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by hinaseno

岡田茉莉子と『秋津温泉』


吉備路文学館で開催されている木山捷平展のことを書いたために話が少しだけはずれましたが、実は木山捷平展が始まる前に吉備路文学館を訪ねて、ある本を見せていただいていました。その本こそが、今回長々と続けている話の核になるものでした。それについては最後に。

今から5年前の2009年の秋に岡田茉莉子さんは、ご自身の半生を振り返った書き下ろしのエッセイ集を出しました。タイトルは『女優 岡田茉莉子』。
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表紙は言うまでもなく『秋津温泉』の写真。現在出ているDVDも同じ写真が使われています。岡田さんはこの写真をずっと大事にしつづけているそうです。今回、この本を読んで改めて岡田さんが『秋津温泉』という映画をどれだけ大切にされているかがよくわかりました。
前にも書きましたが、藤原審爾原作の『秋津温泉』は、彼女の百本記念映画として、彼女自身が企画した映画でした。『秋津温泉』を原作にした映画を作ることを決めたのも彼女でしたし、のちに彼女の夫となる吉田喜重を映画の監督に決めたのも彼女でした。
岡田茉莉子さんにとって藤原審爾の小説『秋津温泉』は、まさに運命の出会いだったわけですね。その『秋津温泉』との出会いについて、岡田さんはこう書いています。
 はじめて私が藤原審爾さんの小説『秋津温泉』を読んだのは、まだ東宝に在籍している頃だった。まだ若かったとはいえ、アプリゲールの奔放な娘や、芸者の役ばかり与えられることに反発し、純粋な恋に生きようとして、みずからが選んだ道を歩む女を演じてみたいと思っていた。そうした折りに、偶然読んだのが、『秋津温泉』だった。
 山深い温泉を背景に、湯治客の青年と温泉客の娘が、戦時中であることを忘れようとするかのように。恋をし、それを守りとおし、最後に結ばれる。こうしたふたりの男女の関係以外には、ドラマらしい出来事はなく、純粋に恋愛だけを描こうとする、藤原さんの代表咲くらしい小説だった。
 私自身、映画スターとして認められる時期が来れば、『秋津温泉』のヒロイン、新子を演じることを、いつしか心に決めていたのである。

「そうした折りに、偶然読んだのが、『秋津温泉』だった」との言葉。
「偶然」という言葉が使われています。
自分もよく「偶然」という言葉を使うからこそ思うのですが、そこには「偶然」につながる必然があったはずだろうと。だから、この「偶然」の出会いのことをもう少し書いてほしかったというのが、正直な気持ちでした。彼女がどういうきっかけで『秋津温泉』を手にし、なぜ、彼女がこの小説に深く引き込まれることになったかをもう少しだけ具体的に書いてほしかったなと。そこが一番知りたいところだったので。

彼女の本を読む前、僕は彼女が『秋津温泉』を手にするきっかけとなったのは、藤原審爾の別の本ではないかと思っていました。結局、その答えとなるべき言葉は『女優』の中になかったのですが。
その本は『秋津温泉』の2年後の昭和25年に出版されています。岡田さんはどこかの書店で「偶然」その本を目にして(あるいは岡田さんのことをよく知る人からその本のことを教えられたのかもしれませんが)、その本を手にとらずにはいられなくなり、で、藤原審爾という作家に関心を持って、その前に出ていた『秋津温泉』も読んだのではないかと。

吉備路文学館で見せていただいたのは、まさにその本でした。
本のタイトルは『魔子』。
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by hinaseno | 2014-10-14 14:42 | 雑記 | Comments(0)