人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Nearest Faraway Place nearestfar.exblog.jp

好きなリンク先を入れてください

Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

夏の海 ― ニューゼルシー州アシベリイパーク(4)


夏の海 ― ニューゼルシー州アシベリイパーク(4)_a0285828_10485134.jpg

村上春樹は1991年の2月から約2年半、ニュージャージー州に暮らしました。場所はプリンストン。そこにあるプリンストン大学で講義をするかたわら小説を書いていたんですね。内陸にあるプリンストンは海岸沿いのアズベリーパークからは50km以上離れています。かなりの距離ですね。
それだけ離れた海辺の小さな町に村上春樹はおそらく3度くらい車で行ったようです。
理由はただひとつ。
彼と同い年で、「密かな連帯感」を抱いている一人のミュージシャンがその町で育ち、そこで音楽活動を始めたことを知っていたから。
そのミュージシャンとは言うまでもなくブルース・スプリングスティーン。

荷風が1905年の7月10日に行ったニューゼルシー州アシベリイパークという場所がニュージャージー州アズベリーパークであることがわかったときに、その町のことを調べようとネットで検索したらブルース・スプリングスティーンがずらっと出てきたんですね。僕はそこで気がついたわけです。

ブルース・スプリングスティーンは僕の大好きなミュージシャン。敬意も抱いています。きっかけはと言えば佐野元春でしたがそのあたりのことを書き出すと、話はまたすごく長くなってしまいますので、今回は書かないことに。
たぶん最初に聴いた彼の大ヒット曲「Born in The U.S.A.」は、そのマッチョなイメージを含めてちっとも好きになれませんでした。「Born in The U.S.A.」という曲にまつわる誤解されたイメージ(特にレーガンの愛国的なキャンペーンにつなげられたイメージ)については村上春樹が『意味がなければスイングはない』でかなり詳しく書いています。

僕はその数年前に出たディオンの『Déjà Nu』というアルバムでカバーされた2曲のスプリングスティーンの曲(これこれです)を聴いた頃から、ブルース・スプリングスティーンに抱いていたイメージが変わりつつあったので、村上春樹のスプリングスティーンに関する文章を読んだときには(実際には単行本になる前に『ステレオサウンド』という雑誌に「音楽のある場所」と題されて連載されていたときに読んだのですが)、スプリングスティーンというミュージシャンに対して持っていた誤解がとけたばかりか、今まで全く注意を払うことのなかった彼の曲の詞にこめられている思いを知ることが出来、それから後追いの形でいろいろ聴くようになりました。

彼の作った曲には、まさにアズベリーパークで過ごした日々を描いた「4th Of July, Asbury Park (Sandy)」というタイトルの曲があります。
この曲ですね。とっても素敵な曲です。ライブバージョンの方がいいのでそちらを貼っておきます。最初に「サンディ」と言った時の観客の反応がいいですね。


邦題は「7月4日のアズベリーパーク」。
荷風がアズベリーパークに行った日が7月10日ですから、わずか6日違い。「7月10日のアシベリイパーク」と「7月4日のアズベリーパーク」。まあ、実際には60年以上もの歳月が流れてはいるのですが。
7月4日はもちろんアメリカの独立記念日。曲が作られたのは1970年代初頭。詞の内容は、彼がもう少し若かった1960年代後半の日々を描いているように思います。荷風が訪れた時からは60年以上も過ぎ去ったアズベリーパークの風景。

下に一応英語の歌詞を載せておきます。日本語に訳そうかと思ったのですが、曲が長過ぎてかなり大変そうなのでやめました。また時間があるときにします(僕の持っているこの曲の入ったCDは輸入盤なので対訳がありません。ネットにはいくつか訳が載っています)。
Sandy the fireworks are hailin' over Little Eden tonight
Forcin' a light into all those stoned-out faces left stranded on this fourth of July
Down in town the circuit's full with switchblade lovers so fast so shiny so sharp
As the wizards play down on Pinball Way on the boardwalk way past dark
And the boys from the casino dance with their shirts open like Latin lovers along the shore
Chasin' all them silly New York girls

Sandy the aurora is risin' behind us
The pier lights our carnival life forever
Love me tonight for I may never see you again
Hey Sandy girl

Now the greasers they tramp the streets or get busted for trying to sleep on the beach all night
Them boys in their spiked high heels ah Sandy their skins are so white
And me I just got tired of hangin' in them dusty arcades bangin' them pleasure machines
Chasin' the factory girls underneath the boardwalk where they promise to unsnap their jeans
And you know that tilt-a-whirl down on the south beach drag
I got on it last night and my shirt got caught
And that Joey kept me spinnin' I didn't think I'd ever get off

Oh Sandy the aurora is risin' behind us
The pier lights our carnival life on the water
Runnin' down the beach at night with my boss's daughter boy
Well he ain’t my boss no more Sandy

Sandy, the angels have lost their desire for us
I spoke to 'em just last night and they said they won't set themselves on fire for us anymore
Every summer when the weather gets hot they ride that road down from heaven on their Harleys they come and they go
And you can see 'em dressed like stars in all the cheap little seashore bars parked making love with their babies out on the Kokomo
Well the cops finally busted Madame Marie for tellin' fortunes better than they do
This boardwalk life for me is through
You know you ought to quit this scene too

Sandy the aurora's rising behind us, the pier lights out carnival life forever
Oh love me tonight and I promise I'll love you forever

スプリングスティーンが青春時代を過ごした1960年代後半の夏のアズベリーパークは、すでに荷風が行った時のような上流階級の人たちが集まるリゾートタウンではなくなっていることがわかります。スプリングスティーンもアズベリーパークからは一刻も早く出て行きたがっているのがわかります。

町の道路では若者たちが車をぶっとばしている。きちんとした身なりの紳士、淑女が歩いていた遊歩道(ボードウォークですね)周辺には、たちの悪そうな若者たちがたむろしていている。彼らは喧嘩をするか、あるいは女の子をものにしようと目をギラギラさせている。
ボードウォークというと、ドリフターズの歌った「Under the Boardwalk」という曲もありますが、ボードウォークの下にも、不良たちの隠れた物語がある。
”Chasin' the factory girls underneath the boardwalk where they promise to unsnap their jeans”なんて、訳はしませんが、そういう場所だったんだなと思ってしまいます。

曲の最後でスプリングスティーンはこう言っています。
This boardwalk life for me is through
You know you ought to quit this scene too
「こんなボードウォークでの暮らしは、僕にとってはもう終り。君もこんなシーンからは降りたほうがいいよ」


ところで、この曲の副題は「Sandy」。もちろん女の子の名前。
昨年の暮れ、まさに同じ名前のハリケーンがアメリカの東海岸を遅い、アズベリーパークにも甚大な被害をもたらしたんですね。YouTubeに”Asbury Park” “Sandy”と入れるだけでたくさんの被害映像が出てきます。復旧したのか、さらに見る影もなくなってしまったのか。
でも、すごい皮肉ですね。スプリングスティーンはこれに関して何かコメントしてるんでしょうか。

一応参考までにこの映像を貼っておきます。

by hinaseno | 2013-05-20 10:54 | 文学 | Comments(0)