに映っているように、この路地、突き当たりに階段があるんですね。それを登ると妙福寺というお寺があります。そのお寺には木蓮の木があって、3月末になるとそれを見に行ってます。

ここの一番の見所は、その階段の手前にある井戸。そこにいつもびっくりするくらい多くの猫がいるんですね。

でも、先月、久しぶりに行ったときにはそこに猫が一匹もいなかった。一体どうしたんだろうと。

ちなみに上に貼った写真はその階段の手前を左に曲がって山の上に登る坂道を撮ったもの。いい感じの坂道だったので、また今度来たときに登ろうと思っていたら、『港町』でまさにそこを登っていくシーンが出てきてびっくり。


ところでこの場所を見つけたきっかけのこと(以前書いていたような気がしましたが書いていなかったですね)。想田さんが牛窓でいろいろと撮影しているのを知った少し後、ニコニコ食堂のそばの小料理屋さんに行ったら、最近牛窓を舞台にした映画が撮られて、それが上映されたばかりだということを教えてもらいました。それが『晴れのち晴れ、ときどき晴れ』という映画。主演はEXILEの人ですがよく知りません。

DVDが発売されてすぐに借りて観ました。この映画、あのニコニコ食堂が舞台になっていてびっくりだったんですが、正直ストーリー的にはどうでもいいような映画(怒られる?)。

ただ、ひとつ印象に残った場所があったんですね。それが主演の白石美帆さんが座っていたこの石段のある路地。

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次にこの石段の上から下の路地を撮ったシーンも映りました。

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ここはいったいどこだろうと思って、この写真を持って小料理屋さんに行き、場所を教えてもらいました。

妙福寺というお寺の近くだと。でも、見つけるのは大変でした。で、ようやく見つけたらそこに猫がいっぱいいたんですね。20匹くらいはいたんじゃないかな。

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そしてそこで撮った写真を一枚投稿しました。たぶんこの写真。

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そうしたらなんと想田さんからリプが来たんですね。「そいつ、知ってる」と。びっくりやら、うれしいやら。それがちょうど5年前のことでした。

でも、その猫たち、3年前に公開された『牡蠣工場』には出てこなかったんですね。


それが今回の映画では、しっかりと映っていました。あんなに多くの猫がそこにいる理由も。

その理由がよくわかっただけに、ひと月前に行ったときに猫の姿が全く見えなかったことが気になったんですね。もしかしたら何らかの事情で猫への贈与のラインが閉ざされる事態が生じたのではないかと。


というわけで今回、改めてその場所に行ったら、上のビデオに映っているように井戸のそばに2匹の猫がいました。少なすぎるけど。

しばらくその場にいたら、隣の家の、猫用に作られた通り道からこちらをのぞいている猫を発見。警戒しながらも大丈夫と思ったようで、一匹出て来たら、さらにもう一匹。どうやら家の中で贈与が行われているようでした。



ところで『港町』では、猫に餌を与えている人に「色々とトラブルがあるんじゃないですか」と聞いていたときに一人の女性がその場に登場します。女性の着ているジャンパーの背中には「DOG HUNTING」との文字。どきっとするけど、でも何だか笑えるシーン。映画館でも笑いが起きていました。

この女性の登場はもちろん偶然だったはずですが、最初に貼った坂道はまさにこの女性が登っていくことになるんですね。で、登って行ったところにあったのが、予告編でどこだろうと一番気になっていた場所でした。

ということでその坂道を登ってきました。


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by hinaseno | 2018-04-29 13:08 | 映画 | Comments(0)

牛窓暮色(その4)


ひと月前に牛窓で撮った写真をもう1つ。前回とは別の建物から撮ったものです。

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ここはとにかく感動しました。

いつものようにニコニコ食堂の近くに車をとめて、そのあたりを歩いていたら、ニコニコ食堂の並びの一番奥の建物(川源のそば)の二階の窓に人の姿が見えたんですね。窓の方を向いて座って外を見ながら何かを飲んでいるような感じ。なんだろうと思って近づいてみたらどうやら新しくできた店。

