マイクロスターのトーク・イベントでは1998年の貴重なライブ映像が流されました。まだファーストアルバム『microstar album』が発売される10年前のこと。ボーカルの飯泉さんはベースを弾きながら歌っています。なかなかかっこいいです。でもベースを弾きながら歌うのはかなり辛かったとのこと。曲はテクノポップって感じ。こんな曲もやってたんですね。
ただ、このころのライブの思い出ってありますかと訊かれたら「悲しい思い出しかありません」と。で、2000年くらいでライブをやめたそうです。一応「いろいろあって」ってことですがいちばんのポイントはそのあとに語られたこと。
「ライブを前提としてやっちゃうと、ライブで再現可能なものを考えなければならないので幅が限られてしまう。で、もっと普通にポップスとかちゃんとやりたいと思って、ライブとかを無視して作品重視でやることにした」
そして作ったのがあの「Sweet Song」。
いうまでもないことですが「Sweet Song」のサウンドをライブで再現するのは絶対に不可能。こう言ってはあれですが、もしもあの感じのライブを続けていたならばマイクロスターとの出会いはなかっただろうなと思います。
ちなみに「Sweet Song」はCMの話が来た時にCM用に作ったそうです。その時3曲くらい作ったそうですが、結局CMに使われたのは、やはり『microstar album』に収録されることになる「Lovey Dovey」。佐藤さんとしては当然「Sweet Song」が採用されると思っていたみたいですね。まあそこはCM制作側の判断。「Lovey Dovey」もとっても可愛い曲ですが。
ところで「Lovey Dovey」が使われたCMというのは調べたらNikonのcoolpixというデジカメ。残念ながらCMを見た記憶がありません。ただ、Nikonのcoolpixは名前がcolpix(=シェリー・フェブレー)みたいだなという理由だけで僕も使っています。
僕が初めて「Sweet Song」を聴いたときには、ああスペクターっぽい、ナイアガラっぽいと思ったものですが、でも、そのメロディには独自の素晴らしさが感じられました。よく言われるような、おいしいところだけをとって作ったというのもではありません。
おいしいところだけをとって作ったといえば、最近CMで使われているこの曲。
まさに大瀧さんが作った曲のおいしいところを散りばめています。マイクロスターの曲はこういうのとは全然違うんですね。これはこれなりに楽しめるけど。
マイクロスターの曲作りに関しては「ポップスの研究」というのがあるそうで、ある年代のこういう感じの曲を作りたいなというところから出発して、その曲の全体的なムードを分析しつつ、その曲に影響を受けて作られたような曲も参考にするとのこと。
特にその全体的なムードを捉えるということにおいて、アレンジだけでなくミックスの仕事までできる人が捉える音像(音の風景、音の質感)というのは、そうではない人とはかなり違っているだろうという気がします。
このあたりのことに関しては、大瀧さんの曲作りとまったく同じはず。
で、最も重要なメロディに関してはこう語られています。
「メロディラインに関しては染み付いたもの、自分の中にあるものしか出てこないので、あまり変えられない。そこを(変えようとして)誰々風なメロディで、というふうに考えてやっちゃうと、それはどんどんパクリに近くなってくるので、それはできないかな」
ここでデザイナーの高瀬さんがこんな質問をされます。
「いつも曲が降りてくるのか、それともちゃんと今日書くぞと思って書くんですか」
これに対する佐藤さんの答え。
「両方ですね。誰かのコンペで書かなければいけないというときにはひねり出さないとダメなんで締め切りまでになんとかひねり出すんですけど、マイクロスターの曲はそうじゃなくて、いわゆる降りてくるみたいな風にできたこともあります」
この後に続く言葉が大変興味深いものでした。この言葉が聞けただけでもというような話です。
「ただ、すごく危険なんですよ、それは。降りてきたというのは、すごい降りてきたと思うじゃないですか。でも元があったりするわけですよ。こっちはそんなつもりがなくても結果的にパクっているみたいなことになりかねないので。だから、スラスラと曲ができたときほどちょっと気をつけないといけないんです」
「無意識」というレベルの話。曲作りに時間がかかるわけですね