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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno

「章ちゃんのは、とび出しとるじゃもん」


先日から読み始めた木山捷平の未刊行小説集『暢気な電報』、冒頭の「串かつキッスの巻き」からどれもご機嫌な作品ばかり。特にタイトルがたまらないですね。
昨夜読んだのが「銀線くらべの巻」(昭和35年の作品)。「銀線くらべ」って何だろうと読み始めたら、あっと驚く展開に。
それにしても木山さんの小説と随筆の境目というのはわかりにくいですね。随筆の中にも創作と思えるような話もあるし、小説の形は取っていても実際には本当の出来事を描いていると思われる部分が多分にあるし。
「銀線くらべの巻」の主人公は東京に住んでいるのですが、正月明けのある日、そこにひとりの女子大生がやってきます。彼女は主人公が大正期に過ごした村の一つ年下の女の子(ヒンちゃん)の子供。
ということで、村での話になるのですが、これが地名は出てこないものの明らかに木山さんの故郷、新山の風景。主人公は当時小学校の五年生。ヒンちゃんは四年生。

で、「銀線くらべ」の場面が出てきます。銀線くらべとは「小便のとばし競争(くらべ)」のこと。これってあれじゃん! でした。
主人公の男の子(章ちゃんという名前)はヒンちゃんを石垣のはなに連れて行きます。そして用意、ドンで放尿を開始。もちろん勝つのは男の子。
ヒンちゃんはこう言います。
「章ちゃんのは、とび出しとるじゃもん」
これはまさにこの日に紹介した「男の子と女の子」という詩そのまま。改めて引用します。

そら
ええか
一、二、三……

わしと
とみちゃん
石崖の鼻にならんで
ふるへながら小便ひつた。

わしの小便と
とみちゃんの小便
二本ならんで
芋の葉つぱへぱりぱり落ちた。

「とみちやん、わしの方がちつとよけい飛んだぞ!」
「そら、あんたのはちつと突き出とるもん」

山も
野も
あかるいあかるい月夜であつた。

この詩が書かれたのは昭和3年。木山さんが姫路にいたときの作品です。木山さんが子供のときに実際にこんな出来事があったのかどうかはわかりませんが木山さん独自の世界ですね。これが30年後に小説となっていたとは。
ただし、30年の歳月の中で、木山さんはかなりスケベなおっちゃんに変貌してしまっているので、オリジナルにあった子供達のイノセントな風景はかなり形を変えてしまっています。でも、こんな作品に出会えるなんて感激でした。

さて、話は村井武生のこと。ネットやその他の資料で確認できた限りのことを見ても、あまりに木山さんとの接点が多いことに驚いてしまいました。
まず、大正13年に上京し、雑司ヶ谷に住んでいたこと。どうやら東洋大学に進んだようです。この翌年、木山さんはまさに同じ行動をとっていたんですね。
さらに興味深いのは昨日紹介した「苺の娘」を収録した村井武生の第一詩集『樹蔭の椅子』の出版社、これが抒情詩社なんですね。木山さんはこの抒情詩社から昭和4年に第一詩集『野』を出版しています。
もう一つ興味深いのは村井武生と同じ石川県美川町に生まれた作家に、あの島田清次郎がいたことでした。
by hinaseno | 2016-03-02 12:59 | 木山捷平 | Comments(0)