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by hinaseno
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2018年 03月 02日 ( 1 )



アゲインの石川さんから送っていただいた平川克美さんの『21世紀の楕円幻想論』発売記念トーク・イベントを録画したもの、拝見しました。当日、平川さんは体調を崩されていて、何度か咳き込まれることもあって、予定していた話が十分できなかったようでしたが、それでも、とても楽しく見させていただきました。特によかったのは話の中で何度か楕円のイメージを手を使って示されているのが見られたこと。とりわけこのシーンは最高でした。

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このときに平川さんが語っていたのはこの言葉。


「珈琲豆もね、よく見ると楕円なんですよ」

いやあ、うれしかったですねえ。

うれしかったといえばイベントの冒頭に語られたのがオリンピックの女子のカーリングの話だったこと。平川さんも今回のオリンピックでカーリングを見てその面白さを知ったようです。最初は「そだね」とか変な言葉喋ってるなと思っていたのに、だんだんと彼女たちがかわいく思えるようになったと。銀メダルを決めた瞬間には涙ぐまれたとか。


銀メダルが決まったのは相手の最後の一投のミスではあったわけですが、でも、その前に投じた藤澤さんの予定したのとはほんの数センチずれてしまったストーンに相手のストーンが当たった瞬間には正直「やられた」って思いました、ところが藤澤さんにしたら失敗だったはずのストーンが予定通りにはじけなくて、やや不規則な動きをしながらなんとハウスの中心の円の真ん中近くにとどまって、日本の勝利となったわけです。

その瞬間を平川さんはこう表現されたんですね。


「縁、というかああいう偶然を呼び込む空気の薄さがあの子たちにはあって。なんか濃いじゃないですか、みんなね」


濃い”絆ストーリー”と違う空気が彼女たちにはあって、それが偶然を呼び込んだんだと。これはすごく納得のいく言葉でした。

ところでカーリングの話の中でLS北見には別のチームから戦力外通告をされた選手がいるということを話されたんですが、その選手の名前がなかなか出なかったら会場にいた人が藤澤五月さんの名前を言われたんですが、実際にはそれが吉田知那美さん。前回彼女が地元の常呂町に戻って来たとき話した言葉が素晴らしかったと書きましたが、それを紹介しておきます。目の前には応援してくれた町の人たち、とりわけ子供が多かったようです。


正直、この町、何にもないよね。
この町、ちっちゃなときには何にもなくて、この町にいても絶対に夢は叶わないって思ってました。
だけど、今はここにいなかったら叶わなかったなと思います。ここに、たくさん今日来てくれた子供たちのみんなも、たくさんいろんな夢があるだろうと思うけど、場所とか関係なくって、大切な仲間がいたりとか、家族がいたりとか、どうしても叶えたい夢があるとか、この町でもきっと叶えられると思います。

録画していた「報道ステーション」のスポーツニュースしか見ていないので、この前に彼女は何かしゃべっていたかもしれませんが、でも、この「正直、この町、何にもないよね」という第一声はすごいですね。

実際、彼女たちが練習拠点にしている北海道の常呂町というのは地図で確認したら北海道の東の外れ。すぐ近くにはあの網走。北海道の中でも外れの外れ。まさに地方の地方なんですね。(無縁が支配する)市場の原理でいろんなものが切り捨てられていっているはずの場所です。もちろん気候も厳しい。


北海道の、とりわけ札幌から遠く離れた道東で生まれ育った人たちの生活がどのようなものかは、例えば桜木紫乃さんの釧路近辺を舞台にした小説でいくらかは理解しています。あくまで小説的、文学的な理解ですが。

でも、平川克美さんの著作は、今回の『21世紀の楕円幻想論』にしても、ジャンルとしては経済に関する本でありながら、いろんなものごとを文学的に理解させてもらうことができるんですね。自説に都合のいい数字だけを集めたような「経済書」にくらべてはるかに説得力があります。


話がそれました。常呂町に戻って語った吉田知那美さんの言葉。彼女はあれだけの言葉を何かを見たりすることなく、目の前にいる人たちにまっすぐに目を向けて、ときにあの素敵な笑顔で笑い、時に涙ぐみながらしゃべったんですね。

飾った言葉なんてどこにもないけれど、人に届く言葉とはまさにこういうものだと感心しました。目の前で彼女の言葉を聞いていた常呂町の子供たちは、きっとメダルと同じくらいの宝物を贈られた気持ちになっただろうと思います。


そういえば、カーリングというのは投げるストーンも、目標となるハウスもすべて真円。真円の中の一番小さな真円に真円の石を入れる(近づける)競技。真円と真円の戦いといってもいいのかもしれません。

でも、考えてみたら投げるときに彼女たちに見えているのは楕円なんですね。しかもかなり細長い楕円。投じるときの目線からすれば限りなく直線に近いはずの楕円。ブラシで一生懸命掃いている人たちにも見えているのは楕円の世界。真円に向かって矢を放つアーチェリーなどの競技とは全然違うんですね。目標となっている場所は、真正面から、あるいは真上から見れば結構幅広く見える円ですが、実際にはほとんど線に近いような細長く平べったい楕円になっているものに向かって、その中のさらに小さな楕円に入れていくわけです。


ふと思ったのは平川さんの本の表紙の絵のこと。これですね。

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どこかカーリングの試合のワンシーンに見えてくるから不思議。真円と真円の戦いとはちがう世界がそこにはあります。

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by hinaseno | 2018-03-02 15:41 | 雑記 | Comments(0)