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by hinaseno
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夏の海 ― ニューゼルシー州アシベリイパーク(8)


夏の海 ― ニューゼルシー州アシベリイパーク(8)_a0285828_944028.jpg

荷風が1904年の夏のある日、ほんの数時間だけ行ったニュージャージー州アズベリーパークという海辺の町の話も今日が最後。ずいぶん荷風からも、アズベリーパークからもはなれた話をしてしまいましたが。

僕の持っている2000年に出たディオンのアルバム(CD3枚組のボックス)のブックレットに、こんな写真が載っています。
夏の海 ― ニューゼルシー州アシベリイパーク(8)_a0285828_9441422.jpg

向かって左側でにっこり笑っているのがディオン。そして右側ではにかんだ笑顔を見せているのがブルース・スプリングスティーン。そして真ん中で、にこりともせずに、サングラスをかけて不気味な表情を浮かべているのがフィル・スペクター。
いつ、どういう場所で撮られたものか何も書かれていないのですが、おそらく1989年にディオンとフィル・スペクターがロックの殿堂入り(Rock and Roll Hall of Fame)をしたときのものではないかと思います。

スプリングスティーンは上の世代のロックンローラー、とりわけ僕の好きなアーティストへの深い敬意を持っていて、そういう人たちがロックの殿堂入りをしたときには必ず敬意にあふれたコメントをしていて、そういう言葉から僕はスプリングスティーンという人を理解するようになりました。音楽からよりも言葉から入ったという、ちょっとおかしな経緯。
最も印象的だったのは、やはり僕の大好きなアーティストであるロイ・オービソンが1987年にロックの殿堂入りしたときのこの言葉。
I wanted to make a record with words like Bob Dylan that sounded like Phil Spector, but most of all I wanted to sing like Roy Orbison.
僕はボブ・ディランのような歌詞とフィル・スペクターのようなサウンドでレコードを作りたいと思っていたんだけど、でも、とりわけロイ・オービソンのように歌いたかったんだ。

この言葉を最初に知ったのは新春放談でした。達郎さんがロイ・オービソンの曲をかけるときかなにかで大瀧さんに語ったように思います。

そういえばその頃の新春放談で大瀧さんはこんなことを言っていたように思います。ビーチ・ボーイズの1985年に出たアルバム『The Beach Boys』に収められた「ゲッチャ・バック」という曲の話。言葉の記憶はおぼろげですが。
(ビーチ・ボーイズの)マイク・ラブはスペリングスティーンの「ハングリー・ハート」を聴いて、そんな曲を作ろうと思って「ゲッチャ・バック」を作ったんだって。でも何も今さらスプリングスティーンの「ハングリー・ハート」をやんなくってもねえ〜。それって話が逆じゃない。

当時、スプリングスティーンの「ハングリー・ハート」どころかフィル・スペクターの楽曲もよく知らなかったので、大瀧さんのこの言葉の意味は正確に理解できなかったのですが、後でわかったことは、スプリングスティーンが「ハングリー・ハート」を作るときにはフィル・スペクターを強く意識していて、ビーチ・ボーイズもそれ以前にフィル・スペクターを意識した曲を何曲も作っていて、スプリングスティーンも当然、フィル・スペクターを意識して作られたビーチ・ボーイズの曲をいくつも知っていたはずで、つまり「ハングリー・ハート」という曲の中にはフィル・スペクターだけでなくビーチ・ボーイズ的なものも含まれているのに、その「ハングリー・ハート」みたいな曲をまねて作ったというのがおかしかったんですね。
ちなみに「ゲッチャ・バック」の曲作りにブライアン・ウィルソンは関わっていません。その頃ブライアンはまだ廃人状態から回復途中。
そういえば、1985年頃、あるラジオ番組に大瀧さんが出演していて、そこでビーチ・ボーイズの「ゲッチャ・バック」がかかったときに、パーソナリティーの人が「大瀧さんが作った曲みたいですね」と言って、大瀧さんが「ドキッ」と答えたのが印象的でした。
スペクターをキーワードにしていくつもの素晴らしい楽曲が生まれているということ。佐野元春の「サムデイ」もそのひとつですね。

さて、そんなふうにして僕はブルース・スプリングスティーンというミュージシャンをかなり変則的な形で理解し始めて、2000年過ぎからリアルタイムで彼のアルバムを聴くようになります。
そんな中で僕が最も好きな曲が2007年に出た「Girls In Their Summer Clothes」という曲。これはもう見事なほどのスペクター・サウンドの曲。
で、最近気がついたのが、大好きで何度も見ていたこの曲のプロモーションビデオの撮られた場所が、まさにアズベリーパーク付近の海岸だということ。

“Asbury Park, NJ”と記された古い写真、”Jersey Girl”と書かれたTシャツを着た少女、それから荷風も歩いたはずのボードウォーク(遊歩道)も出てきます。背後に広がるのはまさにアズベリーパークの夏の海。いろんなことを知って改めて見るとかなり切ない気持ちになってしまいます。

海辺で遊ぶ幼い少女と海辺でくつろぐ年老いた女性。アズベリーパークの過去と未来。

by hinaseno | 2013-05-24 09:50 | 文学 | Comments(0)