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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
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百閒がそのとき心に思い浮かべていた風景は...。


昨日、仕事から戻ると、一通の封筒が。もちろん、どなたからのものかはすぐにわかったのですが。中をあけてみると、なんとライル・リッツさんのCDが2枚(プラス・アルファ)。
僕の「ライルやライルや」を読んですぐに反応して録音したものを送ってくれたんですね。本当にありがたいです。昨日も書いたように、一枚は一昨日発見できたものですが、もう一枚は、僕がその存在を知ったときにはすでに廃盤になっていて、中古盤もかなりの高値になっているもの。もう、うれしくって。

というわけで、今、それを聴いています。
「Polka Dots And Moonbeams」もあります。
いくつかの曲で、大好きな楽器であるヴィヴラフォンが入っています。ウクレレとヴィヴラフォン。これだけで涼しくなります。と言っても、もうかなり涼しくなりましたが。
ヴィヴラフォン演奏者を見ると、なんとジーン・エステス。先日紹介した『スマイル・セッションズ』の「I Wanna Be Around」で、とってもオシャレなヴァヴラフォンを演奏していた人じゃないですか。
「Pick-A-Lili」という曲は、ペリー・ボトキン・ジュニアのお父さん(Perry Botkin Sr.)が作った曲とのこと。お父さんもミュージシャンだったんですね。
いろんな発見があり、幸せです。

百閒がそのとき心に思い浮かべていた風景は...。_a0285828_10393690.jpgところで、内田百閒の『ノラや』の話。
僕が持っているのは斎藤清が表紙絵を描いている中公文庫版なのですが、その最後に収められている(文庫によっては最後に収められているものが違うみたいですね)、カギかっこ付きの「ノラや」に興味深い話が書かれていました。このカギかっこ付きの「ノラや」は、百閒の亡くなる前年の昭和45年3月に書かれたものとのこと。以前に「ノラや」を書いたときの思い出を書いているんですね。百閒の最後の作品である『日没閉門』に収められています。ノラがいなくなって13年の歳月が流れていますが、そのいなくなった日(3月27日)が来ると、ノラのことを考えてしまうという話から始まります。でも、そのエッセイでは3月29日となっているのですが。百閒はこのとき80歳を越えています。

百閒が「ノラや」という作品を発表してから、全国からたくさんの手紙が来たそうで、中には三、四百枚になるくらいの手紙を小包に入れて送ってきた人もいるとか。とにかく「ノラや」はかなり多くの人の心を動かしたようです。もちろんそのひとりが高峰秀子さんですね。

さて、その百閒の亡くなる前年に書かれたカギかっこ付きの「ノラや」には、(ノラがいなくなったときに書いた)「ノラや」を書いていたときの興味深い話がありました。僕にとってはたまらない話。

百閒がノラを飼っていたのは、東京に住んでいたとき。岡山を離れて東京に行って漱石の門下生になってからすでに五十年近く経っています。でも、百閒は「ノラや」を書こうとすると、つらい気持ちでいっぱいになってしまって、なかなか書けない。で、百閒はそんな自分を励ますために、ある風景を心に思い浮かべていたんだそうです。その風景というのが、ちょっとびっくりでした。それは岡山の"ある場所"なのですが、今まで百閒の岡山に関するいくつかの話を読みましたが、その場所が出てくるのを読んだのははじめてでした。その部分を引用します。
 一心に念じて、つらい気持を駆り立て、「ノラや」の一文を書いた。書き続けてゐる間ぢゆう、いつも心に描いてゐたのは、備前岡山の北郊に在る金山(かなやま)のお寺である。
 金山の標高はどの位あるのか、よく知らないが、せいぜい六七百米だらうと思ふ。或はもつと低いかも知れない。しかし景色は大変よく、一眸の下に南の脚下にひろがる岡山の全市を見下ろす。私共は小学校の遠足で連れて行かれたが、登つて行くのがそんなに苦しい行軍ではなかつた。金山寺の前に起つて、目がパチパチする陽光を浴び、南から吹いて来る風を吸つて、思はず深い呼吸をした。
「ノラや」を書き続ける間、絶えずその景色が心に浮かんでゐた。

金山寺!
僕は「きんざんじ」と読んでいました。
ここにはやはり三重塔があって、しかも自宅からは自転車で行ける距離にあったので、何度も行きました。自転車で行くと坂がきついので、途中から押して行くことになるのですが、どこまで自転車に乗ったままで頑張れるかという競争をしていました。

その金山寺。昨年の暮れに火事で本堂が全焼したんですね。そのニュースを知ったときには本当にびっくりしました。幸い、少し離れたところに建っている三重塔は無事だったのですが。

その金山寺の写真、何枚も撮っているはずなのですがちょっと見当たりません。どこにいっちゃったんだろう。

ノラ、ノラと書いていたら久しぶりにこの人の曲が聴きたくなってしまいました。


by hinaseno | 2013-09-05 10:41 | 文学 | Comments(0)