匙屋と書かれた小さな看板がありました。新しい店とは言っても、以前からそこにあった古民家を再生したもの。匙屋さんは通常は手作りの木製の匙を売っているようですが(1階はたぶん作業場)、ときどき2階のスペースを使ってイベントをしていて、僕が行った時にはたまたまカフェをやっていたんですね。

で、中に入ったら運良く窓際の席が空いていました。ラッキー。


目の前は牛窓の港。向こうには海と島。右手にはやはりかつての女郎屋の風情をそのまま残した建物も見えます。

現在匙屋となっているこの建物もかつてはおそらく女郎屋だったはずで、この2階からは何人もの遊女たちが港にやってくる船を眺めていたにちがいありません。彼女たちが見ていたのと同じ風景が目の前に広がっているわけです。興奮しないわけにはいきません。


ところで下の広場は牛窓行きのバスの終点の場所になっていて、こんなふうに1時間に1回くらいの割合でバスが入ってきます。川本三郎さんもかつてこのバスに乗ってこの終点までやってこられたんですね。

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広場の奥にはバスの停留所とバスに乗る人が自転車を止めるための小さなプレハブの建物が見えます。

このバス停と建物、『港町』でこんなふうにとらえられているんですね。

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向こうに見えているのが、まさに僕が今回入ることができた建物です。映画が撮影されたときにはもちろん匙屋さんはありません。

そして、この建物のすぐそばをあの独特の足音を響かせながら歩いていたのがクミさんでした。

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このシーン、『港町』本予告編のラストに映っています。




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by hinaseno | 2018-04-26 17:56 | 映画 | Comments(0)

牛窓暮色(その3)


『港町』を見るちょうどひと月前、半年ぶりに牛窓に行ったときに、古民家を再生した新しい店やイベントスペースがいくつかできているのを発見しました。そのうちの1つ、御茶屋跡という建物からとったのがこの写真。

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去年の夏、右下あたりに見える海沿いの場所で、『牡蠣工場』に(もちろん『港町』にも)出てくるシロという猫に会ったんだなと思って眺めていたんですが、今回の『港町』のワイちゃんの船が置かれていたのがまさにこの場所でした。停泊している船のひとつがワイちゃんのものかもしれない。

つまりワイちゃんにとってはここが港。漁に出る前や戻ってきてからの作業もすべてここでやっていました。

そしてここにもう一人の主役、クミさんが登場します。


これは今回の『港町』の映画の舞台となった場所の地図。

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僕が牛窓で一番よく歩いていた場所と見事なほど重なっています。ニコニコ食堂も川本三郎さんが初めて牛窓にこられた時に宿泊された川源もこの中にあります。映画に登場する魚屋さん、猫がたくさんいる場所、「DOG HUNTING」と書かれたジャンパーを着た女性が向かった墓、そして映画の最後、クミさんが向かった丘も全てこの地図の中に含まれています。

ちなみに昨日のブログで雨のウェンズデイ的風景を撮影したのは左上の瀬戸内きらり館の前でした。


赤い矢印は丘に向かう時にクミさんが歩いた(性格には駆け足)コース。赤丸はクミさんが”あの話”をした場所。現在、病院のある場所の近くへは南側の石段を登って行ったことはありますが、クミさんが通った道は知りませんでした。


道の途中にある街角ミュゼ牛窓文化館は何度か入ったことがあります。ひと月前、その街角ミュゼ牛窓文化館の前の道を歩いていた時に、その向かいに御茶屋跡(青い四角)という古民家を再生したイベントスペースができていることに気づきました。上に貼った写真はその建物の2階から撮りました。


僕が牛窓にいるのはせいぜいお昼前後から夕方くらいまでですが、『港町』に撮影されている多くの重要なシーンは、早朝や日没後という、僕の知らない時間帯に起こっていることばかり。そしてその時間に異界のような世界が口を開けていたとは…。


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by hinaseno | 2018-04-25 14:43 | 映画 | Comments(0)

牛窓暮色(その2)


『港町』というタイトルについて少し。

以前にも書きましたが、牛窓は昔、帆船の時代には瀬戸内海を航行する船の寄港地、いわゆる「風待港」(この「風待」が僕の中で「風街」につながったことは言うまでもありません)として栄えていました。

