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by hinaseno

フルニエ先生とハイドンのこと


あいかわらず午前中はハイドンの弦楽四重奏を聴く日々。今聴いているのは吉田秀和さんも大好きだという『五度』。「五度」って題名、どこからきたんでしょうか(調べればすぐにわかるはずですが、こういうのはあまり調べようとは思わない)。「ひばり」という曲も別にハイドンさんが「ひばり」というタイトルにして曲を作ったわけでも、曲ができた後で、よし、この曲のタイトルは「ひばり」にしようと決めたわけでもなく、後の時代の人がその曲を聴いているうちに、曲の雰囲気からいつしか「ひばり」というタイトルになったんですね。

そういえば、村上春樹が何かのエッセーでハイドンについて書いていなかったかなと何日か考えていて、ようやくわかりました。
エッセーではなくて小説。『海辺のカフカ』に登場する喫茶店のマスターにハイドンのことを語らせていたんですね。

確か『海辺のカフカ』が出版された後、どの登場人物が一番好きかっていうアンケートがあって、僕が一番好きだったのはこの喫茶店のマスターでした。
と、急に喫茶店のマスターが何位だったか気になったので調べてみました(こういうのは調べます)。

アンケートは、どの登場人物が一番好きか、ではなくて「もし『海辺のカフカ』がお芝居になったら、あなたは誰の役をやりたいですか?」でした。このアンケートの出題者は村上さん本人。
1位は大島さん(127票)、2位は一票差でホシノくん(126票)、3位はミミちゃん(94票)...、ミミちゃんって、たしかネコでしたね。
先日亡くなられた安西水丸さんが選んだのはナカタさんだったはず。ナカタさんはカーネル・サンダースさんと並んで第6位。
で、喫茶店のマスターはというと20位ですね。票数も20票。そのひとつ前の19位にランクされているのが峠口くん、峠口くんってどんな人だったっけ?
ところで、このアンケートをしたときには『海辺のカフカ』をお芝居にするなんて考えられないことと思っていましたが、確か今お芝居になって上演されているんですよね。果してお芝居の中に喫茶店のマスターは登場するんでしょうか。
僕はこの喫茶店のマスターは『海辺のカフカ』という物語で、最も重要な人物と考えているのですが、はたして。

喫茶店のマスターが登場するのは第34章。喫茶店は高松の駅の近くの商店街にあるんですね。星野青年が最初に行ったときにかかっていたのがベートーヴェンの「大公トリオ」。で、2度目に星野青年がいったときにかかっていたのがハイドン。
コーヒーを運んできたマスターは星野青年にこう言います。
「ハイドンの協奏曲、一番。ピエール・フルニエのチェロです」

マスターはさらに言葉を続けます。
「ピエール・フルニエは私のもっとも敬愛する音楽家の一人です。上品なワインと同じです。香りがあり、実体があり、血を温め、心臓を静かに励ましてくれます。私はいつも『フルニエ先生』と呼んでおります。もちろん個人的な親交があったわけではありませんが、私の人生の師匠のような存在になっています」

星野青年はしばらくの間、そのフルニエの演奏するハイドンを聴きながら子供の頃のことを回想します。そしてマスターにこう声をかけます。
「もし暇があったら、迷惑じゃなかったら、ここに来てちょっと話さないか。この曲を作ったハイドンというひとについて少し知りたい」

で、マスターはハイドンという人間とその音楽について星野青年に語り始めます。もちろんマスターの口を通して語られていることはいうまでもなく村上さん自身の言葉。

それはさておき、僕もこれを読んだ後でフルニエのCDを買って何度も聴きました。で、知らず知らずのうちに心の中で「フルニエ先生」と呼ぶようになっています。ただ、昨日気がついて、ちょっとというかかなりびっくりしたこと。
僕の持っているフルニエ先生のCDに収められているハイドンは協奏曲第2番だけ。『海辺のカフカ』の喫茶店で流れていたのは協奏曲第1番。なんということ!
by hinaseno | 2014-06-07 10:04 | 音楽 | Comments(0)