人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Nearest Faraway Place nearestfar.exblog.jp

好きなリンク先を入れてください

Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno

「本との出会い」



ぼくは本を読むのが好きなんだ。でも、本との出会いっていうのも、人との出会いと同じだね。その出会いを逃しちゃうと、こんどはなかなか出会えなくなるってことがよくあるんだ。
たとえば、本屋さんでおもしろそうな本を見つけて、こんど来たときに買おうと思っても、しばらくたって行ってみると、もうなかったりね。本のタイトルとか出版社の名前を忘れてたりすることも多いし、そうじゃなくても、わざわざ出版社に買いに行くのはたいへんだから、ついそのままになってしまうことも多いんだよ。
だけど、なぜかほんとうに欲しいなと思った本は出会うものなんだ。こんなことがあったんだよ。小林信彦さんの『東京のロビンソン・クルーソー』という本を読んでたら、中村光夫さんの「笑いの喪失」って文章について書いてあった。それで読んでみたいなと思ったけど、その文章が何の本に載っているのかわからなかったの。
ところが、ある日のこと、近所に2軒ある本屋さんの1軒に、フラッと行ってみたら、いちばん上の棚の奥のほうに、中村光夫さんの『日本の近代』っていう本があったんだ。ひょっとしたらあれかなと思って手に取ってみたら、「笑いの喪失」っていうエッセイがその本に入っていたんだよ。
あ、こういうものなんだなあって感じたよ。あのときは。
旅に出てフラッと入った本屋さんで、ずっと探しても見つからなかった本と出会うってこともあるね。だから、ぼくは旅先で本を買うことも多いんだよ。重いし、荷物になるからイヤだなあと思うんだけど、買っちゃう。そういう本は、いざ東京に帰って来て本屋さんに行ってみても、やっぱりないことが多いよ。不思議なんだけど。
とにかく、ヒマなときの時間つぶしには本屋さんに行くのが最高だなあ。以前はレコードやさんでヒマつぶしすることが多かったんだけど、この何年間は本屋に行くことのほうが多くなってるみたいだよ。

これは1982年に『CanCam』に1年間連載された大瀧さんのエッセイのひとつ。もちろん僕は『CanCam』なんか買うわけないので、当時は読んでいません。今年出た『大瀧詠一Writing & Talking』に収録されて初めて知りました。
1982年といえば『ロング・バケーション』が大ヒットしている真っ最中。最初のエッセイには松田聖子のアルバムをプロデュースしたのが最新ニュースだと書かれています。こんな言葉もあったりしてニッコリです。

圧倒的に、聖子もガール・シンガーだよ。シェリー・フェブレーって感じかな。レスリー・ゴーアとかさ。ペギー・マーチなんてのも、ちょうどいいくらいなんじゃないかって気もする。グループでいえば、ロネッツ、クリスタルズ。イメージとしてはそんな感じ。当時、みんな18〜19才だったしね。このラインは永遠不滅だからね。山下(達郎)が聖子に曲を書いてみたいって言ったのも、そのラインで見えているからだと思うよ。歌のノリもとてもよかったしね。なんにもちがわないんじゃない。はっきり言っちゃうと。

この『CanCam』で連載されたエッセイ、内容的には興味深いものが多いのですが、語り口がどうも変。おそらくこれは大瀧さんにインタビューしたものをもとに『CanCam』の編集部の誰かが書いたんですね。当然のことながら『CanCam』の読者である若い女性を対象にした語り口になっています。大瀧さんの語り口をよく知る人間にすればかなりの違和感。
大瀧さんというのはご自分でおっしゃる通り「内容(も面白いけど)よりも語り口」の人なので。
とは言いながらも、最初に紹介した「本との出会い」はいかにも大瀧さんらしい素敵な話。当時の若い女性たちはこういう文章を読んで、そして『ロンバケ』も聴いて、大瀧さんってどんなに素敵な人なんだろうと心を躍らせていたんでしょうね。
ところが大瀧さんの写真もいくつかメディアに出るようになって、年齢もすでに30歳を超えていることもわかって、イメージが違ったと怒った女性の方々もかなりいたとかいないとか。

ところで大瀧さんの話の中に出てくる小林信彦さんの『東京のロビンソン・クルーソー』という本はかなりの希少価値のようで、ネットでチェックしても相当の高値がついています。もちろん古書店で目にすることはありません(もしかしたら見逃していたかもしれないけど)。
「ほんとうに欲しい」とまでは思っていませんが、いつかどこかで出会えたらなと思っています。
by hinaseno | 2015-10-01 14:27 | ナイアガラ | Comments(0)