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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
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  昭和20年7月の荷風(その12)


白石橋を越えて向かったのは妹尾(せのお)という場所でした。荷風は白石橋を渡ってからの風景をこんなふうに描写しています。

倉づくりなる農家の立ちつづくあひだに清流盈〻たる溝渠の迂曲して通ずるあり。樹陰の桟橋に村の女の食器を洗ふあり。窓の下に繋げる田舟に児童の小魚を捕ふるあり。これ等田園の好画図は余のこの地に来つて初めて目にするところなれば徒歩のつかれを知らず。道を村媼に問ふこと再三。


  昭和20年7月の荷風(その12)_a0285828_14425497.jpg荷風が書いている通り妹尾に近づくにつれて、あちこちで水路に出くわします。小さな橋がたくさんあって、歩いて渡るのにはいいですが、車では渡ることができず、何度も行き止まりになって、「村媼」ではなく、いろんな人に「道を問ふこと再三」でした。
でも、こんな水路を眺めていると、70年前の荷風が見た風景、つまり樹陰の桟橋で食器を洗う女性の姿や、窓の下に繋げる田舟で小魚を捕っている子供たちの姿が見えるようです。実際、このあたりのいろんな場所で子供たちの遊んでいる姿を見ることができました。

  昭和20年7月の荷風(その12)_a0285828_14432166.jpgで、車で通れない道やら橋やらに出くわしては何度も何度も引き返して、ようやく平松さんの果樹園があったと思われる、妹尾の丘の麓に辿り着きました。これがその丘です。だいたい僕が前もってイメージしていた通りの高さの丘でした。地図にはこの山の名前は載っていないのですが、山の麓に住んでいる人に伺ったら春辺(はるべ)山という名前がついているとのことでした。昔の万葉集か何かの歌にも歌われてるとのことでした。後で戻って家にあった岡山文庫の『岡山の風物』の「妹尾」のところを調べたらこんな歌が載っていました。でも、残念ながら、だれが、いつ詠んだものかは書かれていませんでした。

煙に立つ春辺の里は古の 難波の御代の気色こそすれ


というわけで、僕は荷風が見たような風景が本当に見えるかどうか、この山に登ってみることにしました。実は結構大変でした。
by hinaseno | 2013-04-05 14:46 | 文学 | Comments(0)