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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
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夕まぐれ 私ひとり 踊る電線 カットして


大きなガラス窓に切り取られた夕暮れの街の、窓の下側の縁に沿ってひし形の構造物が数分ごとに現れてくる。右から左に、あるいは左から右に。ときには2つのひし形がすれ違うこともある。

そんな不思議な風景をバックにして彼女はアップライトピアノを弾きながら歌う。室内には巨大なスピーカー。それはかつて市内にあった「東京」という名の純喫茶に置かれていたもの。

何年か前、市内の純喫茶を調べていたときに、たまたま書店で見つけた純喫茶関係の本で「東京」という名の純喫茶が岡山市内にあることを知った。最高の純喫茶だと絶賛していたので、ぜひ行ってみようと思ってネットで場所を確認していたら、その直前くらいに閉店したことがわかった。残念すぎる話。

ただ、そこに置かれていた巨大なスピーカーが別の店に移されたことあとで知る。その店の名前は何度も目にしていたし、その店のあるビルにも何度か足を運んでいたものの、店には一度も入ったことがなかった。

場所はあの禁酒会館の見えるビルの二階。店の名は「サウダーヂな夜」。

「サウダーヂ」というのはポルトガル語で郷愁とか憧憬、あるいは切なさの意味を持つ言葉。ボサノヴァ好きの人でサウダーヂという言葉を知らない人はまずいない。

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寺尾紗穂さんのライブがここで行われることを知って即申し込みました。ライブが行われたのは6月1日。

でも、行けそうにないという状態になっていたんですね。ライブの5日ほど前にキャンセルを伝えるメールを書いて送信しかけたんですが、やはり無理してでも行こうと決めました。たぶん許してくれるだろうと。


僕が寺尾紗穂さんのライブに行くようになったのは紗穂さんのお父さんの寺尾次郎さんが亡くなったことがきっかけでした。次郎さんが亡くなられたのは昨年の6月6日。今回のライブは次郎さんの一周忌の直前でした。

昨年の1月末に平川克美さんの『21世紀の楕円幻想論』が出版されて、それを読み終えて間もない頃、たまたまネットの画像検索で寺尾紗穂さんの「楕円の夢」に出会います。曲を聴いたらとても素晴らしく、歌詞には平川さんの『21世紀の楕円幻想論』に重なる言葉がいくつも出てきていました。

さらに5月に牛窓を舞台にした想田和弘監督の『港町』が公開されて、そのパンフレットには平川さんと並んで寺尾紗穂さんのコメントも寄せられていたんですね(想田監督の前作『牡蠣工場』のパンフレットにも想田さんと寺尾紗穂さんの対談が載っていました)。

ということで寺尾紗穂さんへの興味が一気に高まって、彼女のことをいろいろと調べていた矢先に寺尾次郎さんが亡くなくなられました。ちょうどそのときに8月に彼女のライブが加古川であることを知って、行ったんですね。寺尾次郎さんが亡くなってからは2ヶ月ほど経っていましたが、その日のライブの直前に亡くなられた音楽ライターの吉原聖洋さんの話も出てきてライブの後半は2人にまつわる曲が歌われ、紗穂さんは何度も声を詰まらせていました。

ということで次郎さんが亡くなられてちょうど1年になる6月に岡山の、僕の大好きな場所で紗穂さんのライブが開かれることに不思議な縁を感じていました。まさかその直前に僕の父親が亡くなるとは思ってもいなかったんですが、そんなことにも縁を感じてしまいました。


その日聴けた中で一番うれしかったのは「夕まぐれ」。時間的にもぴったりでした。それから「あじさいの青」も。

で、初めて聴いた、つまりまだ持っていないCDからの曲も何曲か歌われたんですが、特によかったのは「残照」。すぐそばに座っていたカップルも「この曲いいねえ」と言っていました。

ということでライブの後には「残照」が収められたアルバム『残照』と、『わたしの好きなわらべうた』を購入。『残照』にはやはりその日のライブで歌われた「骨壷」も収められていました。骨壷を持ったばかりだったので、「あなたの骨壷持ちたかったな」と歌われ始めたときには、変な話ですが笑ってしまいました。

紗穂さんのCDはペットサウンズで何枚か買ったんですが、残りはライブで少しずつ買っていこうと決めてもうあと数枚でコンプリート。今回は『わたしの好きなわらべうた』は買うのを決めていて、もう一枚『たよりないもののために』か『残照』のどちらかを買おうと思ったんですが、結局『残照』に。

でもライブで『たよりないもののために』の「九年」という曲が、岡山の白石島で出会った少女のことを思い出して作った歌だと聴いて、どうしようかと悩んだんですが、『たよりないもののために』はまだ新しいのでなくならないと思って。

白石島は岡山の西の笠岡諸島の一つ。むか~し、海水浴に行きました。木山捷平の「尋三の春」に出てくる北木島の隣ですね。木山さんのエッセイか小説に白石島って出ているのかな。


ライブの最後、アンコールで紗穂さんが「何かリクエストありますか?」って言ったときに、紗穂さんと目が合ったんですね(合った気がしただけかもしれないけど)。もちろん聴きたい曲はいくつもあったんですが(たとえば冬にかわれての「耳をすまして」とか「yuraruyuruyura」とか「カンナ」とか「午睡」とか「ハイビスカスティー」とか)、でも声を出す勇気はありませんでした。


ライブの終了後、買ったCDにサインをもらうときに紗穂さんとちょっと会話。紗穂さんの方から声をかけてもらいました。

「先日の渋谷のライブに平川克美さんが来てくれたんですよ」

「知ってます。雑誌にそのときのこと、書かれていました」

「なんという雑誌ですか」

「『望星』という雑誌です。僕もちょこっと登場しています」


ピアノの前で歌う紗穂さんの背後を動いていたひし形は路面電車のパンタグラフ。僕が座った席からは車体は見えなくて、見えていたのはパンタグラフとそれが通っている電線でした。


「夕まぐれ」という曲には「電線」という言葉が出てきます。


 夕まぐれ 私ひとり
 踊る電線 カットして
 自由な空


そう、電線の上でひし形たちが踊っていました。

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by hinaseno | 2019-06-22 13:37 | 音楽 | Comments(0)