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by hinaseno
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「私より未熟な人はなく、私より物知らぬ者はなかった」


少し前にこのブログで紹介していたように、平川克美さんと小池昌代さんの詩をめぐるトークイベントが昨夜開かれたようです。
もちろん行くことはできなかったのですが、うれしいことに小池さんが永瀬清子の「あけがたにくる人よ」を朗読されたとのこと。小池さんの生の声で、あの詩が読まれるのを聴くことができた方々を心からうらやましく思います。
永瀬さんのことについて平川さんと小池さんの間でどんな話が語られたんでしょうか。
いつか小池さんに熊山に来てもらって永瀬さんの詩を朗読してもらいたいですね。ちなみに熊山にはこの春、詩人の谷川俊太郎さんが来て講演をされたそうです。

さて、永瀬清子に関しては個人的には宮沢賢治との関わりのことに一番興味を持ているのですが、その熊山で来月、永瀬清子と宮沢賢治についての講演があることがわかりました。なんというタイミング! ですね。

さて、今朝読んだ『短章集』にも宮沢賢治の話が出てきたので少し長いですが全文紹介しておきます。タイトルは「第三芸術」。作品の舞台はもちろん熊山。「その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々」の姿をみることができます。

 私が廻りトの田で麦の中耕をしている時、日は傾き、新田(しんでん)山のかげは次第に私の方へ迫って来た。心はあせり、噛みきれぬ骨と戦う犬のように畝の長さをもてあつかっている時、通りかかったヤスさんが身軽に私の田へ入って来て、私の鍬をとって代りに土を打ってくれた。一打ちで土はこまかく柔らに砂糖のようになり、二しゃくいで、それは定規でさしたように美しく掻きあげられた。
 みるみるうちに畝と畝の間は整然とととのえられ、麦の根元には空気をふくんだ土の微粒がふうわりと盛られた。
 宮沢賢治の「第三芸術」にも同じ経験が書かれているが、都会の人が読んでも多分何の事もないであろう。私はその時の賢治と同じく茫然とたたずんでいた自分を思い、ヤスさんのかぶっていた白い手拭、紺の手甲を思い、

  わたしはまるで恍惚として
  うごくも云うもできなかった。
  どんな水墨の筆触が、
  どういふ彫塑家の鑿のかほりが、
  これに対して勝るであらうと考へた

 と全く同じ気持であった。
 人々のやさしさにかばわれて、わが百姓が成り立っていた日々のことを私は思う。その時村に農業について、私より未熟な人はなく、田や作物について、私より物知らぬ者はなかったのだ――。

最後の言葉が素晴らしいですね。
ちなみに宮沢賢治の「第三芸術」というのは僕の持っている詩集にはなかったので、ネットで調べたら一応あったのですが、永瀬さんの引用したものと少し言葉が違っていました。
とりあえずその詩を貼っておきます。

第三芸術
   
蕪のうねをこさえてゐたら
白髪あたまの小さな人が
いつかうしろに立ってゐた
それから何を播くかときいた
赤蕪をまくつもりだと答へた
赤蕪のうね かう立てるなと
その人はしづかに手を出して
こっちの鍬をとりかへし
畦を一とこ斜めに掻いた
おれは頭がしいんと鳴って
魔薬をかけてしまはれたやう
ぼんやりとしてつっ立った
日が照り風も吹いてゐて
二人の影は砂に落ち
川も向ふで光ってゐたが
わたしはまるで恍惚として
どんな水墨の筆触
どういふ彫塑家の鑿のかほりが
これに対して勝るであらうと考へた

by hinaseno | 2016-08-11 13:33 | 文学 | Comments(0)