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by hinaseno
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2018年 03月 12日 ( 1 )



久しぶりに小山清の「落穂拾い」を読み返しました。もう何年も3月になると小山清を手に取るということが続いています。小山清の命日は3月6日なんですが、「落穂拾い」が『新潮』に掲載され、のちに結婚することになる房子さんにそれを贈ったのは3月(昭和27年)。長女の美穂さんが生まれたのも3月(昭和28年3月20日)。

昭和25年のおそらく3月に書いたはずの「春」という随筆は「三月に入ったらいっぺんに春になった」という言葉で始まり、最後は「希望を見失わずにやって行きたい」という言葉で終わります。

これを書いた2年後と3年後の、まさに3月に小山さんにとっての「希望」が生まれていたんですね。


ところで今、NHKの大河ドラマで『西郷どん』というのをやっていますが(見てないけど)、小山清の作品に「西郷さん」という素敵な短編があるんですね。『小さな町』という大好きな短編集に収められています。何年か前、小山清が暮らしていた「小さな町」である下谷の竜泉寺町のことを調べるために何度も読んだ作品の一つが「西郷さん」でした。

そういえば先日紹介した落語の「黄金餅」の言い立ての最初に出てくる下谷という地名を最初に知ったのも『小さな町』でした。「西郷さん」など『小さな町』に収められた作品を読みながら、地図を眺めたり、ストリートビューを使って何度も歩いていたので、あの辺りの地理にはすっかり詳しくなりました。

そういえば(とまた繰り返しますが)アゲインの石川さんが「マスターの自由自在」で暗唱された「たけくらべ」の筆者、樋口一葉が住んでいたのも竜泉寺町。時代はかなり違っていますが小山清はまさに「たけくらべ」の舞台の中で暮らしていました。「廻れば大門の…」の「大門」があった場所も、小山さんが勤めていた新聞配達店のすぐそばでした。


さて、「西郷さん」ですが、別に西郷隆盛のことを描いた作品というわけではありません。「私」が竜泉寺町の新聞配達店に入った時、飛白の着物を着ている姿を見た店の仲間が上野の銅像の西郷さんに似ているということで「西郷さん」というあだ名をつけて、それが新聞配達をする区域の人にも広まったということ。とりわけ子供が「西郷さん」「西郷さん」と呼んでいたんですね。「西郷さん」である「私」を好きな女の子も何人かいたようです。ある女の子は「サイゴちゃん」と呼んでいました。


話がそれてしまいましたね。

再読というのは今までに気づかなかったことに気づくということがしばしばあって、今回「落穂拾い」を読み返して目を留めたのが芋屋のお婆さんの話。取り立てて素敵なことが描かれているわけではありませんが、こういうお婆さんのいる芋屋が近所にあればいいなと。それは別に豆腐屋でもいいのだけれど。

芋屋のお婆さんの話が出てくる前にはこんな言葉が出てきます。


その人のためになにかの役に立つということを抜きにして、僕達がお互いに必要とし合う間柄になれたなら、どんなにいいことだろう。

この芋屋のお婆さんの話は文庫本でほんの1ページほど。このあと「僕にはもう一軒行くところがある」という言葉とともに紹介されるのが古本屋を経営している少女の話で、文庫本では5ページほど話が続きます。「落穂拾い」を好きな人は、この古本屋の少女との交流を描いた部分を愛していて、僕も何度も読み返してもそこを読むのがメインになっていたようで、その前にさらっと紹介されていた芋屋のお婆さんの話は心に留めていませんでした。でも、そのお婆さんも「その人のためになにかの役に立つということを抜きにして、僕達がお互いに必要とし合う間柄」の一人には違いありません。


さて、随筆のような短いこの小説の中で、最近のキーワードである「贈物」という言葉がいくつも出てきますが、一番いいのはやっぱりこれです。


誰かに贈物をするような心で書けたらなあ。

「誰かに贈物をするような心で◯◯◯たらなあ」というふうな思いで何かをしている人というのは伝わるものですね。


さて、僕が「落穂拾い」を読んだのはちくま文庫。小山清でもう一冊、現在入手できるのが講談社文芸文庫から出ている『日日の麺麭/風貌』ですが、その解説の冒頭に書かれている一人の女性が営む「古本屋」に久しぶりに行ってきました。

もちろん場所は姫路のおひさまゆうびん舎。

おひさまさんゆうびん舎ができたのは2011年の3月。7周年を迎えたわけですね。で、その7周年を記念したライブが行われたんですね。もちろん世田谷ピンポンズさん。

ピンポンズさんが考えたライブのタイトルは「三月の便り」。

これほどおひさまゆうびん舎にぴったりのタイトルはないですね。

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by hinaseno | 2018-03-12 13:04 | 雑記 | Comments(0)