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by hinaseno
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「小さな町」のこと


昨日、朝起きて、アゲインの石川さんのブログに樋口一葉の『たけくらべ』を朗読していたものが貼られているのを見てびっくり。小山清つながりで『たけくらべ』のことを考えていたばかりでした。
石川さんが樋口一葉の『たけくらべ』を暗記されるほどに愛されていることはよく知っていましたが、それにしてもなんというタイミング。どうやら千代田区の話が出てきたので千代田区の生まれの樋口一葉につながったのかもしれません。
そういえばラジオデイズの平川克美さんと小池昌代さんのこの対談で、小池さんが『たけくらべ』の冒頭を朗読されています(「その2」の28分58秒あたりから)。小池さんも樋口一葉の朗読にはまっているんですね。僕は小池さんファンなので、この部分だけ何度も聴き返しました。
で、小池さんの朗読のあとで、平川さんの口から、石川さんが『たけくらべ』の”全文”暗記をしているという話が出てきます。小池さんもびっくり。

というわけで、僕もその影響を受けて、冒頭のこの部分を何度も読んでいました。小池さんが言われているようにとても音楽的。
廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お齒ぐろ溝に燈火うつる三階の騷ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の行來にはかり知られぬ全盛をうらなひて、大音寺前と名は佛くさけれど、さりとは陽氣の町と住みたる人の申き...

さて、この部分、何度も読んでいましたが、その舞台がどこかなんて考えたことはありませんでした。「大門」というのは遊廓のあった吉原の大門。
樋口一葉は一時期、この吉原のすぐ近くの下谷龍泉寺町で荒物雑貨駄菓子屋を経営していて、その体験をもとにして『たけくらべ』を書いたんですね。というわけで、下谷龍泉寺町は『たけくらべ』の舞台となっている町として有名なようです。

さて、小山清。彼の作品に「小さな町」と題されたものがあります。舞台はまさに下谷龍泉寺町。小山清は、下谷龍泉寺町に住んで新聞配達をしながら小説を書いていたんですね。「小さな町」をはじめとして、下谷龍泉寺町を舞台にした小説をいくつも書いています。ちなみに小山清が生まれたのは吉原。
一昨日、小山清が下谷龍泉寺町を舞台にした小説をいくつか読んでいて、そのひとつ「安い頭」の中に『たけくらべ』のことが出てきて、へえ〜っと思った矢先のことでした。
その「安い頭」の冒頭部分を引用しておきます。
下谷の竜泉寺町という町の名は、その土地に馴染みのない人にも、まんざら親しみのないものでもなかろう。浅草の観音さまにも遠くないし、吉原遊廓は目と鼻のさきだし、お酉さまはここが本家である。若しもその人が小説好きであるならば、「たけくらべ」にゆかりのあるこの町を、懐かしく思うであろう。だいぶまえのことであるが、一葉の記念碑がその住所の跡に建てられて。電車通りにある西徳寺で、故人を偲ぶ後援会が催されたことがあった。馬場孤蝶、菊池寛、長谷川時雨の三人が来て話をした。故人と昵懇であった孤蝶老が、往時一葉が子供相手に営んでいた一文菓子屋のことを、「如何にも小商売(こあきない)」と云った口前を、私はいまなお覚えている。

ところで「安い頭」には、「ある若い詩人の『町』という詩にこんなのがある」という言葉の後に、その詩が引用されています。
小さな町であった
それでも町の匂いがした
煤煙が流れていた
おしろいの匂いがした

この詩、調べてもわかりませんでした。無名の詩人なんでしょうか。あるいはもしかしたら小山清自身が若いときに書いたものなのかもしれません。

小山清の「小さな町」はこの詩に出てくる言葉をタイトルにしていたんですね。
というわけで、また一つ、東京の中に愛すべき小さな町が生まれました。
by hinaseno | 2015-01-27 12:08 | 文学 | Comments(0)