これは昭和10年ごろに撮影された牛窓の海の風景。

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こんなふうに風まかせ、潮まかせの船が牛窓に立ち寄っていたんですね。

で、そんな港町に発達したのが女郎屋。今も数件だけ建物が残っていて、『港町』にも何度か映っていました。


大正時代ごろから機械で動く船が登場して、次第に牛窓は寄港地としての役割を失っていきます。今は正直「港町」という感じではありません。前島へのフェリーの港があるくらい。ああ、でもちょっと離れた場所に大きなヨットハーバーがありますね。映画では映らなかったけど。


ところで「港町」の英語のタイトルは「港町」を表す「Port Town」ではなく「Inland Sea」。「Inland Sea」というのは内海、つまり瀬戸内海のことです。

瀬戸内海はとても広いけれど、かりに大阪の方から西に船で進んだとすれば、瀬戸内海らしさが出てくるのは赤穂を過ぎて牛窓に近づいたあたりからなんですね。といっても実際に見たわけではないけど。

ただ、わが荷風が敬愛する成島柳北が例の『航薇日記』で、大阪から岡山に向かう航海の、牛窓の港に入る直前に、こんな言葉を書いているんですね。


「薇陽は風景播州よりも勝りたるところ多し」

今はもう失われてしまっているけど「薇陽」という表現がいいんですね。ここから瀬戸内海は瀬戸内(せとうち)と親しみを込めて呼びたくなるような島々が点在する風景が続くことになります。


ところでひと月前、久しぶりに牛窓に行ってきました。

ワーゲン(「壊れかけ」じゃないけど)が停まっていたので、「雨のウェンズデイ」的風景を撮ってみました。想田さんに倣ってモノクロで。

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でも、なんだかかなりイメージが違う。別れの予感が少しも感じられない。目の前に並ぶ島々が、あまりにも優しすぎるんですね。

ちなみにこの場所、映画でクミさんが魚の干物(だったっけ?)を持っていった家のすぐ隣です。


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by hinaseno | 2018-04-24 15:51 | 映画 | Comments(0)

牛窓暮色(その1)


愛する海街、牛窓(牛窓は「海街」というより「海町」ですね)を舞台にした想田和弘監督の映画『港町』を観てきました。


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素晴らしいの一語。前作の『牡蠣工場』ではカットされていた、僕が牛窓で最も愛している風景が次から次へと。それもとびっきり美しい映像で。そしてそこで展開される物語のすごさたるや。

ただ、ご存知の通り、映画や本などのレビューを書くのは苦手。できればぜひ映画を観てください。


というわけで、ここに書くのは映画そのものについての話ではなく、いつものように映画と自分との関係性を書くことになります。きっと自分一人で「そういえば」「そういえば」を繰り返しながら、話はあっちへ行ったりこっちに行ったりすることになりそうです。


映画が始まって、映画がモノクロであることと、そして今回の映画の主役のひとりであるワイちゃんというかなり高齢の漁師が、小津や成瀬の映画で脇役をやっている東野英治郎に似ていることもあって、すぐに小津や成瀬の映画のことを思い浮かべました。

そういえば今回『港町』のパンフレットにコメントされている是枝裕和監督は、同じ海街である鎌倉を舞台にした映画を撮るときに、鎌倉といえば小津ということになることを知りつつ、あえて成瀬の方を強く意識して撮影したそうですが、もし、想田さんが意識していたとするならば、描かれている風景や物語(死者との向き合い方)を考えると小津に近いかなと感じ、小津の『晩春』から『東京暮色』にかけてのモノクロの映画(『晩春』『麦秋』『東京物語』『早春』『東京暮色』)をぼんやりと頭に思い浮かべながら映画を観ていました。


そうしたら映画の後のトークイベントで、想田さんが当初映画のタイトルは『港町暮色』だったと言われて、小津の『東京暮色』とつながって、思わずわおっ、となりました。ただ、想田さんは映画の重要なシーンが夕暮れ時に起こっていたということからそのタイトルを思いついたということで、小津のことには触れなかったけど。

