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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno

  風の中でゆれて、宙返りして、耳に飛びこむ


『ロング・バケイション』というアルバムから入った僕は、それが大瀧さんのデビュー・アルバムではないことを知るや、当然のことながら大瀧さんが過去にどんな曲を作っているんだろうかという作業に入ります。いわゆる「後追い」ですね。
正直言えば、前に貼った「ナイアガラ音頭」を聴かれればわかるように、まさに驚きと戸惑いの連続。意味不明の言葉、理解不能の音楽のオンパレード。離れようかと思ったことも何度か。
でも、そんな中で、ときどきたまらないくらい素敵な曲に出会うんですね。ああ、これぞ
まさに『ロンバケ』の大瀧さんの曲!というものに。そういう楽曲が離れそうになりそうな心をつなぎ止めて、いつしか次第にディープな世界へと入っていく...。何人もの人が辿った軌跡ではないかと思います。

そんな後追いをはじめて出会ったとびっきり素敵な曲が、須藤薫さんの歌う「あなただけI Love You」という曲です。


須藤さんって本当に歌、上手いんですね。
大瀧さんの作った曲が須藤薫さんに歌われたものはこれ1曲(CMに1曲ありますが)ですが、彼女のことは大好きになって、その後アルバムを何枚も買いました。『ナイアガラ・トライアングルVol.2』の杉真理さんが彼女にいくつも素敵な曲を書いています。ピチカート・ファイヴの小西康陽さんがプロデュースした『Tender Love』は死ぬほど好きなアルバムです。

さて、「あなただけI Love You」という曲、メロディーもとびっきり素敵なんですが詞もとってもいいんです。詞を書いているのは大瀧さん本人です。大瀧さんは、自分の歌うコミカルな曲の詞はたくさん書かれていますが、メロディーの綺麗なものはだいたいが別の作詞家が詞を書いています。でも、本当は大瀧さんはとてもロマンティックな詞を書ける人なんですね。前に触れたシリア・ポールの「夢で逢えたら」も大瀧さんが書いた詞です。あの詞もとても素敵ですが、個人的にはこの「あなただけI Love You」の歌詞が、”まじめ路線”で書かれたものでは1番好きです。須藤さんのディレクターの川端さんの、ぜひ大瀧さんの詞で、という強い要望を受けて、「苦労に苦労を重ねて」書いた詞だそうです。
詞を載せておきます。

いそぎ足 なぜかしら
約束の時間には まだ
15分 早いのに
息はずませ いつもの場所に
心はさきに in the air
あなたの そばへ
あの角 まがれば
目に飛びこむ
やさしい Smilin’ face

いつでも Love You
どこでも Love
Too Much Love You
あなただけ Only You
夢でも Love You
さめても Love You
So Much Love You
あなただけ I Love You

しのび足 うしろから
つめたい手で そっと目隠し
素敵な日 スタートよ
声はずませ いつもの ハッピートーク
言葉はゆれて in the wind
あなたのそばで
宙返りして
耳に飛び込む
ゆらり Smilin’ voice

いつでも Love You
どこでも Love
Too Much Love You
あなただけ Only You
夢でも Love You
さめても Love You
So Much Love You
あなただけ I Love You

かけ足で 過ぎてゆく
人並み 風 楽しい時間
歩きましょ どこまでも
胸はずませ いつもの通り道
今宵は 星も in the sky
あなたの そばへ
そっと 寄りそい
胸に飛びこみ
やすむ Lovin’ place

いつでも Love You
どこでも Love
Too Much Love You
あなただけ Only You
夢でも Love You
さめても Love You
So Much Love You
あなただけ I Love You


大瀧さんって実はとびっきりロマンティックな詞が書ける人だってことがわかってもらえると思います。「言葉はゆれて in the wind あなたのそばで 宙返りして 耳に飛び込む」なんて部分は大好きです。

基本的には「あ」の段の音で始めるのが好きな大瀧さんですが、1番、2番は、たぶん1番響きが悪いと考えているはずの「い」の段の言葉(「いそぎ足」、「しのび足」)でめずらしく始めています。メロディーもその部分はちょっとマイナー調ですね。でも、その部分があるからこそ、まるで雲に隠れていた太陽の光が少しずつ射してくるみたいに、あとのサビの明るい部分へとつながっていくんですね。当然意識されて作られただろうと思います。
メロディでいえば「 心はさきに in the air あなたの そばへ」のあたりは、まさに『ロンバケ』してるって感じです。
個人的に好きなのはさびに入る直前の「 やさしい Smilin’ face」「 ゆらり Smilin’ voice」 「やすむ Lovin’ place」の部分です。詞も韻を踏んでいます。メロディと言葉の相性もぴったりです。
ちなみにこの曲の弦アレンジは松任谷正隆さん。ユーミンの旦那さんですね。イントロの弦は見事に『ロンバケ』しています。実は『ロンバケ』のいくつもの曲の弦アレンジも松任谷さんがしてるんですね。

さて、この曲がとってもよかったので、須藤さんにもうⅠ曲、という話になります。当然ですね。そして大瀧さんは素晴らしい曲を書きます。でも、須藤さんのディレクターの川端さんはその素晴らしい曲を結局、須藤さんに使わなかったんですね。川端さんが使わなかった理由は、それが女性向きではなく「男性用」の曲であるとのこと。で、結局、その曲は大瀧さん自身によって歌われることになります。
それがこの曲です。


僕だけでなく、何人もの人生を大きく変えた曲ですね。もし川端さんが、この曲を松本隆さんではなく誰か別の人の詞をつけて、そのまま須藤さんに歌わせていたら、一体僕の人生はどうなっていたんだろうと思います。決して大げさではなく。
あの曲もすんなりと生まれたのではなく、いろんな紆余曲折があって、風の中でいくつもの宙返りをして、僕の耳に届くことになったわけです。やはりそれは”奇跡”というしかないですね。
Commented by 39nemon at 2012-11-19 00:47 x
私も大瀧さんのロマンティックな歌詞も好きですよ。こちらになると、急にシンプル且つ率直な詞になりますよね。オールディーズ・ポップスを一身に受けて育ったからなんでしょうかね。
又しても曲の物語。曲や詞も、色んなところに渡り歩いたりするんですね。そのこと自体が、曲や物語として紡がれそうな話ですよね。『君は天然色』も大好きですよ!
by hinaseno | 2012-11-18 09:51 | 音楽 | Comments(1)