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by hinaseno

ドビュッシーとの散歩


ここ最近、ほとんどゆっくりと読書する時間がなくて、数時間の空き時間、あるいは寝る前に本を読むと、数分で眠くなってしまう状況。そんな中、毎日ちょとずつ読んでいるのが青柳いづみこさんの『ドビュッシーとの散歩』という本。
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青柳いづみこさんはピアニストで文筆家。専門はドビュッシーですね。始めて読んだ彼女の本は『六本指のゴルトベルク』。毎日新聞に載っていた堀江敏幸さんの書評を読んで読みたくなったんですね。青柳さんは小川洋子さんの『やさしい訴え』の文庫本の解説も書かれていました。

青柳さんといえば、祖父があの阿佐ヶ谷会の青柳瑞穂、なんてことを知ったのは昨年のこと。木山捷平のことをいろいろ調べるなかで手にとった『「阿佐ヶ谷会」文学アルバム』を青柳いづみこさんと川本三郎さんが監修されていたんですね。ちょっとびっくりでした。

『ドビュッシーとの散歩』は基本的にドビュッシーのピアノ曲のひとつひとつでひとつの章をもうけて、その曲にまつわる興味深い話が書かれています。これまで聴き流していたかなりマイナーなピアノ曲もとりあげられているので、毎日1章ずつ青柳さんの文章を読んではその曲だけを聴いてみるという日々。新しい発見だらけです。「夢(Reverie)」が取り上げられてなかったことは残念なのですが。

例えば邦題が「帆」という曲についての話。この曲です。



YouTubeの画像でもこんな絵が貼られているように、ヨットの帆のことだとずっと思っていて、海に浮かぶヨットを思い浮かべながら夏に似合う曲として聴いていました。でも、実は原題の「Voiles」には「ヴェール」の意味もあって、ドビュッシーは二重の意味をもたせていたのではと青柳さんは書かれていますが、青柳さんの書かれていることをいろいろ読んで改めて「帆」を聴くと、だんだんとヨットの帆ではないような気がしてきます。そのエッセイの最後にはこんな言葉も。
誰だ、「帆」なんて訳したのは......。

さて、『ドビュッシーとの散歩』には「スペインもの」という章があります。ドビュッシーが書いたスペインに関する曲をまとめて語っています。結構多いんですね。
代表的なものはやはり昨日触れた『管弦楽のための映像』の「イベリア」。それからピアノ曲では『版画』の「グラナダの夕」、『前奏曲集第一巻』の「とだえたセレナーデ」、『前奏曲集第二巻』の「ヴィノの門」など。ドビュッシーの「スペインもの」に関して青柳さんはこう書いています。
ドビュッシーの「スペインもの」には、優雅でおしゃれなフランス文化にはみられない、ちょっとグロテスクな、ちょっとおどろおどろしい雰囲気が漂っている。

「ヴィノの門」(あの有名なアルハンブラ宮殿の入場門のひとつとのこと)は、スペインの作曲家ファリャからもらった絵ハガキにヒントを得て作ったのものとのこと。実はドビュッシーは一度もスペインに行ったことがなかったんですね。で、できた曲を聴いたファリャは、本物のスペイン人よりもスペイン的な音楽を書いたと驚いたそうです。

ドビュッシーの作った「イベリア」を聴きながら、ジェリー・リーバーは、その曲のようなスペイン風の曲を作ろうとフィル・スペクターに話をもちかけたみたいですが、実はそれはスペインに行ったこともない人間がスペインのことを空想して作った曲だったということ。なかなか面白い話です。

そういえば、大瀧さんの「カナリア諸島にて」の詞を書いた松本隆さんは、実はカナリア諸島なんて行ったことがなくて(何年かのちに行ったそうですが)、当時好きでよく読んでいた小川国夫の小説(『アポロンの島』?)の中にカナリア諸島という場所が出てきて、その言葉が気に入って使ったそうです。
あのメロディに「カナリア諸島(カナリアン・アイランド)」以外の言葉は考えられないですね。

青柳いづみこさんが演奏する「グラナダの夕」があったので貼っておきます。


by hinaseno | 2013-08-25 09:44 | 音楽 | Comments(0)