映画の後、家に戻って想田さんの『観察する男』を開いて(映画を観る前に読み直そうかと思ったけどやめました)、どこかに小津のこと書いていたような思って調べたら、想田さんが映画監督になろうと考えた理由のひとつに小津の映画と出会いがあったったことを書かれているのを発見。ちなみに想田さんが小津の映画と出会うきっかけになったのは川本三郎さんが書かれていた『晩春』に関する小さな記事だったそうです。


さて、映画を観て気がついたことといえば、観ているとき、あるいは観た直後に気づいたこと、1日経って気づいたこと、2日経って気づいたことなど、いくつもあるんですが(こういうのがあるからレビューって書けない)、今日、つまり2日たって気付いたことを。


僕はここ数日、平川さんと松村さんの対談をずっと聴き続けていたんですが、実は映画館に行く車の中でも聞いていました。で、面白いことに、そこで語られていた話が不思議なほどに映画と共鳴していたことに気がついたんですね。お二人が語っていたこと、時間があればきっと語ったであろうことを、牛窓という場所を舞台にして映画にしたら、きっとこうなるんじゃないかと思ったくらいに。


想田さんの牛窓を舞台にした前作『牡蠣工場』には、グローバル経済という大きな市場が岡山の外れの、小さな海辺の町にも押し寄せているという話だったんですが、今回の映画に描かれているのは、かなり縮小したとはいえ、牛窓にずっと昔から続いている小さな経済の循環。そして忘れてはならない贈与。平川さんや松村さんの話につながっているなあと、ふと今朝、思いついて、で、ブログに貼る写真を探していたら、たまたま見つけたのがこの中島岳志さんと想田和弘さんの対談でした。

前回、中島岳志さんのことも書いたばかりだったんでびっくり。で、その中でこんな会話が出てくるんですね。ぼんやりと考えていたことを見事に言葉にしてくれていました。


中島:お墓の近くで猫に餌をあげている人も登場しましたが、あの「猫」の存在も重要だと思いました。ただ和むというだけではなくて(笑)、想田さんがおっしゃるように、カメラが魚の行方を追ううちに、経済の円環と言うべきものが見えてくるのですが、その円環の最終地点がここでは実は猫に魚を与えるという「贈与」なんですね。漁師から市場、市場から魚屋までは一般的な貨幣経済なのですが、魚屋さんがさばいた魚のアラをバケツの中に入れ、それをもらっていったお客さんが、わざわざ料理して猫にやっているわけです。
 つまり、この社会の経済のサイクルのどこかには、マーケットとは違う別の原理が働いていて、それも含めて一つの経済の円環をつくり上げているということを象徴している場面だなと思いました。その「マーケットと違う原理」は、現代社会の主流ではないかもしれないけれど、長い歴史の流れの中で見れば主旋律になるような部分なのではないかと思います。
想田:おっしゃるとおりですね。経済サイクルの中のその「贈与」の部分がなくなった時に、社会は非常に生きにくくなるんじゃないかという気がします。
 現代における「経済」というと、なんというか「奪う」イメージですよね。モノを少しでも高く売りつけて自分のお金を増やすことが大事で、「自分の利益は他者の損」というようにイメージされることが多い。でも、本当の「経済」というのはそうではないのではないか。「奪う」経済だけの社会には、あまり楽しい未来は待っていないのではないかと思っています。

この猫への「贈与」に関してはパンフレットに掲載された平川克美さんのコメントにも書かれています。確か中島さんはこの対談の少し前に平川さんとも対談されて平川さんの『21世紀の楕円幻想論』についての話もされているんですね。そのあたりの影響がどれだけあったかわかりませんが、ここで二人が語っていることは、僕が今、聴き続けている平川さんと松村さんの対談の話と驚くほどぴったり重なっています。それだけでなく、その前で語られている「死者」のまなざしの話も、そのあとの「近代」のことも、すべて平川×松村対談の重要なキーワードとして出てきているんですね。

