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by hinaseno
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2019年 06月 08日 ( 1 )



「チョコレート・ガール」という言葉を聞いてピンと来る人ははたしてどれくらいいるんだろう。

先日、SNSに流れてきた言葉の中に「チョコレート・ガール」という文字を見つけ、思わず目を留めてしまいました。

よく見たらそれは最近出たばかりの本のタイトル。


『チョコレート・ガール探偵譚』


筆者はなんと吉田篤弘さん。そこには主演女優である水久保澄子の名前も書かれていたのでまちがいない。

成瀬巳喜男の戦前の幻の映画『チョコレート・ガール』。


成瀬に『チョコレート・ガール』というタイトルの映画があったことを知ったのは、昭和初期の西大寺商店街を調べていたときのこと。昨年の暮れに書いたこの日のブログで紹介しています。西大寺商店街に戦前から映画館がいくつもあったことを知ったので、松田完一著『岡山の映画』(岡山文庫 昭和58年発行)を読んでみたら成瀬の『チョコレート・ガール』の話が書かれていたんですね。それは昭和7年のこと。当時松田さんは10歳か11歳。こう書かれていました。


松竹映画「チョコレートガール」は売出しのチョコレートを主題にした明治製菓とのタイアップ作品だが、監督の成瀬巳喜男の水々しい感覚と的確な映像表現で、上京する姉が、駅まで見送りに来た弟に投げ与えたチョコレートが、勢あまって線路に落ちてしまい、そのまま汽車は遠ざかるラストシーン。成瀬巳喜男のその後の成長を暗示する見事な映画であった。


僕はこのあと「これ、見たいですね。フィルム。現存するんでしょうか」って書いています。で、もちろんこれを書いた後、成瀬の『チョコレート・ガール』をいろいろと調べました。でも、どうやらフィルムは失われていることがわかったんですね。主演の水久保澄子はアイドル的な人気を得ていたようで『チョコレート・ガール』はまさに幻の映画という感じ。


興味深いのはこの映画が公開された昭和7年。

昭和7年公開の映画といえば何といっても小津安二郎の『生れてはみたけれど』。そう、平川克美さんが隣町探偵団で、まさに探偵したあの映画です。製作は『チョコレート・ガール』と同じく松竹蒲田。『生れてはみたけれど』の公開は6月で『チョコレート・ガール』の公開は8月。突貫小僧が両方の映画に出ていますね。

川本三郎さんが『郊外の文学誌』の「小市民映画の生まれたところ 蒲田とその周辺」で、島津保次郎の『隣の八重ちゃん』や、小津の『東京の合唱』『生れてはみたけれど』など、松竹蒲田で作られた郊外を舞台にした小市民映画に触れて、「小市民映画とは、この昭和6年の満州事変と昭和12年の支那事変(日中戦争)との間の安岡章太郎のいう『平和な安穏な休憩期間』『一瞬の繁栄期』に作られた、豊かな都市郊外生活者の映画だったということが出来る」と書いていますが、『チョコレート・ガール』もまさに「平和な安穏な休憩期間」「一瞬の繁栄期」に松竹蒲田で作られた映画で、とすれば『生れてはみたけれど』と同様に目蒲線か池上線あたりでロケされた可能性も高く、映画を観たい気持ちは高まる一方でした。

吉田篤弘さんは『チョコレート・ガール』についてどれだけ調べ、どんな物語に仕立て上げたんだろう。読むのが楽しみでなりません。


と、ここまで書いて一昨日にアップしようと思っていたんですが、時間がなく、で、昨日、『チョコレート・ガール探偵譚』を買ってきました。

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装幀はもちろんクラフト・エヴィング商會。なにからなにまで最高ですね。ところでこの本、帯を見たら「金曜日の本」との文字。どうやら「金曜日の本」というシリーズで出したのかもしれません。


「金曜日の本」といえば、これも何度か書いたような気がしますが僕が吉田篤弘さんに注目するきっかけとなった『おかしな本棚』で、最初に驚いたのが「金曜日の本」と題されたページでした。

そこに『ぼくは散歩と雑学が好きだった。 小西康陽のコラム1993-2008』と川本三郎さんの『銀幕の東京』が並んでいたんですね。それから少し離れたところには小川洋子さんの中で一番好きな小説『猫を抱いて象と泳ぐ』もあって、これだけでこの人とは趣味がぴったりだ! と思ったものでした(ちなみに後で知った本では『猫を抱いて象と泳ぐ』のとなりには映画『森崎書店の日々』に『昔日の客』とともに映った野呂邦暢の『愛についてのデッサン』があり、隣のページにはジャック・フィニィの『ゲイルズバーグの春を愛す』もある)。


これらの本の中でとりわけ川本三郎さんの『銀幕の東京』は映画のロケ地を歩くためのバイブルのような本で、大瀧さんの成瀬巳喜男研究も平川克美さん&隣町探偵団の『生れてはみたけれど』研究もこの本あればこそ。僕もやはりこの本で小津の『早春』に出会い、さらに1昨年に武蔵新田を歩いたのも、この本で取り上げられていた川島雄三の『銀座二十四帖』に出会ったから。

ということなので吉田篤弘さんの『チョコレート・ガール探偵譚』も、おそらくは川本三郎さんの『銀幕の東京』を意識、あるいは影響で書かれたものに違いありません。

いや、さらに読むのが楽しみになりました。


で、すぐに読もうと思っていたんですが、実は今、この4月に出た本を2冊同時に読んでいるんですね。それが『わたくしのビートルズ 小西康陽のコラム1992-2019』と、山極寿一、小川洋子著『ゴリラの森、言葉の海』。

小西さんの本はまさに「金曜日の本」のページに載っていた『ぼくは散歩と雑学が好きだった。 小西康陽のコラム1993-2008』の続編。約10年ぶりですね。ちなみに先日、尾崎一雄の『人生風景』を見つけた古本屋は小川洋子さんの生まれ育った”教会”のすぐ近くで、店の行き帰りに”教会”の前を通りました。

なんだかつながっていますね。

小西さんの本は内容がぎっしりなのでまだ50ページあたりを読んだところ、それから『ゴリラの森、言葉の海』はちょうど半分読んだところ。中断してこれから吉田篤弘さんの『チョコレート・ガール探偵譚』を読むことにします。

もしかしたらですが吉田さんが本を書くときに、僕が昨年にちょこっと書いていたことを読まれていたかもしれないと思いながら。


冒頭の一行だけ読むと、なんと。


「その古本屋は私鉄電車の操車場近くにあった」


操車場!

操車場といえば平川さんが連載していた隣町探偵団で知ったんですが、小津の『生れてはみたけれど』には目蒲線の南側にあった大きな操車場が映っているんですね。それはこの「原っぱ」のシーン。

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子供達(左が『チョコレート・ガール』にも出演している突貫小僧)の後ろに連結車輛が止まっているのがその操車場。ただ、この操車場は目蒲線、つまり私鉄電車の操車場ではなくJRの操車場のようですが。


吉田さんがはたしてどここにあった操車場をイメージして物語を作っていったのかはわかりませんが、『チョコレート・ガール』と同年に同じ松竹蒲田で製作された『生れてはみたけれど』の風景を入れていった可能性はますます高まってきます。

いずれにしても『チョコレート・ガール探偵譚』は、吉田篤弘さんの中で最高の作品になるような気がします。あ〜読むのが楽しみだなあ。


by hinaseno | 2019-06-08 11:04 | 文学 | Comments(0)