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by hinaseno
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季節を持っている村上はるきと、彼の知命の年


今朝の地震にはびっくりしました。携帯から緊急地震速報が来るのも初めて経験しました。

さて、そろそろ永井荷風の『断腸亭日乗』から離れようと思っていたのですが、昨日、またそれに関するある興味深いものを発見したのでそれを書いておきます。

昨日と言えば、そう、村上春樹の新作が発売された日です。『色彩を持たない多﨑つくると、彼の巡礼の年』。タイトルは事前に発表されていて、その不思議なタイトルの意味を僕も考えていたのですが、最初の章だけを読んで「色彩を持たない多﨑つくる」の意味が分かりました(僕も色彩を持っていません)。
村上さんの本は一気に読んでしまいたいのですが、その逸る気持ちを抑えて、一日、一章ずつ読むようにしています。でも、恐いのは、あまりゆっくり読んでいると、目にしないように心掛けていても、いろんな情報が入ってくる可能性があることです。読み終えるまでは一切ネットとの関わりを断とうかなと思っているくらいです。

で、話はその村上春樹と関係があるのですが、昨日その『色彩を持たない多﨑つくると、彼の巡礼の年』を近所の書店に買いに行ったときのこと。書店に行くのは久しぶりだったのですが、村上さんの新作を手にして、前から気になっていた岩波文庫版の永井荷風の『濹東綺譚』を探しに行きました。僕が持っているのは荷風の撮った写真が載っている復刻版のものなのですが、岩波文庫版は新聞掲載時に使われた木村荘八の絵が載っているというのを最近になって知って、ほしくなったんです。うれしいことに書店にはちゃんと置かれてありました。それを手にするとき、そのそばに、全集が手に入ったときに手放した『断腸亭日乗』の文庫があるのが目に入りました。その瞬間、はっと気がついたんです。
僕が最初に岩波文庫版の『断腸亭日乗』を買ったきっかけは村上春樹だと。ずっと川本三郎さんがきっかけだと思っていたのですが、そうではないことに気がついたんです。家の戻って調べてみたら、やっぱり。しかもそこには面白いことがいくつも書かれていました。

僕がパソコンをいちばん最初に購入したのは1998年7月末。前にも書いたと思いますが、僕がパソコンを買ったきっかけになったのも、やはり村上春樹でした。村上さんが当時ネット上でやっていた「村上ラヂオ」が見たかったのと、パソコンがなければ見れないCD-ROMの入った『夢のサーフシティ』を買ったことがきっかけでした。
パソコンを買ってから閲覧した「村上ラヂオ」は『スメルジャコフ対織田信長家臣団』に収められています。今確認したら、今使っているMacでは、その本に収められたCD-ROMは見ることが出来なくなっています。その中には僕が村上さんから返事をもらった唯一のやりとりが含まれているのに。何か見る方法あるのかな。

さて、その1998年9月22日の「村上ラヂオ」で、〈今月の読書・その2〉として『断腸亭日乗』が取りあげられています。こんな書き出し。

『断腸亭日乗』(岩波文庫)は37歳から79歳までの永井荷風の日記ですが、荷風が僕の年の頃に何をしていたのかなと興味があったので、49歳のところを集中的に読んでみました。昭和2年のことです。なんかほとんど毎日銀座で酒を飲んで、女給と遊んでいるんですね。いいなあ。でもときどきいろんなことにひどく腹を立てていて、おかしいです。そのままでは漢字がとても変換できそうもないので、あらすじを現代語訳しますと、...


ということで、なんと『断腸亭日乗』の村上春樹現代語訳が読めるんです。昭和2年1月6日の日記。自分と同じ年齢の頃に荷風が何をしていたかと思って、その年のところを読むというのは今まさに僕がやっていることです。やりたくなりますね。
『スメルジャコフ対織田信長家臣団』を見ると、翌年の1999年10月8日の「村上ラヂオ」でも『断腸亭日乗』をとりあげていて、別の日の日記―これは日付が書かれていないのですが、調べたら(こういうときは索引が便利です)昭和15年2月16日のもの―の村上春樹による現代語訳が載っていました。村上さん、自分の年齢以降の部分も読み進めていたんですね。
つまり村上春樹は50歳を迎える頃に『断腸亭日乗』を読んでいたことになります。その頃に書かれたのが『神の子どもたちはみな踊る』。ここでも前に書きましたが、『神の子どもたちはみな踊る』はあの神戸の震災を受けた『地震のあとで』という連作を収めたもの。今朝の地震があの日の地震を思い起こさせるものでしたので不思議なつながりを感じずにはいられません。『神の子どもたちはみな踊る』に収められた作品も改めて読み直してみたいですね。もしかしたら『断腸亭日乗』の影響をどこかに見ることができるかもしれません。

ということで、次回は荷風の『断腸亭日乗』と村上春樹の現代語訳を載せてみようと思います。もちろん、いくら大好きな村上春樹が現代語訳しているからといっても、『断腸亭日乗』はやはりあの漢文まじりの文語体が魅力的であるのには違いありません。でも、比べてみるのも面白いのではないかと思いました。
ただ、村上さんが言っているように旧字だらけの荷風の文章をワープロで変換するのは本当に大変。まあ、がんばります。写経のようなものです。
by hinaseno | 2013-04-13 10:17 | 文学 | Comments(0)