というわけで、次なる平川×松村対談ではぜひ『港町』の話をしていただけたらと思います。


さて、映画には、僕にとってたまらない風景がいくつも出てくるんですが、一番心を打たれたシーンは、獲った魚がセリにかけられたあと、その漁協を立ち去る時のワイちゃんの後ろ姿。貨幣というものが支配する場(そこにはまだ言葉の贈与を行う人もいる)を後にして自然からの贈与の場へと戻るワイちゃんのかなり曲がった背中は何を語っているんだろう。


ところでこれは想田さんが自撮りされたもの。想田さん、あちこちでされてたんですね。この中に映っていたので記念に貼っておきます。

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by hinaseno | 2018-04-23 16:13 | 映画 | Comments(0)

今日は4月21日。

21日というのは余白珈琲さんから焼きたての珈琲豆が届く日。午前中のほぼ定刻に、いつもの感じのいい郵便配達の人が届けてくれました。今はそれを飲みながらこれを書いています。

今回、大石くんは、先日僕がブログに貼っていた、大瀧さんが作った三ツ矢サイダーのCM曲を聴きながら豆を焼いてくれたそうです。ってことで、言うまでもなく今回の珈琲は”サイダーのようにさわやか”な味。この季節にぴったり、です。

それから今回、「贈るコーヒープレジェクト」の豆が送られてきました。誰に贈ろうかと考える時間も愉しいです。もう決めたけど。

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さて、ちょうどひと月前の3月21日に隣町珈琲で行われた平川克美さんと松村圭一郎さんの対談のこと、面白くて何度も聞き返しています。もう5回は聴きました。2時間近い話ですが、ちっとも飽きないんですね。


その対談の最初の方で、「世代」に関して興味深いやりとりがありました。

松村さんのこんな言葉から。


「なぜ違う世代の(松村さんが42歳で、平川さんが67歳で25歳、つまりひと世代違う)考えていることとか、考えようとしていることが、なぜ共鳴し合っているのか、というのは考えるに値する問いなのではないか」

確かに、これは考えるに値する問いです。

考えてみたら僕と余白珈琲の大石くんともだいたいひと世代違っているけど、同じような考え方をしています。彼が書いていること、やろうとしていることに激しく共鳴している自分がいます。


で、面白いのは彼が「贈るコーヒープレジェクト」を始めたのはまだ松村さんの『うしろめたさの人類学』を読む前だったということ。松村さんの本を読んで、影響を受けて始めたというわけではなかったんですね。

僕が松村さんの本のことをブログに書いて、で、それを手にとって、激しく共鳴するものを感じたようです。でも、そこには不思議な縁があって、たまたま彼らが京都のミシマ社を訪ねて行ったその日に、まさに松村さんの『うしろめたさの人類学』の出版に向けての作業をしていたと。

で、僕が松村さん経由で強い関心をもった塩屋に、今、彼らは移り住んでいる。店は持っていないけど、豆を焼いている自宅は基本的に開放、いつでもお立ち寄りくださいという形にしている(来月行く予定)。

さらに興味深いのは移り住んだと同時に近くに小規模の畑を手に入れたとのこと。これは岡山に来て聞いたタルマーリーの渡邊さんの話に影響を受けたこともあるようです。できるだけ自然に近い場所にいようと、日々土に触れ、何かを育てていくようです。

本当に面白いですね。

ミシマ社関係の本やネットに掲載された記事をいくつか読んだ影響もあるのかもしれませんが、20代後半でありながら、同じような考え方、共鳴し合えるものを持っている。


ところで、昨日気がついたことですが松村さんが生まれたのはいつだろうかと調べたら1975年でした。

そうか1975年か! と。


1975年といえば、平川克美さんの『21世紀の楕円幻想論』の中で、楕円のイメージを考える上での例として引き合いに出された「木綿のハンカチーフ」が生まれた年。松村さんが生まれたのは9月11日(この日はいろんな意味で重要な日)なので、「木綿のハンカチーフ」が発売される数ヶ月前ということになりますが、こういうのって面白いですね。松村さんのご両親はまさに「木綿のハンカチーフ」を聴きながら松村さんを育てていたかもしれません。


