人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Nearest Faraway Place nearestfar.exblog.jp

好きなリンク先を入れてください

Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno

神戸のはずれの小さな海街で珈琲を飲む日のこと(その9)ー 土間と隙間と縁側と ー


神戸のはずれの小さな海街で珈琲を飲む日のこと(その9)ー 土間と隙間と縁側と ー_a0285828_13520416.jpg


話はスロウな本屋での松村圭一郎さんのトークイベントの日のことにもどります。

松村さんの『うしろめたさの人類学』は、僕がこれまで読んできたものに通じる話がいくつもあるんですが、松村さん独特の語り口と表現の形がとにかく素晴らしいんですね。何よりもさわやかな風が吹いている。

本を読んでいるうちに松村さんによって”構築”されたイメージが自然に入り込んできて、困難だとか無理だとか絶望的に思っていたことに対していろんな可能性の芽を感じることができるようになるんですね。知らず知らずのうちに勇気のようなものが生まれてくる。


いくつかの言葉を紹介しておきます。もちろんキーワードは「贈与」と「スキマ」。


 商品交換を行う市場に身をおけば、誰もが人間関係にわずらわされない無色透明な匿名の存在になる。でもその市場のとなりに「贈与」の領域をつくりだし、愛情を可視化し、「家族」という親密な関係をつくりこともできる。現にぼくらは、そうやってささやかな顔の見える「社会」を構築している。
「世界」のなかに「社会」をつくりだす力。強固な「制度」のただなかに、自分でモノを与えあい、自由に息を吸うためのスキマをつくる力。それがぼくらにはある。国家や市場による構築性を批判するだけではなく、自分たちの構築力に目を向ける。それが構築人類学の歩む道だ。


 市場と国家のただなかに、自分たちの手で社会をつくるスキマを見つける。関係を解消させる市場での商品交換に関係をつくりだす贈与を割り込ませることで、感情あふれる人のつながりを生み出す。その人間関係が過剰になれば、国や市場のサービスを介して関係をリセットする。自分たちのあたりまえを支えてきた枠組みを、自分たちの手で揺さぶる。それがぼくらにはできる。


たぶん「できること」は、みんな同じではない。それぞれの持ち場で、いろんな境界のずらし方、スキマのつくり方があるはずだ。


ぼくらにできるのは「あたりまえ」の世界を成り立たせている境界線をずらし、いまある手段のあらたな組み合わせを試し、隠れたつながりに光をあてること。
 それで、少なくとも世界の観方を変えることはできる。「わたし」が生きる現実を変える一歩になる。その一歩が、また他の誰かが一歩を踏み出す「うしろめたさ」を呼び寄せるかもしれない。その可能性に賭けて、そろりと境界の外に足を出す。それが「わたし」にできることだ。


 私が少年によって喚起された共感、そして、おそらく私の行為によって彼に生じた共感は、私と少年をつなぎとめる。それが公平さへの第一歩となる。なぜなら、公平さを覆い隠しているのが、「つながり」の欠如だからだ。「つながり」は次の行為を誘発し、「わたし」とは切り離されたようにみえる境界の中に、小さな共感の輪をつくる。その輪が、ぼくらがこの世界につくりだせるスキマとしての「社会」だ。

トークで松村さんは『うしろめたさの人類学』の中にはスロウな本屋のイメージが入っているとおっしゃっていました。松村さんはスロウな本屋に「スキマとしての社会」を見ていたんですね。

古い民家を再生した建物は玄関を入ると土間があってそこで靴を脱がなければならない。飲食店ではときどきあるけど本屋で靴を脱ぐというのはめずらしい、というか、僕は初めて。最初はちょっと戸惑いました。靴のまま店に入るという「あたりまえ」となっている世界の境界線のずれがここにあるんですね。

で、畳の間に上がる。古民家なのであちこちに文字通り隙間がある。南側には光が気持ちよく入り込んでくる縁側も。誰かを呼び寄せる場所、縁が生まれる場所。縁は縁側…。


松村さんがここでトークイベントをやりたいという気持ちになったのもよくわかります。イベントでは「小さな共感の輪」があちこちで生まれていました。

そしてイベントの最後に用意されていたのがサプライズの「贈与」でした。


ところで僕とスロウな本屋との縁を作ってくれたのは、店のサイトのトップページの写真に写っていた平川克美さんの『言葉が鍛えられる場所』。この本で僕は「うしろめたさ」という言葉を意識するようになりました。松村さんの本に反応したのもタイトルに「うしろめたさ」という言葉があったからこそ。

その平川さんがどうやら新しい本を書き上げられたようです。テーマは「贈与」。出版社は『うしろめたさの人類学』と同じミシマ社。来年の1月くらいに出版されるのではないかとのこと。

来月の12月から1月にかけては楽しみなことが続きます。

神戸のはずれの小さな海街で珈琲を飲む日のこと(その9)ー 土間と隙間と縁側と ー_a0285828_15204314.jpg


by hinaseno | 2017-11-25 15:24 | 雑記 | Comments(0)