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by hinaseno
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夏越える沢道


 川本三郎さんの『そして、人生はつづく』を読み終えた時、その中で最も気に入ったものとして「遠い声」という話のことをに少しだけ紹介しました。そのときには川本さんの携帯電話に幼い少女から「おじさん?」と電話がかかってきたことまでを書きました。 
 その少女の言葉はこう続きます。

 「昨日、お母さんと線路見つけたよ」

 川本さんは一瞬何のことだろうと思います。でも、そのあとでかわった「お母さん」の説明で事情を知ります。以前川本さんが北海道を旅したときに、ある廃線になった鉄道の跡を見に行ってたんですね。水上勉原作、内田吐夢監督の『飢餓海峡』という映画に出てくる線路。とっくに廃線になっているのですが、ところどころに廃線の跡が残っているというのを川本さんは知っていたので、その線路の始発駅であるKという小さな駅に行って、駅の周辺を1時間くらい探します。でも、結局見つからない。で、仕方なくあきらめてKという駅に戻ります。
 するとはじめは誰もいなかったはずの駅前に若い母親と小学2、3年生くらいの小さな女の子がいるのに気付きます。夏休みの宿題として少女は炎天下の中、K駅をスケッチしていたんですね。
 川本さんは列車を待つ間、2人と話をします。川本さんが東京から、今はもうなくなってしまった鉄道の線路を見に来たというと、若い母親はびっくりします。ずっとその町に住んでいるのに、そのことを知らなかったんですね。そこに汽車が走っていたことを話すと女の子は「お母さん、汽車って何?」と聞きます。

 持参した昔の列車の写真を何枚か見せると親子は目を輝かせた。女の子は蒸気機関車に見入っている。この廃線の跡の写真を撮りに来たが探せなかったというと母親は「お祖父ちゃんに聞いて探しています。見つかったら連絡します」と私の番号を聞いた。

 で、ある日の夕暮れ時に川本さんの携帯が鳴ります。女の子は川本さんが東京に戻ってから線路の跡を探し続けていたんですね。

夏越える沢道_a0285828_10561024.jpg
 この線路、岩内線といいます。『飢餓海峡』には終着駅である岩内の町も出てきます。そして、もちろんKという小さな駅がどこかもわかりました。もちろん調べればすぐにわかることだとは思いますが、何となく「K」という、実在しているようなしていないような名前のままにしておきたいように思いました。ここに、ネット上で見つけたその駅の写真を貼っておきます。
 女の子が描いたこの駅の絵、見てみたいですね。今はもう女の子は5、6年生になっているんでしょうか。今でもときどき、お母さんか、あるいはお祖父さんといっしょに線路の跡を探しているような気がします。アイヌ語で「夏越える沢道」という綺麗な意味を持つ「K」という町、それから岩内、また遠く離れた町が自分の中に入ってきました。

 ところで、実はこの話を読み終えた数日後にちょっと不思議なことが起こります。まるで、川本さんの携帯にかかってきた、Kという小さな町に住んでいる女の子の声が呼び水になったのではないかと思うような出来事です。ちょっとびっくりするようなところに昔、線路が通っていて、おそらくは線路の跡がいくつか残っていることを知ったんです。本当に偶然に目にしたこの写真。
 今日か明日、その線路の跡を見てこようと思っています。
夏越える沢道_a0285828_10552524.jpg

 そういえば、『飢餓海峡』を観たりしてずっと「岩内線」のことを考えているときに、先日書いた佐野さんの「Bye Bye C-Boy」という曲のことが急に大好きになってしまって、ちょっとギターを弾きながら歌ったりもしてたのですが、その歌の最後は「Bye Bye C-Boy 何も 言わないで」。
 「いわないで」、「岩内で」。
 くだらないシャレですが。
by hinaseno | 2013-02-10 10:56 | 文学 | Comments(0)