で、1975年といえば、少し前にブログで触れた中島岳志さんも1975年生まれですね。中島さんは政治学が専門ですが、平川さんと同じような考え方を持たれている(隣町珈琲のある荏原中延にお住まいですね)。

その中島さんや平川さんと同世代の高橋源一郎さんが出演された『100分deメディア論』は本当に素晴らしい番組だったんですが。今日の深夜(実際には明日の午前0:30~2:10)に再放送されるそうです。この番組のポイントは、これが収録されたときには、今ニュースで大きく問題になっていることがまだ明るみになっていないときだったということ。中島さんのひとつひとつの発言はどれも得心のいくことばかりですが、でも何よりもいいのは中島さんの語り口なんですね。なんとなく松村さんに似ているところがあるなと思っていたら、同じ年の生まれだったとは。


ちなみに昨日のブログで、松村さんと対談してもらいたいということで書いた想田和弘さんは1970年生まれ。

今日はこれからその想田さんの映画『港町』を見に行きます。


最後に、1975年ということで忘れてはならないことがありました。1975年といえば、大瀧さんの最高にして最大の作品である「ゴー!ゴー!ナイアガラ」が始まった年でもあります。

内田先生も、アゲインの石川さんも、それをたまたまある日聞いて、文字通り人生を変えるほどの影響を受けたんですね。


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by hinaseno | 2018-04-21 12:36 | 雑記 | Comments(0)

先日のブログで、アゲインで行われた内田樹先生と平川克美さんのトークイベントのことで、最後にライジオデイズで発売されたコンテンツに後半の小田嶋隆さんが加わってのトークが入っていなかったので、それも聞きたかったなと書いたら、アゲインの石川さんから速攻でそれを録画したものを送っていただきました。いつもいつもありがとうございます。

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内容は予想通りめちゃくちゃ面白かったんですが、結論から言えばトークの中で何度も言われていたように、公にはできない話(例えば、とある国の首相のIQのこととか)の連続で、仮に編集してもピー音だらけになってしまって、コンテンツにするにはとても無理だということがわかりました。


で、そのラジオデイズから待望のコンテンツがようやく発売されました。コンテンツのタイトルは「うしろめたさと楕円幻想」。

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先月のナイアガラデイ(3月21日)に隣町珈琲で行われた平川さんと松村圭一郎さんのトークイベントを、たぶん編集もなくそのまま収録したものですね。

内容は期待をはるかに超えたもの。これまで平川さんの対談を数多く聞いてきましたが、最高の部類に入るのではないかと思います。それは実際に話をされた平川さん自身も感じられていたようで、後半の初めに平川さんがこんなことをおっしゃっていました。


「今日僕は気分がいいんですよ。いいダイアローグというのは、お互いに『そういえば』『そういえば』というふうに物語を思い出していく。今日、わりとそういう感じで」

まさにそうだったんですね。一方が語ったことで、もう一方が別の話を思い出して語りだす。話がとっちらかるとか、それぞれが自分の知識をひけらかすとかということではなくて、そう、まるで、珈琲豆が気持ちよく楕円に膨らんでいくような感じ。初めて聞くような平川さんの話がいくつもありました。

最後、時間切れという形で対談が終わりましたが、まだまだ話が続きそうな雰囲気。このダイアローグ、ぜひ続けて欲しいですね。次はぜひ岡山で。


松村さんといえば、昨夜、表町商店街に昨年オープンしたヒバリ照ラスという場所で「エチオピアン・ナイト」というトークイベントが開かれたので行ってきました。

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開演前に松村さんと少し話。平川さんとのトークに出てきた”あの話”のことなどを。


で、「エチオピアン・ナイト」、素晴らしかったです。松村さんがエチオピアで撮影した写真や映像などを、エチオピアのいろんな種類の音楽を流しながら紹介してくれたんですが、刺激的なものばかり。遠く離れた国でしかなかったエチオピアのことが、さらに身近になりました。松村さんのおかげでそういう人、岡山に確実に増えていますね。


