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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno

雨の中の庭、雨の中の笑い声(その12)ーー 発売しないとか、展示しないとか


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 今朝のマグノリア
 夏の葉のまぶしさ


林哲夫さんから贈っていただいた(たまたま本に書かれていただけですが、でもこの上ない贈り物でした)「一昨日のマグノリア ページのまぶしさ」という俳句をちょっといじってみました。


一気に酷暑の夏がやってきて雨など降る気配もない今朝の木蓮。光をいっぱいに浴びて、たくさんの養分を作っているはず。来年の春、一つでもいいから花が咲いてくれないかなと。


ところで、林さんの『ふるほんのほこり』を読んだ影響はいくつもあったんですが、その一つがこれ。

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持っていた古本にはじめてグラシン紙をかけたんですね。かけたのは荷風の『ふらんす物語』の復刻本。復刻本ですが、かなりの希少本です。この本にははじめパラフィン紙がかけられていました。

古本屋通いをするようになっての一番の難敵はパラフィン紙でした。特に函入りの古い本はハードルがかなり高い。パラフィン紙が劣化していて既に破れている場合が多いので取り出すのも大変。そして、しまうのはさらに大変。店主の刺すような視線(実際には別のところを見ているかもしれないけど)を感じながら、破れが一層ひどくなって函に入れるのにあたふたしているときの居心地の悪さといったらないですよね。


ということで劣化したパラフィン紙をかけた本は買ったらたいていすぐに外します。でも、荷風の『ふらんす物語』の復刻本のパラフィン紙はあちこち破れていたけどそのままにしていました。

理由はアンカット本だったこと。

最初はカッターナイフで切っていました。カッターだと裁断面はきれいですが、注意しないとカッターの刃が折り目じゃないところに入ることもしばしば。ってことで20ページほどで中断。

その後、切れ味がいいというペーパーナイフを買ってみたものの、切り口が思ったほどきれいじゃないこともあってこれまた中断。

で、そのままにしてたんですが、先日、ちょっと読みたいところがあって、せっかくだから一大決心をしてペーパーナイフで全部カットしました。切り口はかなり毛羽立っていますが、まあそれもまたよし、です。

かなり劣化して一部破れていたパラフィン紙は外していました。そんなときに林さんの本を読んでパラフィン紙よりもグラシン紙のほうがいいことがわかって、試しに買ってみようと。いろいろとかけ方について書かれていたけどが結局は適当にかけました。


ところで僕の手に入れた『ふらんす物語』の復刻版ですが、正確には発売禁止版を復刻したもの。林さんのこの日のブログに『ふらんす物語』の発禁本の話が書かれています。

僕が買った復刻本(博文館版)に挟んであった紙には復刻した出版社の編集部のこんな言葉が書かれていました。


『ふらんす物語』は、製本に入る刷本の段階で押収されましたことは、解説にあるとおりですが、ひそかに、ほんの少部数だけ、粗末な仮表紙で伝えられました。この本の表紙も、もっぱら便宜上のものです。題字・署名も、名前の方は、当時の筆跡にいくらもありますが、署名の方は見当たりません。かりに、晩年のおなじ時期のもので統一しました。書名は『断腸亭日乗』から、著者名は葉書からえらびました。


ということでこの復刻本の書名は『断腸亭日乗』に記載されていた「ふらんす物語」という字を取っているんですね。でも中身は発売禁止版の『ふらんす物語』そのままのよう。

発売禁止版の『ふらんす物語』で何よりも好きなのはところどころに添えられているイラスト。このイラスト、すごく洒落てるんですね。

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隣のページには「放蕩」と題された話の最後のこんな言葉が記されています。


蓄音機が再び流行唄(はやりうた)を歌い出した。長閑(のどか)な夏の日はいつ暮れるのだろう。長閑な夏の日。


岩波文庫から出ている『ふらんす物語』は発売禁止版を元にして作られていて、イラストもすべて掲載されていますが、残念ながら表紙以外はすべて白黒。でも、博文館から復刻された方はすべてカラー。これだけでも買いです。


荷風の『ふらんす物語』が発禁処分となったのは1909(明治42)年3月25日のこと。理由は色々と考えられているようですが、結局はロクでもない人間のロクでもない判断のはず。今回のあの出来事と同様に。

でも、時代は少しずつ、ロクでもない人間の気に入らないものは排除するという方向に向かっているようです。気分が滅入ります。


さて、ドビュッシーの「版画」の3曲目の「Jardins sous la pluie」という曲のこと、その原題に最初に「雨の中の庭」と邦題をつけたのは荷風だったということを先日知りました。それはまさにこの発売禁止版の『ふらんす物語』の中に出てくるんですね。

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by hinaseno | 2019-08-05 15:01 | 音楽と文学 | Comments(0)