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by hinaseno
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『夏の日の恋』のヴァイオリン・ピッチカートを聴きながら...


朝から聴いているのはアル・カイオラの「Laramie」。テレビで放送された「ララミー牧場」のテーマソング。入手したCD『The Caiola Bonanza』に収録されていて、初めて聴いたのですがこれがたまらなくいいんですね。日本ではシングル盤も出ていたみたいです。レコード屋さんで何度か見かけた記憶があります。



イントロのヴィブラフォン、それからアル・カイオラのギターも素晴らしいのですが、その後に出てくる馬がゆっくりと歩くときの蹄の音を表す「パッカ・ポッコ」がたまりません。この音はどの楽器を使ってどうやって出しているんでしょうか。
個人的にはまだ「夏の日の恋」ブームが続いていますが、今はアル・カイオラの「Laramie」をヘヴィー・ローテーション中(エンディングがバカラックの何かの曲とそっくりな気が...)。

「夏の日の恋」といえば…
いやはやなんとも、驚きの話が。

昨夜、村上春樹の『女のいない男たち』を読み終えました。6つ収められた短篇を1日1篇ずつ。昨夜読んだのは最後に収められた表題作「女のいない男たち」。唯一の書き下ろしです。
なんとこれにパーシー・フェイスの「夏の日の恋」が出てきたんですね。しかもこれまでの作品のように、どこかでちらっと流れていたという形ではなく、もう少し意味のある形で。びっくりでした。

作品の後半にこんな言葉が出てきます。
僕がエムについて今でもいちばんよく覚えているのは、彼女が「エレベーター音楽」を愛していたことだ。

ドキッとして、もしかしたらと思ったら、次の行に「パーシー・フェイス」の名前が見えていました。
これだけかなと思ったらそうではなく、その後でパーシー・フェイスの「夏の日の恋」が出てきて、その曲にまつわる具体的な話が出てきます。ちょっとここには書けない話ですが。

そして作品の最後はこんな言葉で締めくくられています。
 エムが今、天国――あるいはそれに類する場所――にいて、『夏の日の恋』を聴いているといいと思う。その仕切りのない、広々とした音楽に優しく包まれているといいのだけれど。ジェファーソン・エアプレインなんかが流れていないといい(神様はたぶんそこまで残酷ではなかろう。僕はそう期待する)。そして『夏の日の恋』のヴァイオリン・ピッチカートを聴きながら、彼女がときどき僕のことを思い出してくれればなと思う。しかしそこまで多くは求めない。たとえ僕抜きであっても、エムがそこで永劫不朽のエレベーター音楽と共に、幸福に心安らかに暮らしていることを祈る。
 女のいない男たちの一人として、僕はそれを心から祈る。祈る以外に、僕にできることは何もないみたいだ。今のところ。たぶん。

考えてみると、今僕が聴いているアル・カイオラの「ララミー牧場」も、あるいはバカラックの曲も「エレベーター音楽」として聴き流されることの多い音楽。確か『バート・バカラック自伝』にも自分の作った曲が「エレベーター音楽」と見なされていることへの不満の気持ちが書かれていたような気もします。
僕にとってはそれらの音楽はまさに「仕切りのない、広々とした音楽」。ただし、ただただ「優しく包まれている」だけではないのですが。

村上春樹の『女のいない男たち』の表題作である書き下ろしの「女のいない男たち」は、おそらく大瀧さんが亡くなったあとに最初に書かれた村上春樹の作品だと思います。村上さんが大瀧さんの音楽にどれだけ触れていて、大滝さんの死をどのように受けとめられていたかは知る由もありません。ジャズとともにアメリカン・ポップスをこよなく愛してきた村上さんのこと、もしかしたら大瀧さんの「アメリカン・ポップス伝」を興味深く聴いていたかもしれません。
その「アメリカン・ポップス伝」を聴い続けてきて、僕なりに最も重要な曲と考えたパーシー・フェイスの「夏の日の恋」を、『女のいない男たち』の表題作の中の重要な曲として入れられている。これを単なる偶然というべきかどうか...、なんてことを思わせることが多いからこそ、村上さんに惹き続けられてしまっているのですが。

ちなみに『女のいない男たち』で最もよかったのは5作目の「木野」。まえがきを読むと、短篇集に収められた作品としては最初に書かれたようです。ただしこの「木野」だけは「推敲に思いのほか時間がかかった」とのこと。「何度も何度も細かく書き直した」そうです。
僕の印象では、この「木野」は、400字詰めの原稿用紙80枚には収まりきらない、相当大きな物語になる要素を含んでいるように思いました。おそらくは『ねじまき鳥クロニクル』のような作品になっていくのではないでしょうか。
ところで「木野」には「岡山」という言葉がちらっと出てきます。主人公である木野が「岡山に本社のある中堅企業」に勤めていたという設定。なかなかいい会社として描かれています。別に悪く書かれていても文句を言う議員さんがいるとは思いませんが。

そういえば北海道のあの町は架空の「上十二滝町」に変わっていましたね。「十二滝町」は『ダンス・ダンス・ダンス』に出てくる町。
「滝」という言葉が出てくるだけで反応してしまいます。
by hinaseno | 2014-04-25 10:00 | 文学 | Comments(0)