その松村さんは、現在、スロウな本屋さんで「寺子屋スータ」という勉強会を始められているんですが、新たにヒバリ照ラスで「ヒバリ人類学」というのを始めるそうです。岡山に関係のある人を呼んで松村さんと対談形式のトークイベントを定期的にやっていかれるとのこと。楽しみですね。時間の都合がつけば是非参加しようと思います。


それにしても松村さんの、岡山のあちこちでのスキマ作りの活動、素晴らしいですね。昨日もそうですが、松村さんの作ったスキマにはいつも気持ちのいい風が吹いています。

対談相手の希望があればと言われていたので、家に戻りながら考えたんですが、明日、岡山で公開される牛窓を舞台にした映画『港町』の監督である想田和弘との対談を聞いてみたいなと。想田さんもミシマ社から本を出しているのでミシマ社企画でいけそうですね。タイトルは「観察する男とスキマを作る男」でどうでしょうか。

想田さんの映画は明日観にいくつもり。これも楽しみすぎます。


最後に昨日の松村さんのイベントで流れていた曲、Shazamでチェックしていたんですが、とりわけよかったのがムラトゥ・アスタトゥケ(Mulatu Astatke)というアーティストのこの「Tezeta」という曲。




ムラトゥ・アスタトゥケというのは「エチオ・ジャズ」の生みの親として知られているそうです。「Tezeta」の邦題は「哀愁」。松村さんがエチオピアで撮影した映像(教会に行くシーンだったかな)にこの曲がとてもよく合っていました。


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by hinaseno | 2018-04-20 15:18 | 雑記 | Comments(0)

七尾旅人さんのことなど


『伊藤銀次 自伝 MY LIFE, POP LIFE』、ようやく読了。でも、僕にしてみたら”一気読み”したほうですね。

本の最後の方で銀次さんは「他者との関係性の中での音楽」ということを僕らはもっと考えないといけないと主張されていました。「僕」ではなく「僕ら」という言葉で。

改めて考えてみたら銀次さんというアーティストはまさに「関係性」の中に生きてきたような気がします。それは本人の意思というよりも、多くのきっかけは「たまたま」なんですね。もし、そこに銀次さんがいなければということがあまりにも多い。


近年、銀次さんが関わりを持ったアーティストで、ちょっと驚いたのは七尾旅人さんと接点があったこと。これは知りませんでした。

七尾旅人というアーティストを知ったのは青葉市子さん経由でした。ある時期、青葉さんは七尾旅人さんと一緒にいろんな活動をしていたんですね。彼の「サーカスナイト」という曲をカバーしたりもしています。




そういうこともあって一時期、七尾旅人の曲をいろいろと聴いていました。


その七尾旅人がまさにデビューするときに銀次さんが関わっていたとは驚きでした。彼の4曲入りのデビュー・シングル「オモヒデ オーヴァ ドライヴ」をプロデュースしたのは銀次さんでした。


七尾旅人さんのことは本でもいろいろと書かれていましたが、銀次さんのブログに、ある人が書き込んだコメントの返事として七尾旅人さんとのことをかなり詳しく書いていたのでそちらを貼っておきます。2011年7月に書かれています。


1990年代、僕はソニー系の音楽出版出版社にいました。毎年たくさんのデモテープが送られてきました。1997年だったか1998年、そのテープの山の中から、群を抜いてすばらしい声と美しいメロと個性的な詞のアーティストを見つけました。ギター1本の伴奏による、録音状態も決してよくないテープでしたが、強力に惹き付けられるものがありました。それが七尾旅人君。まだ 若干18歳でした。
初めてその出版社のスタジオに来て歌ってもらった日のことを今でもよく覚えています。故郷を離れるとき持ってきたというアコギの弦はサビサビでした。弦を張り替えてから、次から次に歌ってくれる曲と声の素晴らしいこと。天才に出会えたと思いました。
その中の1曲が「オモヒデ オーヴァ ドライヴ」に収められた「八月」です。この曲を聞くたびに、僕はいつでも10代にタイムスリップしてしまいます。
とにかく早く彼の存在を世に知らせたいと、彼の弾き語りに、ピアノやフィドルを加えただけのシンプルなサウンドでレコーディングしました。フィドルには元シー・トレインのリチャード・グリーンも参加してくれた、いきなりのロサンゼルス録音でした。
さていざアルバムを作ろうという段になると、旺盛な好奇心とどん欲な探究心を持っていた彼の頭の中に広がっていたのは、僕がイメージしていたシンガーソングライター的なサウンドではなく、ありとあらゆるサブカルチャーな音楽を取りこんだものでした。僕には予期せぬ出来事で、なんとか1枚アルバムを作りましたが、残念ながら袂(たもと)を分つことになりました。
ここ最近の旅人君の活躍ぶりには目をみはっています。いままで僕がプロデュースしたアーティストの中でも、飛び抜けた才能と独立心、持久力の持ち主でしたから、きっと、こんな日がくると信じていました。
その旅人君が佐野君の「ザ・ソングライターズ」に出演とは、不思議なめぐりあわせを感じています。

