高橋和枝さんの新作の絵本『トコトコバス』、読みました。
よかったなあ。
ただ、正直いえば、もう一週間前に読むことができていたらもっとよかったのになと。それは仕方ないとして、高橋さんの絵本を読んでいつもそうであるように小さな幸せをいくつももらったような気持ちになりました。
トコトコと進むバスは、買い物か何かの用事で小さな町に出かけた「ぼく」と「おかあさん」を乗せて、「おか」を越えて「ぼく」のすむ小さな町へと向かいます。「おか」の途中でいろんな「おきゃくさん」が乗ってきて、バスは明るい道や暗い道を通っていきます。まるで動く紙芝居を見ているような感じ。そして声に出して読んでみると言葉の調子がなんとも心地いい。
「ぼく」と「おかあさん」が載っているバスに、あとからどんな「おきゃくさん」が乗ってきたかは内緒ですが、前回のブログで「走り出してから乗り遅れている人を見かけたらわざわざ引き返したりしているはずなので」と読む前に書いていたら、まさにそんな場面が描かれていてびっくり。引き返すことまではしてなかったけど。
どの絵も本当に魅力的なんですが、危うくバスに乗り遅れそうになった○○○さんを乗せて「おか」を走っているこの場面の絵が一番好きかな。暗い道が明るい道に変わって、なんともいえない高揚感につつまれます。
いや、でも、○○○さんが乗る前に、谷間の暗い道をバスが走っている場面もいいです。ああ、もちろん高橋さんの描く小さな町の風景もたまらなく好き。とりわけ最後の絵は最高。って、結局あの絵もこの絵も好きってことになってしまうんですが、この絵もいいんです。
○○○さんがバスを降りる時、この運転手の、いつもと変わらない感じで、あくまで職業的にちらっと客が降りるのを見遣っている表情がなんともかっこいいですね。
この絵もそうですが、高橋さんの絵本は細部がいいんです。小さな表情や小さな声は、近くでよく見ないと気がつかないような気がします。そう考えると帯に書かれている「読み聞かせにぴったり!」という言葉は微妙かな。
絵本を手にとって見た人はたいてい気がつくはずだけど、実はバスが「おか」に登り始めたときから「おかあさん」は眠ってしまっているんですね。その表情が結構笑えます。
でも、「ぼく」はずっと起きている。つまり、いろんな「おきゃくさん」がバスに乗り込んで来ているのを見ていたのは「ぼく」だけなんですね。もしかしたら本当は眠っていたのは「ぼく」の方で、すべては「ぼく」の夢の世界で起こっていたことなのかもしれないけど。
「ぼく」はそこで見た物語を家に戻って「おかあさん」に話すのかな。「おかあさん」はそれを信じてくれるんでしょうか。
ああ、僕もトコトコバスに乗ってみたい。