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by hinaseno
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  遠い声


昨夜、川本三郎さんの『そして、人生はつづく』を読み終えました。いつもであれば川本さんの本は時間をかけて(地図を見たり、別の本を見たり)、寄り道と途中下車ばかりしながら読むのですが、今回は一気に読んでしまいました。川本さんの本を読むことの幸せというのは何ごとにも代え難いものだなと改めて感じ入りました。

大瀧さんに触れた話とか、うれしくなるような話も多かったのですが、特にうれしく思える話が最後の方にありました。それについてはまた後日。

僕は川本さんから数えきれないほどの影響を受け続けてきているのですが、今回この本を読んで新たに思ったのは、ああ電車(汽車と呼びたい)に乗ってどこか木造駅舎のある駅で降りて、鄙びているにちがいない町を歩いてみたいということでした。

調べてみると、岡山には結構いい感じの木造駅舎がまだ多く残っていることがわかりました。もともと木造建築には惹かれるところがあって、いろいろめぐった時期はあるのですが、でも木造駅舎にはなぜか関心がいくことはありませんでした。でも、今回むくむくとそんな気持ちがわいてきたんですね。

  遠い声_a0285828_9183390.jpgそういえば今回、川本さんの『そして、人生はつづく』の表紙に描かれているのも木造駅舎。木版画の素敵な絵です。作者は岡本雄司という人。年配の人かと思ったのですが、調べたら1971年生まれとのこと。結構若い方だったんですね。岡本さんのサイトを見たら、川本さんの本に使われている絵のほか、素敵な作品が並んでいます。でもどれも限定20部くらいで、一般には販売されていないみたいです。特に小湊鉄道(たぶん川本さんの本の中で何度か出てきたように思います)の駅舎を描いた「終点まで」という作品が気に入りました。『そして、人生はつづく』の表紙に使われているのも、この中の「馬立」という作品。本では屋根の部分だけ着色されています。川本さんが表紙に使うことを依頼されたみたいです。川本さんはこんな地味だけど素敵な絵を描く人を本当によく発見されます。

さて、『そして、人生はつづく』の第1章の「東京つれづれ日誌」は「東京人」に連載されたものですが、第2章の「家事一年生」はいろんな雑誌に書かれたエッセイを収めています。その中で特に素晴らしかったのが「遠い声」という文章。3ページ足らずの文章なんですが、まるで映画のような素敵な作品。昨夜読んだのですが思わず目頭が熱くなってしまいました。

携帯電話は持っているけど、ほとんど人に電話番号を知らせていない川本さんの電話にある日、小さな少女から「おじさん?」と電話がかかってくるところから物語が始まります。後は是非読んでください。

「遠い声」というのはやはりトルーマン・カポーティの『遠い声 遠い部屋』を意識されてのことでしょうか。川本さんには『遠い声』(雑誌『スイッチ』に連載していた作品をまとめたもの)という作品があって、実は僕は『遠い声』が川本さんの著書の中で最も好きなのですが、考えてみたら『そして、人生はつづく』に収められた「遠い声」も『遠い声』に収められた作品に似た雰囲気があります。こういう作品は川本さんにしか書けない。旅もの、映画ものも好きですが、こういう作品をもっと書いてほしいように思いました。

考えてみたら川本さんには『はるかな本、遠い絵』という著作もあります。はるか遠く離れたところにあるけれどもに身近に感じるものたち、はるか遠く離れたところにいるけれどもに身近に感じる人たち。
  遠い声_a0285828_9184985.jpg
by hinaseno | 2013-01-17 09:21 | 文学 | Comments(0)