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by hinaseno

大瀧詠一、1997年、ロジャー・ミラーを歌う。(最終回)


大瀧さんがロジャー・ミラーのファンで、その才能を評価していたことはこのブログでも何度か書いてきました。でも、たぶん大瀧さんは「Tall Tall Trees」と「Nothing Can Stop My Love」の収録されていたアルバムは聴いてもいなかっただろうし、この2曲のこともずっと知らないでいたのではないかと思っています。
ちなみに現在、ロジャー・ミラーのベスト物のCDが何枚か出ていますが、ロジャー・ミラーが歌う「Tall Tall Trees」と「Nothing Can Stop My Love」が収録されたCDはありません。僕は2年前に聴いた「ゴー!ゴー!ナイアガラ」でかかったロジャー・ミラーの「Do-Wacka-Do」が気に入って、20曲入りのこのCDを手に入れましたが、「Tall Tall Trees」と「Nothing Can Stop My Love」は含まれていません(あのボビー・ラッセルが書いた「Little Green Apples」と「South」は収録されています)。
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昨年出た『Singer / Songwriter The Early Years 1957-1962』というCDにはロジャー・ミラーが歌ったものではなくジョージ・ジョーンズの歌ったものが収録されています。
ロジャー・ミラーが歌った「Tall Tall Trees」と「Nothing Can Stop My Love」は全然一般的ではないんですね。でも、大瀧さんがカバーしたのはまぎれもなくロジャー・ミラー。

では、どういうきっかけでそれを知ったのか。
ポイントとなるのは萩原健太さんかなと。
音楽評論家である萩原健太さん、ナイアガラのレッキング・クルーがスタジオにずらりと並んでいるこのセッションに呼ばれていたんですね。しかもエレキ・ギターを持って。

ある日、大瀧さんから健太さんのところに電話がかかってきます。

「健太、これからレコーディングするから信濃町に来い」
「あ、見学させてくれるんですか」
「いや、ギター持って来い」
「えっ、アコギですか?」
「エレキだエレキ、いいからすぐ来い」

萩原健太さんは特に1990年前後、大瀧さんと交流がさかんだったようで、達郎さんとの新春放談も1988年から1995年までは健太さんの番組で健太さんを交えて行なわれていたり、大瀧さんがプロデュースした渡辺満里奈さんや植木等さんのアルバムにも参加されていました。
その健太さんがなんと大瀧さんの曲のレコーディングに呼ばれたんですね。舞い上がるのは当然のはず。

このリハビリ・セッションでは間奏の部分で大瀧さんが指名した人がソロで演奏するところがいくつかあるのですが、「Nothing Can Stop My Love」の間奏で「しげる!(鈴木茂さん)」「あきら!(井上鑑さん)」に続いて「けんた!」とお声がかかります。この曲が健太さんへの大瀧さんからのプレゼントでもあったことがわかります。

萩原健太さんは昔のロックやポップスにも詳しい一方で最近の音楽も聴かれているのですが、その健太さんと大瀧さんとの話の中で出てきたのが、このアラン・ジャクソンの歌う「Tall Tall Trees」だったんだろうと。



1995年の秋にシングルが発売されて、その年の暮れには2週続けてカントリー・チャートのNo.1になっています。当時、健太さんはカントリー・ロックに夢中になっていた時期だと思うので、この曲はきっとどツボだったはず。先にこの曲を知ったのが健太さんだったか大瀧さんだったかはわかりませんが、おそらく二人はこの曲で盛り上がったはず。
何よりも大瀧さんがおっと思ったのは、この曲がアラン・ジャクソンのオリジナルではなくて作曲者のひとりにロジャー・ミラーの名前を見つけ、これがロジャー・ミラーのカバーだとわかったことだろうと。
ここではじめて大瀧さんはロジャー・ミラーの歌ったものを探されたんだろうと思います。
そうしたら、その数年前に出たばかりの、今は廃盤となっているこのCDに「Tall Tall Trees」が収録されているのがわかって早速入手して聴かれたんだろうと思います。
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このCD、「Tall Tall Trees」は3曲目に収録。おもしろいのは次の4曲目に収録されていたのが「Nothing Can Stop My Love」。このCDではこの2曲が並んでいるんですね(ちなみに5曲目もロジャー・ミラーとジョージ・ジョーンズが共作した「That’s The Way I Feel」)。
ロジャー・ミラーのCDをいろいろとチャックしていたときにこれを見つけて、これだ! と思いました。
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曲が気に入った大瀧さんはきっと何度もこのCDの2曲並んだ「Tall Tall Trees」と「Nothing Can Stop My Love」を聴き続けたのではないかと思います。で、いつのまにかその2つの曲が一続きの曲のように大瀧さんの中に入り込んで、やってみたくなったんでしょうね。
つまりこの2曲は大瀧さんのルーツの確認というものではなく、あの時期に一番歌ってみたい気持ちにさせていた曲だったんだろうなと。
エルヴィス・メドレーはおそらく何度も何度もいろんな形で演奏していたはずですが(40年前から歌い続けていたことは言うまでもありません)、こちらはちょっとやってみたという感じ。曲の前に「テープまだある?」って言葉が入っているのは、テープが余っていればやってみようという気軽な気持ちだったんでしょうね。
ということでこのロジャー・ミラー・メドレーはエルヴィス・メドレーとは違って新鮮な空気が溢れていて、歌っている大瀧さんもとにかく楽しくて仕方がないという感じなんです。聴いているこっちも楽しくなります。

演奏に関しては、気軽にやったといってもそこはナイアガラのレッキング・クルー。クオリティがものすごく高いことはいうまでもありません。
『DEBUT AGAIN』のブックレットの解説で萩原健太さんがアラン・ジャクソンのバージョンのアレンジを参考にしていると指摘。断定していますね。大瀧さんがアラン・ジャクソンのバージョンもよく聴いていたことを知っていたからこそ、ですね。

最後に「Tall Tall Trees」と「Nothing Can Stop My Love」の作曲者に関すること。クレジットはロジャー・ミラーとジョージ・ジョーンズの共作ということですが、外国の曲のクレジットがそうであるように、どちらが作詞でどちらが作曲をしたのかわかりません。この二人のように、どちらも作詞・作曲ができる場合には特にややこしい。
年齢はジョージ・ジョーンズがロジャー・ミラーよりも5歳年上。音楽活動えを開始したのも少し早い。「Tall Tall Trees」を書いた1957年はロジャー・ミラーが音楽活動を開始した年。ということを考えると、曲作りを主導したのはジョージ・ジョーンズだったんだろうと思います。
ロジャー・ミラーのあの独特なジャジーな感じの曲を作り始めるのは1964年以降。その感じとはかなり違います。とはいうものの、どこかポップな感じはジョージ・ジョーンズにはない部分のような気がします。
おそらく何らかの交流の中でロジャー・ミラーが曲をかけるということをジョージ・ジョーンズが知って、いっしょにやらないかと声をかけて、(先輩ミュージシャンであるジョージ・ジョーンズが主導しつつも)2人でいっしょに作っていったのではないかと考えています。
by hinaseno | 2016-06-13 13:10 | ナイアガラ | Comments(0)