どんなときでも本屋に立ち寄れば(レコード屋もそうだけど)幸せの度数が3目盛りくらい上がります。でも、ひとつだけ目盛りが10くらい上がる特別な本屋があって、それが姫路のおひさまゆうびん舎。近くの商店街にやってきて2目盛り。入口に立って3目盛り。そして階段を上がって5目盛り。で、店主の窪田さんの顔を見て、さらにそこに顔なじみの常連がいれば幸せの度数の目盛りはどんどん上がっていくことになります。
一昨日、そのおひさまゆうびん舎でさらに幸せの度数が上がるようなイベントに参加させてもらいました。おひさまの常連さんの結婚式が開かれたんですね。
式を挙げたのは、若いのに今や日本全国の古本界にその名を轟かせているゆずぽんさんと夢見るように愛らしいかほりさんのお二人。二人とはおひさまで開かれたいくつものイベントで何度も顔を合わせていました。
ゆずぽんさんからは会うたびに木山捷平の本の数を増やしていると聞いていて、戦後のものは全て集めましたと聞いたのはかなり前のこと。僕の持っている本の数をとっくに超えちゃったようです。
そう、ゆずぽんさんといえばこの美しい本のことを紹介しておかないと。かなり限られた部数(100冊くらい?)だったはずですが、ありがたいことにいただくことができました。
横に広い、余白だらけの白い表紙の真ん中に、小さく縦書きで書かれた「古本屋にて、」の文字。これをおひさまゆうびん舎でいただいたときに、たまたまとなりに高橋和枝さんがいらっしゃったのでお見せしたら「この字、手書きですね」と。確かにそうなんですね。一見普通の明朝体の活字に見えるけど、実は昔の古い本に使われていたような活字を模した手書きの文字なんです。さすが高橋さん。
本の中を見ると、ゆずぽんさんが愛する10の古本屋が、写真とそこを訪れたときのささやかなエピソードを添えて紹介されています。
倉敷の蟲書房から始まって善行堂やトンカ書店など知った店が並び、そして最後のページに載っているのがおひさまゆうびん舎。
書かれているのは、おそらく2年前の2月から4月(早春ですね)におひさまゆうびん舎で開かれた「没後50年 小山清展」のときのことのよう。この展示会の時、僕はイベントをお祝いするためにちょっとした文章を書いたのですが、窪田さんからそのお礼としていただいたものがありました。それがゆずぽんさんの文章にも登場する耳かきと爪切りでした。
僕はこのイベントの最終日の夕方に行ったんですが、並べられた本の一冊を読んでいた時に突然、窪田さんの悲鳴が起きたんですね。悲鳴の方向に目を向けると見たこともない一人の男性が立っていました。
そう、それが世田谷ピンポンズさん。ピンポンズさんが店にやってきたのはその時が初めて。
このときのピンポンズさんと交わした会話から「船場川」という曲が生まれ、ここでピンポンズさんが読んだ小山清の「春」というエッセイから「早春」という曲が生まれたんですね。
ゆずぽんさんのエッセイにも近づく春のことが書かれていますね。そう、おひさまのイメージはやっぱり春(早春)。いろんなものが始まる季節。本当にいろんなことがここから始まりました。
ところで改めてこの本のタイトル「古本屋にて、」のこと。「古本屋にて」でもなく「古本屋にて。」でもなくて最後に読点が打たれているのがいいですね。ちょっと一区切りということで、ゆずぽんさんの古本屋巡りの物語はこれからもずっと続くわけです。と同時に、ここに載っている古本屋(だけでなく、がんばっている町の小さな本屋さんも含めて)がなくならないで続いてほしいという願いも入っているように思いました。
いずれにしてもこの本はゆずぽんさんにとっての第一歩。きっとこれからさらに大きな歩みをしていくだろうと期待しています。