ある方からいろんなアーティストのライブ音源を集めたCDRを送っていただきました。全てご自身が行かれて録音されたもの。その1曲目に収められていたのが大瀧さんの曲でした。タイトルが「別れのコラージュ」。
「別れのコラージュ」?
聞いたこともないタイトル。
このライブが行われたのは1980年12月16日。調べたら『A LONG VACATION』発売の3ヶ月前に行われたLET'S DEBUT AGAINと題されたライブ。
どきどきしながら曲を聴いたら聞き覚えのあるイントロが流れてきてすぐにそれが「スピーチ・バルーン」だとわかりました。歌詞も『A LONG VACATION』に収録された「スピーチ・バルーン」の詞とほぼ同じ。作詞はもちろん松本隆さんです。
ちなみに「スピーチ・バルーン」は大瀧さんが「スピーチ・バルーン」というタイトルで歌う前にスラップスティックが「デッキ・チェア」というタイトルで歌っていますが、そちらの森雪之丞さんが書いた歌詞とは全く違います。
ちょっと気になってネットを調べたら、このときのライブの音源がYouTubeに貼られているのがわかりました。
このYouTubeの音源はもう少し前のMCから収録されていて、そこで大瀧さん、こんな発言をしてるんですね。
次もバラードで、最初は「スピーチ・バルーン」ってタイトルで、そのあと「別れのコラージュ」っていうタイトルになりましたけど、どっちにするかいまだに迷ってる、っていうか決めかねております。アルバムを買ってお確かめいただきたいと思います。
ということで、このライブでは「別れのコラージュ」というタイトルで歌われたと。でも、歌い終えた後は「『スピーチ・バルーン』でした」って言ってますね。
それはさておきポイントは歌詞。さっき、『A LONG VACATION』に収録された「スピーチ・バルーン」の詞とほぼ同じだと書きましたが、実際違うのはただ一つの単語だけ。「スピーチ・バルーン」を聴き慣れた人であればすぐにわかります。それは曲の出だしの最初の言葉「白い影は人文字」。後にアルバムに収録された「スピーチ・バルーン」は「細い影は人文字」。「細い」が「白い」と歌われてるんですね。
YouTubeのコメント欄を見ると、こんなコメントが。
細い影は人文字~だろ!頼むよ。(^^♪
白い影は~ 歌詞間違えてますねw
こんなふうに歌われた歌詞の違いをすぐに”間違い”と判断してわざわざ指摘する人ってなんなんでしょうね。時系列的に考えればこちらのライブの方が先なのに。「w」をつけるのも死ぬほど嫌い。
とはいえ、僕も聴いた瞬間、時系列を忘れて、おっ、間違ってると思いました。でも、すぐにこれが『A LONG VACATION』発売前のライブであることを思い出して、歌詞を確認しながら聴きました。で、結局違っていたのは「白い」だけ。
大瀧さんのそれなりのファンであれば、松本さんが書いた詞を大瀧さんが”歌い間違えて”レコーディングしたものがそのままアルバムに収録されたというのがいくつもあることはよく知っているはず。実際にはただ単に歌い間違えたというよりは、歌いやすさを考えてか、あるいは場合によっては詞の内容に納得がいかなかったりしてのことだろうと思います。
で、この「白い影」のことを考えながら、数日聴き続けて、はっとあることに気がついたんですね。これってあれじゃん、と。
それはこの曲のイントロのアレンジ。基本的には『A LONG VACATION』に収録された「スピーチ・バルーン」とほぼ同じですが、ちょっとだけ違うというか、どこかで聴いたことのある曲のイントロに似ていると。なかなか出てこなくて、それがようやく今朝わかりました。
誰もが聴いたことのあるはずの、プロコル・ハルムのこの曲。邦題は「青い影」。原題は「A Whiter Shade Of Pale」。「White Shade」は「白い影」。
ということで歌詞間違いでもなんでもなく、あの段階では「白い影」という歌詞で歌われる曲だったわけです。果たして本来の松本さんの歌詞が「白い影」だったのか「細い影」だったのかはわからないけど。
さて、『A LONG VACATION』に収録された「スピーチ・バルーン」。歌詞が「細い」になったこともありますが、プロコル・ハルムの「青い影」っぽさは薄められています。おそらくレコーディングは終わっていたはずなので、ミックスの段階で「青い影」っぽい演奏をしていた楽器の音を外したのではないかと思います。
でも、ほんのりと残ってますね。「青い影」の「白い影」が。