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by hinaseno
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「小山銀行の頭取をしている小山清君は...」


この日のブログでもちょっと触れましたが、小山清は永井荷風のファンなんですね。
北海道の夕張を舞台にした作品である「雪の宿」に登場する女性は「どこか「濹東綺譚」のお雪に重なるところがあるような気がします」って書きましたが、その後で読んだ「夕張の春」の登場する女性の名前はまさに「お雪」。小山清に限りなく近い「信吉」と「お雪」の最後のシーンのなんて素敵なこと。
なんだか小山清の北海道を舞台にした作品だけを集めた本を一冊作ってもらいたいような気持ちになりました。出版社は夏葉社で。そしてもちろん解説は川本三郎さんで。

そういえば今ぱらぱらと読んでいるのは最近手に入れた小山清の『二人の友』。その中に興味深いエッセイがありました。「同姓同名」という題名の短いエッセイ。こんな話が出てきます。
 永井荷風氏の「冷笑」という小説の冒頭にいきなり、「小山銀行の頭取をしている小山清君は」とあったので、これには驚いた。而もこの小山清君たるや、「ハアバアト大学を卒業して世界を漫遊して来た紳士」というわけなのだから、私などと比較をすると、それこそかたやジキル博士、かたやハイド氏というほどの違いがある。けれども妙なもので私はこの自分と同名の紳士をなんだか他人のようには思えないのである。かりにこれが実在の人物で、向うも私のことを他人のようには思わないのだとすると、しめたもので、あるいは私は協会の会費を滞納するようなことがなくてすむかも知れないのだが、どうも世の中はそんなうまい工合にはいかない。
こういうユーモアも小山さんらしいですね。

荷風の『冷笑』はまだ読んだことがないのですが、小山さんが引用している「小山銀行の頭取をしている小山清君は」のあとはこう続いていきます。
 小山銀行の頭取をしてゐる小山清君は此頃になつてますます世の中を愚なものだ、誠に退屈なものだと感じだした。

「小山銀行の頭取をしている小山清君は...」_a0285828_1030394.jpg

by hinaseno | 2015-03-15 10:31 | 文学 | Comments(0)