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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno

「遠い声」の少女、そして「岡山 夜の街 ネオンの海」


ホテルリバーサイドのそばを流れる西川に沿って少し北に行くとすぐに路面電車の走る駅前の大通りに出ます。その大通りを渡ったところにあるビルの中になかなかいい書店があります。ここに本屋ができているのを知ったのは昨年のこと。中規模ながらも種類は豊富。特に鉄道関係の書物が充実しています。
この書店の一画に中古本のコーナーがあってときどき覗くのですが、先日行ったら、その中古本のコーナーが拡張されていました。
雑誌類が大量に積み重ねられている中で目にとまったのが『サライ』という雑誌。表紙に「東京下町散歩」と書かれていて、もしやと思って開いたら、やはり巻頭に川本三郎さんのエッセイがありました。しかもカラーの写真が満載。エッセイは単行本に収録されているかもしれませんがたいていは写真はカットされているので、最近は雑誌で川本さんの記事を見つけたら買うようにしています。

で、もう少し別の『サライ』を見ていたら「列車で訪ねる日本の秋」という特集のあるものを発見。中を見るとやはり川本さんの「鉄道映画の名シーンを訪ねる」と題されたエッセイ。こちらも写真満載。しかも舞台は北海道の道南の鉄道。函館本線、留萌本線、そして昭和42年に木山捷平が乗った岩内線。これは最高。最初に紹介されいたのは観終えたばかりの『駅 STATION』。あの映画、増毛だけかと思ったら留萌でロケもされていたんですね。
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この「鉄道映画の名シーンを訪ねる」にはうれしい写真がいっぱい。
これは小樽の廃線跡を歩いている川本さんの写真。
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それはこれはこの日のブログで紹介した蘭島駅。
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紹介されている映画は岩井俊二監督の『ラブレター』ではなく山田洋次監督の『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』。川本さんはもちろん『ラブレター』を見られているはずですが、一瞬だけ写った蘭島駅には気づかれなかったでしょうか。

何よりもうれしかった写真はこれ。
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この日この日のブログで紹介した、あの岩内線の始発駅である小沢駅で使われなくなった駅舎の絵を描いていた少女の写真。あの話では写生していた少女はひとりだけのような気がしたのですが、実際には二人でした。川本さんに「おじさん? 昨日、お母さんと線路見つけたよ」と電話してきたのはどちらの少女なんでしょうか。

ということで、ちょっと幸せな気分になって、そのビルの裏の商店街から、さらに線路を渡って岡山市内でいちばん好きな奉還町商店街をぶらぶらと歩いて、その商店街の中程にあるカフェでコーヒーを飲みながら『サライ』を読みました。
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ちなみにこの商店街を西に抜けたところが昭和20年に永井荷風が岡山で空襲を受けた後に滞在するようになった三門の町。荷風は何度か三門から岡山駅まで歩いているので、きっとこの商店街を通ったはず。ただし空襲で焼け野原になってしまっていました。
考えてみたら奉還町の商店街を通って三門の町に歩いて行ったことはなかったので、ちょっと行ってみようかと思いましたが、日が暮れてしまいそうなのでやめました。また改めて。

「東京下町散歩」特集の『サライ』には、特集記事とは別のページに「『町歩きの達人』の下町散歩術」なんてエッセイも川本さんが書かれていました。川本さんが見知らぬ町に足を踏み出すときには次の4つのことを心がけるようにしているとのこと。

一、映画や文学で予習する
二、商店街をぶらぶら歩く
三、地元の居酒屋で寛ぐ
四、「自我」を消し去る

一と二はよくやっていますが、三番目に書かれている「地元の居酒屋で寛ぐ」は、昔、金沢で一度やったきり。結構、勇気がいります。
というわけで、この日も居酒屋に立ち寄ることなく家に帰りました。

ところで川本さんは1999年に岡山に来て荷風の滞在した三門の家を訪ねた後、再び岡山市内に戻って夜のネオン街を歩き、「成田屋」という大衆居酒屋に寄っています。

 ネオン街をぶらぶら歩いて成田屋という大衆居酒屋に入った。チェーン店だから期待しなかったのだが、ここは素晴らしかった。カウンターがあってひとり静かに酒を飲むのが好きな男たちが桃源郷にひたっている。品書きに名物のママカリはじめ湯豆腐、天ぷら、焼鳥、刺身なんでもある。しかも安い。なんと荒煮が百六十円、湯豆腐は百九十円。あとは推して知るべし。しかも鳥でだしを取ったという湯豆腐のうまいこと。あとで岡山ではいちばん愛されている店だと知った。
 ビール二本ですっかりいい気分になって電車通りをその夜のホテルまで歩いた。がらんとした電車がごとごととそばを走り抜け、駅に帰っていった。
(川本三郎「百閒と荷風の面影を訪ねて 『岡山電気軌道』」『旅先でビール』所収)

成田屋は市内のあちこちにあるみたいですが、川本さんが立ち寄ったのはもしかしたらホテルリバーサイド近くの成田屋かもしれません。

そういえばピンポンズさんの「ホテルリバーサイド」の歌詞の最後はこんな言葉でしたね。
岡山 夜の街 ネオンの海

by hinaseno | 2015-11-18 10:54 | 雑記 | Comments(0)