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by hinaseno
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「夏葉社という出版社、追いかけていきたいな」


昨日はおひさまゆうびん舎で開かれた夏葉社の島田潤一郎さんのトークイベントに行ってきました。島田さん、どんどん魅力的な人になっていますね。改めてこれからもずっと夏葉社、そして島田さんの活動を応援していこうと思いました。
夏葉社ファン、島田さんファンもどんどん増えているようです。一度島田さんに接したら誰もが応援しようという気持ちになりますね。この日のことはまた改めて書こうと思います。

話は変りますが、ちょっと大きな書店に行くと小泉今日子さんの『小泉今日子書評集』のとなりに小橋めぐみさんという女優の『恋読』という本が並んでいることがあります。小橋さんが書かれた書評や本に関するエッセイをまとめたもの。
小橋さんは最近では小島信夫長編集成9 「静温な日々/うるわしき日々」の月報に、エッセイを寄稿されているんですね。素晴らしい文章を書かれているという評判なのでぜひ読んでみたいのですが、残念ながら僕が行ったいくつかの大きめの書店のどこにも置かれていませんでした。仕方がないので図書館で借りようかと考えています。小橋さんのこの日のブログに貼られた写真で少し読むことができます。

僕はテレビをほとんど見ないので(小泉今日子さんが出演された『あまちゃん』を見たのが、一番”最近”見たドラマです)、小橋めぐみさんが出演されたドラマを見たことはありません。
その小橋さんのことを知ったのは昔、NHKで放送されていた『週刊ブックレビュー』に出演されたとき。調べたら2010年2月6日。司会はもちろん児玉清さんです。
彼女がそこで紹介したのが僕の大好きな本だったカズオ・イシグロの『夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』でした。
もちろん好きな本を紹介してくれたというのがうれしかったのですが、彼女の小さな、かぼそい声で語られる言葉が素晴らしかったんですね。優れた読み手であり、しかもそれを表現する言葉を持っていることに感心しました。これがきっかけで彼女に注目するようになりました。といってもドラマはまだ一度も見たことがないけど。
ただ、僕が毎週欠かさず見ていた『世界ウルルン滞在記』に彼女が出ていたことを知って、運良くそれが再放送されたので見たら、内容をよく覚えていました。あのときの女の子だったんだなと。

さて、その小橋さんが読売新聞で毎月連載している「空想書店」の店主に今年の4月になられたんですね。そのときの文章がこれ
これがまたいい文章なんですね。 文章を一応、貼っておきます。

 八百屋の佐吉は、不思議に思っていた。
 店の向かいにある小さな本屋のことだ。その本屋に入っていく客たちは、みな、浮かない顔をしていた。なのに店から出てきた客は、少し明るい表情になっているのだ。佐吉は、本を読んだことが一度もなかった。彼は常々思っていた。生きていくのに必要なのは本ではなく食べ物だ。本を読んだって偉くもならなければ、悩みが解決するわけでもないんだ、と思ったところで、母親の病気と、近くにできた大型スーパーのことを思い出し、ふう、と肩を落とした。
 「おやじ、顔色悪くないか」と声をかけてきたのは、隣の電気屋の五郎だった。「疲れてるんだったら、向かいの本屋行って来たら?」
 「行かねえよ、何でだよ」
 「行くと元気になるって評判だぜ。だまされたと思ってさ」。五郎は一度言い出すと、こっちが首を縦にふるまで絶対に譲らない。仕方なく彼は、向かいの本屋に入った。店主と話し込んでいる客の後ろに、二人の別の客が並んでいる。よく見ると、客たちは買うべき本を一冊も持っていない。店主と客の会話が聞こえてきた。「父親の代からだから今年で五十年、K町で本屋をやっているのですが、電子書籍の波におされてか、年々客足が遠のいてしまって。もう店を閉めるべきかどうか悩んでるんです」
 店主は、うんうん、とうなずきながら、おもむろに立ち、棚から一冊の本を取り戻ってきた。表紙には『本屋会議』と書かれていた。
 次の客は三十代後半に見える女性だった。「つい最近彼と別れてしまって。周りはもう結婚しているのに、自分はこの先どうなるんだろう、と考えると不安で」。最後は涙声になっていた。彼女には、白石一文の『私という運命について』が差し出された。
 気が付いたら、店主の前にいた。ニコニコしながら佐吉を見ている。佐吉は、突然ぶちまけた。「母親は家で寝たきりだ。妻は文句ばっかり言う。スーパーのせいで、商売あがったりだ」。そんな彼に店主は、一冊の本を差し出した。『宮澤賢治詩集』と書かれていた。


なんと夏葉社の『本屋会議』。おおっ!でしたね。
実は小橋さんはネットで『小橋めぐみの 本のめぐみ』というのをされていて、このときの放送で書店員の人に紹介されて『本屋会議』を読まれているんですね。夏葉社のこと、島田さんの話も出てきます。ちょっと笑えます。



最後に「夏葉社という出版社、追いかけていきたいな」と。素晴らしい。小橋さんが小島信夫に注目されたのももしかしたら夏葉社から出版された『ラブレター』がきっかけだったかもしれません。たぶん、この日の収録の後で『ラブレター』を買われたのではないかなと。

ところで、この小橋さんの「空想書店」の最後に出てくるのが『宮沢賢治詩集』。
実は「空想書店」が新聞に載ったときに、だれかがそれを撮影したものがネットにアップされていたのですが、「そんな彼に店主は、一冊の本を差し出した。」までしか写っていなかったんですね。その「一冊の本」がだれの何という本だろうかと思ったら『宮沢賢治詩集』で、これも、おおっ! でした。
というわけで、今日はこれから永瀬清子さんと宮沢賢治の話を聴きにいきます。こちらも楽しみにしていました。

そういえば、先日、小橋さんの出られた旅番組を見たのですが、廃校になった古い小学校の中にアップライトのピアノが置かれていたんですね。小橋さん、ピアノをやっていたということで、そのピアノを弾きはじめたんですね。それがなんとドビュッシーの「月の光」! 残念ながら一部しか放送されなかったのですが、素晴らしい演奏でした。
by hinaseno | 2016-09-04 13:02 | 文学 | Comments(0)