『おかしな本棚』に載っている比較的新しい本で、クラフト・エヴィング商會の人たちがかなり自分と趣味が合うことを確認して、クラフト・エヴィング商會や吉田篤弘さんの本を買い集める一方で、次第に”美しく年老いた”本、つまりブックオフなんかには並ばないような古い本に興味を持つようになります。まあ、もともと古いもの好きではあったわけですが、この本がきっかけとなって僕の古本屋巡りが始まったんですね。
ブックオフのような新刊に近い古書を扱う店にはよく行っていましたが、そこには置かれないようなかなり古い本を扱う店、ということで最初はやはり神戸でした。海文堂書店にも古本を扱うコーナーもありましたね。『おかしな本棚』に載っている本を見つけたときにもうれしかったけど、次第にそれ以外の古本にも興味を持つようになりました。
で、古本集めを始めたときに一つのルールを作ったんですね。
本は絶対にネットで買わないぞ、と。
このルールを最初に崩したのが上林暁の『夏暦』でした。
前にも書きましたが、僕はタイトルに「夏」と付いているだけで強く反応する傾向があります。もちろん使われ方によっては、ただダサいなと思うだけですが、例えば池澤夏樹の『夏の朝の成層圏』との出会いも、何よりもそのタイトルに惹かれました。そして『夏暦』という言葉もありそうでない、魅力的な響きを持っていました。これはぜひ手に入れたいと。
ところで『おかしな本棚』には上林暁の本が『夏暦』以外にもう2冊紹介されていました。
『晩春日記』、そして『星を撒いた街』。
『夏暦』とは別の本棚に入っていましたが、いずれも”美しく年老いた”、しかも魅力的なタイトルの本でした。
偶然というか、縁というか。上林暁という人に関心を持ち始めていたときに『レンブラントの帽子』で知った夏葉社から、まさにその上林暁の本が出ることを知ります。タイトルは『星を撒いた街』。
発売されたのは2011年6月25日となっていますが、僕が知ったのは夏の終わりか秋近くだったかもしれません。
どこで売っているんだろうかと調べたら、今はなき岡山の万歩書店の平井店に置かれていることを知り(実は海文堂書店にも置かれていたのに気づかなかった)、そこで購入。
で、そのときに一緒に置かれていたのが、その前年に出ていた『昔日の客』。この話、何度書いているかわからないけど、まさに運命の1日ですね。ということで『おかしな本棚』がなければ、夏葉社との出会い、というか再会(僕の場合は本当の出会いはほとんどが再会という形になっています)はありませんでした。
ところでその万歩書店平井店には”美しく年老いた”本がいっぱい置かれていたので、そこに毎月1回くらい行くのが本当に楽しかった。『おかしな本棚』に載っている本をたくさん買ったな。
そして、これも何度も書いたように、2011年の暮れのある日、姫路の、商店街からちょっとはずれた路地を歩いていたときに見つけたのが、ツリーハウスとおひさまゆうびん舎という古本屋でした。
そのおひさまゆうびん舎で夏葉社の本を取り扱ってもらうようになり、そしておひさまで買えるようになった最初の夏葉社の本が上林暁の『故郷の本棚』。これも不思議な縁。
そういえば僕がおひさまに出会った頃に、一番探していたのが小沼丹の本で、それがきっかけでYさんと知り合い、そのYさんに教えてもらったのが木山捷平。そうしたら上林暁の『故郷の本棚』に「木山君の死」という随筆があって、2人が親友だったことを知るんですね。もう何もかもが運命的なことだらけでした。
おひさまゆうびん舎の窪田さんとはいろんな本の話をする中でクラフト・エヴィング商會や吉田篤弘さんの話もしました。でも、最初は知らなかったようで、ときどきはこれはクラフト・エヴィング商會が装幀した本だよとか言って、クラフト・エヴィング商會が装幀した本を並べてフェアしたら面白いかもと言ったりしていました。
ある日、僕の持っていたクラフト・エヴィング商會関係の本を、『おかしな本棚』だけを残してどっさりとおひさまゆうびん舎に売ったんですね。早い段階で全部売れちゃったみたいだけど。
ところで夏葉社から『星を撒いた街』が出たことにきっと吉田さんが反応するだろうなと思ったらやはり。『本の雑誌』の2012年1月号に載った「私のベスト3」という特集で、吉田篤弘さんが夏葉社の『星を撒いた街』を選んだんですね。これもうれしかったな。
どうやらこれがきっかけで夏葉社の島田さんと吉田さんとのつながりができたようで、2012年の暮れに夏葉社から出た『冬の本』に吉田篤弘さんの文章が掲載されることになります。今回の本への道は少しずつ作られていたようです。
ところで『夏暦』のこと。おひさまゆうびん舎で島田さんに初めてお会いしたときだったか2度目だったか忘れましたが、僕が上林暁の『夏暦』を探していることを話したんですね。そうしたら島田さんが「『夏暦』は古書価格ではそんなに高くないですよ」って言われて初めて日本の古本屋というサイトを覗きました。調べたら確かにそんなに高くない。ってことで、日本の古本屋を利用して初めて古本を買いました。
ってことで、夏葉社から吉田篤弘さんの本が出て、おひさまゆうびん舎でそのフェアが開かれて、そして僕の『夏暦』が飾られているというのは、この上なくうれしい、というか改めて考えれば夢のような話。しかもその本が、神戸についての話、そして上林暁の話が出てくるわけですから、もうたまらないですね。
ところで、おひさまに展示された本には『夏暦』以外に上林さんの本が2冊飾られていました。『晩春日記』と『文と本と旅と』。
この2冊、去年だったか岡山で開かれた古書市に出品されていて購入希望を出したんですがダメだったもの。で、『晩春日記』はそんなに高くないものがネットで見つかったので買いました。今、読んでいるところです。
そういえば展示されていた本には、それぞれが『神様のいる街』に出てきた文が横に貼られていたんですが、それに気がついて読むのやめました。せっかく苦労して作られたのにね。
というわけで家に戻って、果たしてどんな形で上林暁の『夏暦』が登場するのか、わくわくしながら『神様のいる街』を読み進めました。こんなにわくわくしながら本を一気読みしたのは久しぶり。