平川さんと石川さんが岡山にやってこられた日から一週間が経ってしまいました。時の経つのは早いですね。お二人が来られたということだけでも無上の喜びだったのに、この間、お二人に引き寄せられるような形でうれしい出来事がいくつも起こって、正直世の中どうなってるんだろうと思ってしまいました。
中でもとびっきりのうれしいことが先週の土曜日の毎日新聞に掲載されたので紹介しておきます。
今回の平川克美さんの来岡の一番の目的はわが母校でもある岡山大学での講演とスロウな本屋さんで開かれたトークイベントだったんですが、その2つのイベントを企画し平川さんを岡山に招く尽力をされたのが岡山大学の松村圭一郎さんでした。松村さんにはただただ感謝しています。
その松村さんは岡山大学での講演とスロウな本屋さんのトークイベントとで司会を務められたんですが、まさに平川さんが岡山大学でのイベントのある日の朝、松村さんに関するビッグニュースが飛び込んできたんですね。その日(11月3日)の毎日新聞の朝刊に、昨年、ミシマ社から出版され、このブログでもなんども紹介してきた松村さんの『うしろめたさの人類学』が第72回毎日出版文化賞の特別賞を受賞したというニュースが載ったという情報が朝一番に入ってきてびっくり。なんというタイミング。朝、忙しい中、新聞を買いに行きました。
毎日出版文化賞は戦後すぐの1947年に創設された、かなりの歴史を持った賞でウィキペディアを見たら一番上の第一回目の文学・芸術部門には谷崎潤一郎の名がありました。受賞作品はあの『細雪』。荷風が終戦直前に勝山に行って谷崎に会ったときに執筆中だった作品です。で、一番下に松村さんの『うしろめたさの人類学』。たまらないですね。
さて、その日の新聞ですがこれが第1面に載った記事。
そしてこれが3面の下に掲載された『うしろめたさの人類学』の広告。
となりには芸術文学部門の賞を受賞した奥泉光さんの本の広告が載っています。
奥泉さんといえば岡大の時の友人に『石の来歴』という本を教えてもらって衝撃を受けて、その後『葦と百合』、『「吾輩は猫である」殺人事件』を続けて読んだ記憶があります。
で、10面に毎日出版文化賞の詳しい記事と受賞図書の紹介が載っています。
松村さんの『うしろめたさの人類学』のコメントを寄せられているのは選考委員のお一人である鷲田清一さん。愛情と敬意にあふれた素晴らしいコメントです。うれしいですね。最後の言葉だけ引用しておきます。
身のまわりの些細なことから変えてゆく、それがけっしてちゃちなこと、ちっぽけなことでないことを説く。非成長世代の手になる、痛いけれども爽やかな”倫理”の書だ。
今回の平川さんとのトークイベントに向けて、『うしろめたさの人類学』を再読しました。たぶん4度目。読み返すつどに新しい発見があります。実は最初に読んだときには、章末ごとに挿入されるエチオピアでの体験を描いた部分は外して、そちらはそちらで別の一冊の本を作ればいいのではと思ったのですが、やはりあの形の本だったからこそ、言葉の一つ一つが頭ではなく体に入ってきて、一人称複数形で語られる「ぼくら」の一員になんの違和感なく入ることができたのだろうと思いました。
そして今回読み返しながら思ったのは、村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』にどこか似ているなと。タイトルには「人類学」とついているけど、そこには小さくて大きい物語が確かにあります。
改めて松村さん、受賞、本当におめでとうございます。受賞がわかった日にごいっしょできたことを心から光栄に思います。