人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Nearest Faraway Place nearestfar.exblog.jp

好きなリンク先を入れてください

Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno

バック・トゥ・ザ・昭和初期の西大寺商店街近辺(その2)


これは昭和10年の京橋近辺の地図。今日の話はこれを見ながら。

バック・トゥ・ザ・昭和初期の西大寺商店街近辺(その2)_a0285828_15314766.png

まず、荷風の『断腸亭日乗』の昭和20年6月21日の日記を改めて紹介します。今日の話のポイントとなるのは最後に書かれた部分です。


晩飯を喫して後月よければ菅原氏と共に電車にて京橋に至り、船着場黄昏の風景を賞す、暮靄蒼然、広重の風景版画に似たり、橋下に小舟を泛べ篝火を焚き大なる四手網をおろして魚を漁るものあり、橋をわたりて色町を歩む、娼家の戸口にはいづこも二級飲食店の木札を出し燈火はほの暗き暖簾のかげに女の仲居二三人立ちて人を呼び留む、されど登楼の客殆無きが如く街路寂然たり、店口に写真を掲るものと然らざるものとあり、掲るものは小店なるが如し、たまたま門口に立出る娼婦を見るに紅染の浴衣にしごきを巾びろに締め髪を縮したるさま、玉の井の女に異らず、青楼の間に寺また淫祠あり、道暗くして何の神なるを知らねど情景頗画趣あり、歩みて再び表道に出で電車の来るを待ちしが、附近に映画館ありて今しも閉場せしとおぼしく、屐聲俄に騒しく人影陸続たり、電車来るも容易に乗りがたきを思ひ月を踏んで客舎にかへる。

戦前の地図を見ると、路面電車の停留所が今より多いんですね。現在の西大寺町駅と小橋駅の間に京橋駅、中島駅と2つの駅があります。この日荷風は来た時には京橋駅で下りたようですが、帰りはどうやら西大寺町駅で乗ろうとしたようです。でも、人が多くて結局あきらめて歩いて宿に帰っています。人が多かった理由はすぐ近くに映画館があって、映画が終わった時間と重なったため。


はて、当時、このあたりにはどんな映画館があったんだろうかと思って取り出したのが『岡山の映画』(岡山文庫 昭和58年発行)でした。

地図の赤丸のところにある金馬館、帝国館、若玉館というのが映画館だったんですね。このあたりは千日前といって今も映画館があります。

ところで昨日紹介した昔近所のおじいさんにもらったスクラップ・ブックには帝国館と、それから岡山倶楽部という映画館のマッチのラベルが貼られていました。おじいさん、映画にも通っていたんだな。

これが帝国館。

バック・トゥ・ザ・昭和初期の西大寺商店街近辺(その2)_a0285828_15322938.jpeg


そしてこれが岡山倶楽部。

バック・トゥ・ザ・昭和初期の西大寺商店街近辺(その2)_a0285828_15324623.jpeg


岡山倶楽部のマッチはほかにもいくつかありました。おじいさんが一番よく通っていた映画館のようです。

これは『岡山の映画』に載っていた昭和初期の帝国館(上)と岡山倶楽部(下)の写真。

バック・トゥ・ザ・昭和初期の西大寺商店街近辺(その2)_a0285828_17261708.jpeg


ところで『岡山の映画』は初めの方は岡山の映画史のような話が続いているんですが、中ほどからかなりの分量をさいて書かれているのが「私の映画遍歴」という話で、これがめっぽう面白い。

で、筆者の松田完一さんの筆者略歴を見たら、なんと西大寺町の生まれ。つながるものですね。生まれたのは大正10年。ということで昭和初期のあの辺りの風景を生き生きと描いいます。興味深い話もいっぱい。

松田さんは昭和7年ごろから映画を見始めたようで、最初の頃に見た映画で特に印象に残っているものとして挙げていたのが成瀬巳喜男の『チョコレートガール』。


松竹映画「チョコレートガール」は売出しのチョコレートを主題にした明治製菓とのタイアップ作品だが、監督の成瀬巳喜男の水々しい感覚と的確な映像表現で、上京する姉が、駅まで見送りに来た弟に投げ与えたチョコレートが、勢あまって線路に落ちてしまい、そのまま汽車は遠ざかるラストシーン。成瀬巳喜男のその後の成長を暗示する見事な映画であった。

これ、見たいですね。フィルム。現存するんでしょうか。

それからあのおじいさんが一番よく通っていた映画館、岡山倶楽部についてはこんな言葉が。


岡山の映画館の中でも、第一は何と言っても上品さが売物の岡山倶楽部である。

なんかちょっとほっとしました。おじいさんからもっといろんな話を聞いてみたかったな。でも、あまりにも気づくのが遅すぎました。

さて、この松田完一さんの『岡山の映画』には最後にあっと驚くような映画の話が出てくるんですが、それについて語り出すと、話が長くなりすぎてクリスマスが来てしまいそうなのでやめておきます。そっちの映画、なんとか見れないのかな。


by hinaseno | 2018-12-23 15:34 | 雑記 | Comments(0)