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by hinaseno
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一杯のコーヒーがもたらす親しさ(暖かさ)の問題


『象工場のハッピーエンド』についてもう少し。
僕は3種類の『象工場のハッピーエンド』を持っています。

まずは1983年にCBSソニー出版から出たもの。1980年代初頭のCBSソニーというと、やはり大瀧さんや松田聖子につながります。この頃、CBSソニーはいろんな新しい試みをやってたんですね。この時期にCBSソニーによって生み出されたものに僕は多大な影響を受けているんですね。ちなみに、このCBSソニーの『象工場のハッピーエンド』を手に入れたのは数年前のこと。
次に1986年に新潮文庫から出たもの。僕が最初に買って、ことあるごとに手にとっていたのはこれですね。僕の持っているのは第3刷。1988年。たぶんこの年の夏くらいに『ノルウェイの森』を初めて読んで、すぐに文庫本で出ていたものを全部買い集めたんだと思います。
1988年というと、ブライアン・ウィルソンが初のソロ・アルバムを出した年でもあります。
それから1999年に講談社から新版の『象工場のハッピーエンド』が出ていますね。

昨日この3冊を並べてみて初めて気づいたのですが、安西水丸さんのイラストって本によってかなり違っていたんですね。収められているページが違っていたり、あるいはこっちの本に収められているイラストが別の本には収められていなかったりとか。

安西水丸さんを特集した『イラストレーション』という雑誌の2011年3月号で、水丸さんが村上さんとの仕事で描いた絵をご自分で30位まで選んでいるのですが、その2位と3位が『象工場のハッピーエンド』に収められた絵でした。ちなみに1位は『ブルータス』の表紙になった村上さんの走っている姿を描いた絵。
僕が一番好きなのは以前に紹介したこの絵。ブライアン・ウィルソンのことを書いたエッセイに添えられたものですね。
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そんなことを考えつつ、『象工場のハッピーエンド』をぱらぱらと読んでいたら、ペーパーバックの話が出てきました。村上さんが初めて買ったペーパーバックはロス・マクドナルドの”My Name Is Archer”という短編集。17歳くらいの頃、ホレース・シルヴァーのレコードを聴きながら読んでいたとか。すごいですね。

ところで、しばらくバタバタしていて、朝、ゆっくりとコーヒーを飲む時間が持てなかったのですが、ようやくそれが持てるようになりました。
『象工場のハッピーエンド』にはコーヒーの話が出てきます。「ある種のコーヒーの飲み方について」というエッセイ。村上さんが書いているのはおそらくは神戸の風景のはず。
雨に日の海の近くのコーヒーショップ。店内に流れているのはウィンストン・ケリーのピアノ。村上さんの16歳のときの思い出。
最後にこんなことが書かれています。
時には人生はカップ1杯のコーヒーがもたらす暖かさの問題、とリチャード・ブローティガンがどこかに書いていた。コーヒーを扱った文章の中でも、僕はこれがいちばん気に入っている。

リチャード・ブローティガンという名前も、そしてウィンストン・ケリーというピアニストの名前もこの本で知りました。
村上さんが引用した言葉が収められているリチャード・ブローティガンの本は『芝生の復讐』。「コーヒー」というエッセイの中の言葉ですね。
藤本和子さんの訳はこうなっています。村上さんもきっと藤本さんの訳を読んでいたはず。
ときには人生は、ただコーヒー、それがどれほどのものであれ、一杯のコーヒーがもたらす親しさの問題だということもある。

藤本さんの訳の「親しさ」(原文では”intimacy”)が、村上さんの記憶では「暖かさ」となっているのが面白いですね。

ところで、僕は『象工場のハッピーエンド』の「ある種のコーヒーの飲み方について」の中の村上さんの次の言葉が、コーヒーを扱った文章の中でいちばん気に入っています。
僕が本当に気に入っていたのは、コーヒーの味そのものよりはコーヒーのある風景だったかもしれない。

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by hinaseno | 2014-04-01 10:43 | 文学 | Comments(0)