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by hinaseno

早春の小田川(9)― 木山捷平が昭和18年の初夏に歩いた場所 ―


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観音橋から小田川沿いを歩いて矢掛中学まで辿り着いたので今回の旅は終わり、かというとそうではありませんでした。もう少し(元気が残っていれば)歩いて行きたいと思っていた場所がありました。

木山捷平は矢掛中学を卒業した後、(たぶん)一度だけ矢掛の、小田川沿いを歩いたことがありました。それは昭和18年の初夏のこと。このときのことは翌昭和19年1月発行の『曙』に掲載された「ねんねこ」という随筆(短篇?)に描かれています。『曙』は当時、岡山にいた藤原審爾が発行していた雑誌ですね。

昭和18年、木山さんは和気清麻呂を書くことに没頭していました。で、その執筆にとりかかる前に、取材のために岡山を旅します。最初に行ったのが和気清麻呂の生誕地である和気(三石で下車)。それから郷里に戻って墓参りをした後、和気清麻呂とのつながりで吉備真備の遺跡を訪ねます。この吉備真備の遺跡があるのが矢掛からちょうど10kmほど東に行った場所。
昭和18年5月14日の日記。
 吉備真備の墓を訪ねる。北川よりのった。栄橋の附近、昔の面影なし。中学に通った矢掛の町は変っていた。歩いて吉備公館跡まで。油蝉なく。松風。墓に参る。道を間違える。

これだけでは木山さんがどういうルートを通って行ったのかはよくわかりません。で、「ねんねこ」にはこう記載されています。
私鉄の線路を終駅でおりると、丁度乗合が出たあとであった。つぎのが来るまでには、一時間以上あるという。仕方ないので、私はあるくことにして、駅の前を流れている川の橋を渡った。

日記と「ねんねこ」に書かれているこの内容を理解するのに、実はかなりの時間がかかりました。「終駅」とはどこの駅? 「駅の前を流れている川」とは小田川のこと? またそこにかかっている「橋」は日記にある「栄橋」のこと? その栄橋は一体どこに?

はっきりいえば現在の地図を見ても何もわからないということでした。現在、矢掛には新栄橋というのがあることはわかったのですが、それが栄橋のあった場所に新しく造られた橋なのか、あるいは栄橋の近くにあった橋なのかどうかもわかりません。
何より「終駅」を矢掛駅だと考えたときに、現在の矢掛駅の前には小川くらいしか見当たらず、仮に「駅の前を流れている川」を小田川とすると、橋を渡ると対岸に行って、矢掛の町からは離れてしまいます。

で、まず確認したのは現在ある矢掛駅は開業したのが1999年だということ、つまり昭和18年には井原鉄道は存在しなかったということ。で、当時は木山さんの生家のある新山に駅のあった井笠鉄道が矢掛まで走っていたということでした。その井笠鉄道の矢掛へ行く時の乗り換えの駅が日記に出てくる「北川」。
ちなみに井笠鉄道の北川 - 矢掛間が開業したのは大正10年10月。木山さんが矢掛中学の5年生の時ですね。

というわけで昔の地図を確認してみる必要があるということで先ず見つけたのが『小田郡誌』に掲載されていたこの地図。おそらくは明治時代後半のもの。もしかしたら大正時代の、まさに木山さんが矢掛中学に通っていた頃のものかもしれません。
この地図に「栄橋」がありました。
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場所は美山川と星田川(どちらも綺麗な名前)が合流して小田川に流れ込む手前にあります。ここを渡ると矢掛の中心街に入ることになるんですね。

で、次に見たのが昭和21年発行の5万分の1の地図。ここに当時の井笠鉄道の線路と終点の矢掛駅が描かれていました。栄橋は目と鼻の先。こういうことだったんですね。
早春の小田川(9)― 木山捷平が昭和18年の初夏に歩いた場所 ―_a0285828_1461041.jpg

これでようやく、この日木山さんが歩いたルートがわかりました。昭和21年発行の地図に表すとこうなります。
早春の小田川(9)― 木山捷平が昭和18年の初夏に歩いた場所 ―_a0285828_1463755.jpg

すでに15km歩いた(2kmほど走った)足ですが、この10kmを歩く旅に出かけました。もちろん往復ではなく、吉備真備の遺跡がある場所の近くには現在、井原鉄道の吉備真備駅ができているので、夕方までにそれに乗れたらということでした。
by hinaseno | 2015-04-04 14:06 | 木山捷平 | Comments(0)