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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
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大瀧さんの作ったバッジと、だるまストーブの間にいた女性の話


音楽の話から少しだけはなれて。
昨日気づいた話です。いつものように、気づくのが遅いのですが。

先日、芥川賞、直木賞の発表がありましたが、その直木賞を受賞した桜木紫乃さんのこと。
本は読んだことはないのですが、どこかで見た名前だなとずっと思っていたのですが、昨日、岡崎武志さんのブログを読んでいて、ああ、そうかと思って、ある本をぱらぱらとめくっていたら、桜木紫乃さんの名前はいとも簡単に見つかりました。なぜなら、そのページには付箋が貼ってあったから。付箋を貼ったのは桜木紫乃のことではなく別の大切な話。そして、その次のページにも付箋を貼っていました。
つまり、桜木紫乃さんの名前は僕にとって大事な二つの話にはさまれていたんですね。何度も見ていたはずでした。

その本というのは川本三郎さんの『そして、人生はつづく』。この本に書かれたことに関する話はこのブログでも何度もしてきました。それを最初に紹介したこの日のブログ
例の大瀧さんが作られて川本さんに渡されたというバッジの話。『そして、人生はつづく』に収められた「風景が、町が語る。」の中に書かれている話ですね。大瀧さん、川本さんファンにとってはうれしくてたまらない話だったのですが、その日のブログで僕はそのあとに出てくる佐藤泰志の『海炭市叙景』の話に触れています。今はもうなくなってしまっただるまストーブの前で読んだ本ですね。この2つの話の間に桜木紫乃さんの話が出てくるんです。そのページの写真を貼っておきます。
大瀧さんの作ったバッジと、だるまストーブの間にいた女性の話_a0285828_11102574.jpg

大瀧さんのバッジの話のすぐあとにこんな言葉が出てきます。
 最近いちばん注目している女性作家は桜木紫乃さん。北海道の釧路の生まれ。現在は、札幌市に近い江別にお住まい。次第に寂れてゆく北海道の町々を舞台に、そこに住む人々の哀歓を描き続けている。
 北海道を第二の故郷と思っている人間には実に親しみの持てる作家。新書『硝子の葦』(新潮社)も釧路を舞台にしている。

このあと、『硝子の葦』の話を少し説明された後で、その本の帯の言葉に苦言を。
それにしてもこの傑作。帯の惹句が考えもの。「爆発不可避」だの「〈怪物的〉傑作!」だの、これではまるでアクション映画。次第に人口が減ってゆく北海道の町に、それでもなお生きようとする人々の懸命な姿を描いた小説にこのコピーはないだろう。
 もちろん編集者は、なんとか桜木紫乃さんをメジャーにしたい、多くの人に読んでほしいと思ったのだろうが、的はずれの感は否めない。

で、その次にこんな言葉が出てきます。
 桜木紫乃さんの小説を読んでいてすぐに思い出すのは、佐藤泰志の『海炭市叙景』(集英社、1991年)。1949年、函館に生まれた佐藤泰志が故郷の町を舞台に、そこに暮す人々を描いた群像劇。作者が1990年、41歳の若さで自死したために未完に終ったが、群像劇という日本の小説ではあまり例のない形式を取った意欲作で、個人的に大好きな小説。
 シャーウッド・アンダソンの『ワインズバーグ・オハイオ』、ソーントン・ワイルダーの戯曲『わが町』、あるいは映画でいえば、レイモンド・カーヴァー原作、ロバート・アルトマン監督『ショート・カッツ』などのあめりか文學におけるスモール・タウンものの系列に入る。
 桜木紫乃さんの一連の小説は、ハードボイルドでもなく、『恋肌』の惹句にあった「新官能派」でもなく、佐藤泰志『海炭市叙景』に通じる北海道スモール・タウンものと考えている。

『そして、人生はつづく』にはそのあとにも桜木紫乃さんの話がいくつか出てきます。どれも『東京人』に連載されたもの。川本さんはどうやら桜木紫乃さんと手紙のやりとりをするようになったみたいですね。
で、ある日、北海道に行ったときに初めて桜木紫乃と顔を合わせることになります。つい先日ここでも紹介した川本さんの『白秋望景』が伊藤整文学賞を受けることになり、その授賞式が小樽で行なわれたんですね。そこに桜木紫乃が見えられたとのこと。
彼女がそのときに川本さんに語った言葉。この話は僕も覚えていました。こんな言葉です。

「桜木紫乃っていうペンネーム、AV女優みたいで恥ずかしくて」

というわけで、桜木紫乃さんの本、読まなくちゃいけないですね。
直木賞を受賞したものよりも『硝子の葦』、あるいはもうひとつ川本さんが詳しく紹介されていた『起終着駅 ターミナル』、特にその最後に収められた「潮風(かぜ)の家」を先ず読んでみたいです。
by hinaseno | 2013-07-21 11:12 | 文学 | Comments(0)