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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno

おひさまゆうびん舎で出会った人のこと、そして村井武生と木山捷平のこと


昨日は世田谷ピンポンズさんは高知の、上林暁の郷里で歌われたんですね。夏葉社の上林暁の小説集と随筆集を編集された善行堂の山本善行さんの講演の後に歌ったようです。
今日は善行さんと一緒に愛媛に行かれるのかな。

そういえばその善行さんから「古本の神様」と呼ばれているという方に、先日のおひさまゆうびん舎でのピンポンズさんのライブでお会いして、少しだけお話しさせていただくことができました。

実は、この日から何回かブログに書いた村井武生という詩人を調べていたときに、たまたまその方が村井武生について書かれていたものをネット上で見つけて、しかも驚いたことにおひさまゆうびん舎さんとつながりがあることもわかったので、店主の窪田さんに連絡してその方のことを少し伺っていた人でした。
その方は一昨年の小山清展のときにはじめておひさまゆうびん舎に見えられて、それ以来、何度かおひさまに来られるようになったとのこと。今では窪田さんがお父さんのように慕う存在になっています。で、その方もピンポンズさんの熱心なファンになられたようで、以前僕が行ったライブのときにもいらっしゃっていたこともわかりました。

今回、もしかしたらお会いできるかなと思っていたら、やはりいらっしゃっていて窪田さんに紹介していただきました。僕がいきなり村井武生の詩集を二冊も出したので、かなり驚かれていました。

それにしても、木山捷平の本を読む中で知った、全く無名といっていいような戦前の詩人のことをご存知で、その詩人の詩を愛されている方とお会いできるというのもなんだか奇跡のような気がします。その日その場で、村井武生の詩の影響を強く受けた木山捷平の「朝景色」という詩に曲をつけた世田谷ピンポンズさんの歌をいっしょに聴くことができていたということも。

おひさまゆうびん舎ってすごいですね。夏葉社の島田さんの「半径3メートル」のなかにあった本から始まった物語というのはいったいどこまで奇跡のような話を用意してくれるのやら。

ところで、木山捷平と村井武生のつながりについては、前回いろいろと書いたあとにもう少しだけ調べていました。

まずは『酔いざめ日記』。
前回は昭和7年11月20日の日記に書かれた「村井武生来訪。共に野長瀬君をホタルアパートに訪う、留守」という記述を見つけたことだけを書きましたが、例の”検索”によってもうひとつ、昭和8年7月18日の日記にも「村井」の名前を見つけました。これもおそらく村井武生のはず。

「終日無為。夜塩月と共に大鹿君のところへ行く、「海豹」八月号の編集をなす。小説――石浜、神戸、二瓶、岩波、ホンヤク新庄。同人会費、及八月同人会について其他のこと。帰途エルテルにより八月五日会の会場を借る。塩月君と二人お茶をのみ駅にくると、村井がいて、島村龍三、上野壮夫に紹介された。電車の中で長田にあう。今、安藤一郎、月原橙一郎と分れて来たばかりの由」

ここに登場する人も最初に読んだときにはだれがだれやらでしたが、今ではかなりどういう人物かわかるようになりました。

それからもう一つ。こちらは『木山捷平全詩集』の「未発表詩篇」に収められた「みぞれの話」という詩。昭和6年に書かれたものですが、ここに出てくる「金沢に降るみぞれの話」を聞かせてくれた「君」もおそらく村井武生のはず。村井武生は石川県の美川町(現在は白山市)に生まれましたが、8歳のときから金沢に住むようになりました。木山さんが詩に書くような友人で、金沢出身の人物と言えば村井武生しか考えられません。
ということでその詩を引用しておきます。

 みぞれの話

渋谷の松友館の二階で
僕ははじめて君に逢つた。

君は立つて窓をあけた。
窓の向うに黒い屋根があつて、
屋根の上で白い鳩があそんでゐた。
ヨチヨチと歩きながら――。
ホロホロと鳴きながら――。

屋根の向うに欅の古木が見えてゐた。
古木は新芽をふいてゐた。
新芽は風になびいてゐた。

さて、君は
ドテンと部屋のまん中に坐つて
濃い番茶を僕にすすめてくれながら
金沢に降るみぞれの話をきかせてくれた。

by hinaseno | 2016-05-30 12:54 | 雑記 | Comments(0)