最後にも書いていますが、僕がちょうど七尾旅人さんに興味を持った頃、彼がNHKの番組『佐野元春 ザ・ソングライターズ』にも出演したんですね。もちろん見ました。

「八月」もいい曲です。


ところで青葉市子さんの話が出てきたので彼女のことを少し。

彼女、先週末、姫路に来ていたようで、ハルモニアというライブハウス(昔ここで青葉さんのライブを見ました)で行われたチクチクホイというグループのライブで飛び入りで演奏したようです。

で、そこから近い、あの回転展望台のある手柄山中央公園にも行ったようですね。もちろん船場川を渡って。彼女のライブもまた見たいな。


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by hinaseno | 2018-04-18 12:07 | 音楽 | Comments(0)

「詩ぃちゃん Vol.2.5」


ひと月ほど前、おひさまゆうびん舎でいただいた「詩ぃちゃん」というフリーペーパーのことを紹介しましたが、その「詩ぃちゃん」の「Vol.2.5」号ができて、それがコンビニのネットプリントで印刷できることがわかったので、早速コンビニへと向かいました。


でも、ネットプリントって初めてだったので、どこのコンビニに行ったらいいのか、どうやってやればいいのかよくわからず、とりあえず家からいちばん近いファミリーマートへ。でも、できなかったんですね。店の人にも手伝ってもらって、いろんな可能性を試してみましたが何度やってもダメ。

仕方なく、次はローソンに。でも、ここでもやはりダメでした。

困っちゃったなと思って、一旦家に戻ってちょっと調べてみたら、どうやらセブンイレブンでやれそうなことがわかったので、近くのセブンイレブンに行ってやってみたらうまくできました。

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ってことで、ちょっと手間取って手に入れた「詩ぃちゃん Vol.2.5」、初めて読んだVol.2同様に、心に響く言葉、表現があちこちにちろばめられていて、読んでいて幸せな気持ちになります。きっと彼女自身が言葉を綴ることに心から幸せを感じているからなんでしょうね。


ところで今回の「詩ぃちゃん」はVol.3ではなくVol.2.5。前回のVol.2の最後に掲載されていた「詩ぃちゃん通信」は前回がVol.1だったので、今回はVol.1.5。こういうスキマ感がいいですね。


今回も、一人の詩人を取り上げていました。

粕谷栄市。

恥ずかしながら知りませんでした。でも、どこか親しみを覚えてしまうのは、いうまでもなく名前が「えいいち」だから。

彼の詩に関して彼女はこう表現しています。


「この世らしくない、でありながら、とても身近な出来事のような気もするし、ともすれば現実よりも現実めいているような、そんな世界。温度と湿度があり、この世の匂いがします」

いい表現。

彼女が紹介している『世界の構造』、また、どこかで見つけたら手に取ってみようと思います。これも縁なので。

Vol.3では誰を紹介してくれるのか楽しみですね。


「詩ぃちゃん Vol.2.5」。セブンイレブンでネットプリントできます(セブンイレブンだけなのかどうかはわからないけど)。やり方がわからなければ店員さんに聞けば、きっと教えてくれるはず。印刷代は60円。予約番号は7SF3KC4Q。有効期限は4/28とのことです。


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by hinaseno | 2018-04-17 13:02 | 文学 | Comments(0)