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by hinaseno
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平川克美著『言葉が鍛えられる場所』(その2)


平川克美著『言葉が鍛えられる場所』には「思考する身体に触れるための18章」という副題が付けられています。「はじめに」と「あとがき」を除いて18の章からなりたっているんですね。ただし「あとがき」は1つの章といってもいい内容になっているので実質的には「19章」。

アマゾンなど、この本を紹介したサイトには章ごとのタイトルと副題が載っていますが、本の目次の通りに、「はじめに」と「あとがき」を含めて、章ごとのタイトルと副題、そして章のいくつか分けられた節のタイトルを書き並べておこうと思います。

四十年前の自分におとしまえをつける――はじめに
     「言葉」が隠蔽しようとするもの
見えるものと見えないもの――鍛えられた言葉
     「あのひと」の不在
     希望を語らず、悔恨をかたらず
「切なさ」をめぐって――二十年後のシンクロニシティ
     二十年の空白を埋める嘘
     「切なさ」の形而上学
     わたしたちとは、わたしたちの過去
母なるものをめぐって――最も語りにくい話題について語る
     過剰と不足のはざま
     詩の中に登場する母の像
沈黙と測りあえるほどの言葉――沈黙の語法
     理解を拒絶する言葉
     埋めがたい断絶の前で言葉は
     絶望が紡ぎだす言葉
愚かであることを愛おしく思うということ――向田邦子に寄せて
     価値あることと無駄なこと
     年をとるほど愛しく思えるもの
生まれてから死ぬまでの時間――或る「自己責任」論
     存外、ひとは自分のためには生きてはいない
     生も死も、過去と未来に繋がっている
憎しみの場所、悔恨の時間――電車の中吊り広告を見て思うこと
     ヘイトスピーチの正体
     グローバリズムが拡散した自己責任
     ああ、今日も餃子を食べたい気持ちだ
聞きたい声がある――沈黙の言葉
     塵埃のごとき無数の言葉の中で
     言葉が禁じられた存在
愛国心と自我の欲求――国境を越えた文体
     「やりくり」「折り合い」が意味するもの
     国を愛する
愚劣さに満ちた世界で、絶望を語る――言葉への懐疑
     真実か否かを超えたところ
     言葉の効果への責任
     言葉を信ずるということの意味
「言葉」が「祈り」になるとき――痛みの連禱
     救いようのない悲しい物語
     働くことと生きることは同義
呟きと囁き――戦争前夜の静けさ
     売り言葉と買い言葉
     小さな声にふさわしい場所
     厄災はいつも忍び足でやってくる
嘘――後ろめたさという制御装置
     身体性と言葉との乖離
     条理を尽した言葉
言葉の交換を放棄したもの――唄が火に包まれる
     自分のために唄う
     嘘を、嘘と知りつつ騙されてみる
時代が人間を追い越す――時間と時代
     余った時間と粗大ゴミ
     辞書作りの時間
     自然の贈与
言葉のあとさき――未生の言語
     世界を分節する
     本当のこと
言葉は自らの不在を願っている――倫理あるいは愛
     カンヌ作品の力
     貨幣、技術、言葉
     ひととひとを結ぶもの
遺言執行人――死者の声を聴きながら
     絶望や、虚脱や、美意識
     求めるために、別れを告げる
     自分の証明
言葉の不思議な性格―あとがき
     何としても思いを届けたい
     青年期の自分と出会う
     愛と義務
     言葉が必要なのは、言葉が通じない場所

この美しい言葉がずらりと並ぶ目次は、まるで平川さん自身が書かれた1つの詩のような雰囲気があります(それは平川さんの他の本にも見られることですが)。

ところで今は選挙期間ということで、”強い”メッセージを送るために、ゴシック体で大きく書かれた”大文字”の言葉があふれています。そんな字体で書かれた文字の中にさらに「強い」という言葉を入れ込んでいたりして、正直見ていて(聞いていて)うんざりします。
一見強そうに見える形を取っていながら、言葉にちっとも強度がない。

その一方で、平川さんの本で紹介された詩人たちの言葉の中には、そんな”大文字”の言葉はどこにもありません。でも、どの詩の言葉も心に深く突き刺ささってくる強度を持っています。
鍛えられた言葉を持っている(持つことができた)人と、それを持っていない(持つことができなかった)人の差を感じずにはいられません。

『言葉が鍛えられる場所』で、平川さんは「鍛えられた言葉」についてこう書かれています。

鍛えられた言葉は、いつも、見えるもの、存在、充足、正確さというものの背後に、見えないもの、不在、欠落、遅れを導き入れるのです。そうすることによって、「いま・ここ」の世界は、「いまではない・ここではない」世界によって成り立っていることを教えてくれます。

この言葉には強く頷かされるものがありました。
考えてみれば「言葉」に限らず、心に深く突き刺さる強さを持っているものというのは「見えないもの、不在、欠落、遅れを導き入れ」ているように思います。

長くなりましたが、もう少しだけこの本の話を続けます。
by hinaseno | 2016-07-08 14:23 | 文学 | Comments(0)