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by hinaseno
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  昭和20年7月の荷風(その5)


  昭和20年7月の荷風(その5)_a0285828_9334214.jpg一昨日、墓好きの荷風の話を書いたときに、是非この写真をと思っていたものがあったのですが、貼り付けるのを忘れてしまいました。

墓を前にした荷風。
僕が見た荷風の写真の中では最も好きなもの。写されているのに全く気づいていないようです。
これは昭和23年頃に撮られたものなので、岡山に滞在していた時期からは3年くらい後の写真です。でも、きっとこんな感じで歩いたり、佇んだりしていたんでしょうね。

さて、昨日の話の続き。昨日引用した7月18日の日記では、夕方、妙林寺の背後の墓地をぬけて山道を歩いています。

日暮妙林寺後丘の墓地を繞る山径を徜徉す。山は皆石山にて松林深き処人家碁布す。林間に畠ありまた牧場あり。人家の庭に甘草孔雀草の花を見る。小径を行くに従ひ林間を上下するに忽ちにして山間に通ずる大道に出づ。大道は三門町停車場のあたりより西北の方に走り吉備津の町に通ずるものなるが如し。四方の山麓及び路傍の家屋中その稍大なるは石材を商うものなり。


山から抜けて「大道」に出たときに、まわりに見える山のふもと、あるいは道沿いに「石材を商う」家がいくつもあることを発見します。

この日、荷風が歩いた道のりを地図で辿るとおそらくこの赤線の部分になるように思います。
  昭和20年7月の荷風(その5)_a0285828_9343025.jpg
右下の四角で囲んだのが妙林寺、荷風の滞在していた家はその丘のすぐ南のふもとにあります。墓地のまわりにはいろんな道があるのですが、「大道」に出られる道はちょっと歩いてみた限りこの道しかないように思いました。荷風が山道を抜けて行き当たった「大道」は現在の国道180号線ですね。ここから荷風はもしかしたら少しだけ北の方向に歩いたのかもしれませんが、日記では「夜色の迫り来るに驚き、道をいそぎて家にかへる」と書かれているので、途中で引き返して家に戻ったんでしょうね。同じ道を通って帰ったのか、大道を南に下って帰ったかはわかりません。

さて、荷風が「大道」に出て発見した、いくつもの「石材を商う」家。実は地図の左の赤で○を囲んだ部分に採石地がありました。この地図を見てもその周辺にいくつも石材の工場や店があるのがわかると思います。
この辺りの地名は地図にある通り「万成(まんなり)」、ここで採れる石は「万成石」といわれています。御影石(花崗岩)の一種ですが、桜色がかった色をしているために「桜御影」とも呼ばれているみたいですね。全国的に知られるブランドになっている石。おそらく荷風が見た妙林寺の墓地や、墓地近くの道沿いに立っていた石柱のほとんどはこの万成石だっただろうと思います。

で、荷風はもちろん気づくはずもなかったのですが、この万成石を使って作られた有名な建物を、荷風は銀座で何度も目にしていました。『断腸亭日乗』には何度もその建物の名前が出てきます。さらには、あの『濹東綺譚』にも。

その建物とは、銀座4丁目にある「服部時計店」。
by hinaseno | 2013-03-28 09:38 | 文学 | Comments(0)