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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
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牛窓暮色(その9)


牛窓が暮色に包まれようとした時間、今は病院となっている大きな建物のある丘の上で(その丘の背後にある山には墓地が広がっている)、クミさんが語り出したのが奪われた息子の物語でした。


クミさんは頰に当てた手(彼女が話しをするときの癖)を何度も震わせ、坂を一気に登ってきたためとは思えないような荒い息を吐きながらその物語を語り続けます。それはどこまで信じたらいいのだろうかと思えるような話の連続。明らかに不自然で矛盾する部分はいくつもあるけれど、カメラを持つ想田さんは、ときどき相づち程度の言葉をはさむだけでクミさんの話を聴き続けます。

日はどんどんと暮れていき、その場にいた想田さんとともに、見ているこちらも異界へとひきづられていきそうになってしまう。おそらく想田さんも危険なものを感じていたはず。


そんなときその場に現れたのが白髪の年老いた女性でした。彼女は少し離れたところからクミさんと想田さんの姿を眺めている。

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   *    *    *


このときに現れた白髪の年老いた女性は『港町』で何度か登場しているものの、ほとんど語りません。ただ、日が経つにつれて、この女性の存在が大きなものとなっていきました。


彼女はいつもクミさんといっしょにいるけれど、クミさんが語っているときにその話に加わってくることは決してしません。少し離れている場所からクミさんの話している様子を見つめているだけ。

実はクミさんは想田さんに向かって彼女の悪口をずいぶん言ったりしているんですね。聞こえているのかどうなのかはわからないけど、クミさんがときどき向ける視線を見れば自分に関わる、あまり好ましくない話をしていることはわかるはず。でも彼女は立ち去るわけでもなく、その場に立っている。


昨日紹介したクミさんが海沿いの道を歩いて知り合いの家に干物を届けに行くシーン、実はクミさんは白髪の女性に一緒に行こうと声をかけているんですね。でも、足の悪い彼女はその誘いを断ります。杖をついた彼女の歩きぶりを見ると、とてもクミさんのあのスピードについて行くことはできないことがわかります。


ところが彼女、クミさんが丘に上ったときには付いてきていたんですね。そのことが何日か経ってとても重要に思えてきました。

なんで足の悪い彼女が、海沿いの起伏のない平らな道を歩いて行くのは拒んだのに、上り坂が続く道を、しかもかなり日が暮れているのにもかかわらず付いてきたんだろうかと。

もちろん彼女はクミさんと同じスピードで歩くことはできないので、側に付いていた想田さんの奧さんと一緒にかなり遅れて丘に到着します。


彼女の姿が見えた瞬間、ああ助かったという気がしたんですね。彼女が助けたのはクミさんなのか想田さんなのかはわからないけど。でも、彼女はそこにだれかを助けにきたのではないかと。

これ、ちょっと村上春樹的ですね。物語的にしすぎているでしょうか。


丘の上で奪われた息子のことをクミさんが語り続けるこのシーン、精神的に問題を抱えた老婆が作り話をしているだけだと処理して何も感じない人もいたのかもしれません。実際、映画館では、あの語りが続くシーンで、ときどきクスッと笑い声が聞こえたりもしていました。僕にはとても笑えないようなところでも。


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by hinaseno | 2018-05-09 15:12 | 映画 | Comments(0)