長らく続いたこのシリーズの話も今日が最後。何度あのあたりの地図(ストリートビュー)を見たことだろう。おかげでもし今、武蔵新田駅に降り立ってもスマホのナビを使わずにティールグリーンに行けるし、武蔵新田の商店街を通って新田神社にも行く自信があります。
さて、『銀座二十四帖』の「サロン ひとみ」のあった場所のこと。
そういえば「大瀧詠一的手法で」とかいいながらちっともそれをしていませんでした。もちろん大瀧詠一的手法を使わなくても戦後すぐのこのあたりの住宅地図があって「サロン ひとみ」を見つけることができればそれで決まり。でも、たぶんこの「サロン ひとみ」の電飾看板は映画用に取り付けた可能性が高そう。
ちなみに大瀧詠一的手法というのは、まず映画の静止画像をキャプチャーして、その中にあるあらゆる情報を読み取っていくというもの。
まずはこのシーン。
いくつか看板が見えますね。これを拡大したり、目を細めたりしながら読み取ります。いちばん気になるのは「サロン ひとみ」の真向かいにある店。
電柱に取り付けられた「食料品」という字の下に店の名前がうっすらと。どうやら「朝日屋」。で、角度が斜めになっていてちょっと見づらいものの店舗の正面に大きく取り付けられている看板も「朝日屋食料品店」と読めそうです。その向こうの店の前に取り付けられている看板は「○○川洋服店」と読めそう。
次にこのシーン。
電柱の看板は「芝村税理事務所」と読めます。すぐ近くにあったものなのかどうかはわかりません。「サロン ひとみ」の向こうの店は「○○モーター商会」。「三原」とも読めそうだけど、ちょっとわからない。
これらの看板は簡単に取り付けられるものではないので、おそらく当時商店街に実際にあったはずの店。でも、残念ながらこれらの名前の店はこのあたりには見当たりませんでした。でも、古い住宅地図を見ればすぐにわかりそうですが、ただ、いきなりそれを見るのは面白くもなんともない。
僕もそうですが、きっと大滝さんも住宅地図を調べるのは最後の最後にしたはず。ある程度予想を立てて、そこを歩いてみて、それから最後の確認のために住宅地図を調べたはず。
とはいうものの実際に歩くことができないので途方に暮れてしまう。ストリートビューでも限界があるし。
ふと例の『東京人』の大瀧さんと川本三郎さんとの対談でのこんな会話を思い出しました。
川本:気になる場面を静止画像で確認して、実際にその場所に足を運ばれたわけですね。
大瀧:そうです。ロケ場所を確認することで、はじめて自分でその世界を動くことができました。(で、大瀧さんはいくつかのシーンの細かい部分を川本さんに説明)
川本:これは静止画像にしないと、わかりませんね。
大瀧:「木を見て森を見ず」と言われそうですが(笑)、たとえば木村伊兵衛の一枚の写真を見て、そこから膨大な情報を得るのと同じです。
これを読み返して重要なものを見落としていたことに気づきました。それは「木」。
「森」、というか実際には街並みばかり見ていて「木」を見ていなかったと。改めて上の写真を見ると新田銀座のアーチの向こうにかなり高い木が見えます。何度か商店街をストリートビューで歩いていたので、あっと気づきました。
これは新田神社の木!
もしや。と思って、平川克美さんの隣町探偵で知った例の「未来門」を撮ったこの写真を見返しました。
新田神社は右手にありますが、そのあたりに高い木が見えます。ただ、映画には左手にも高い木があります。
で、改めて新田神社の前までストリートビューを使って歩いてみたら、道を挟んだ向かいにもそこそこ高い木が生えていることがわかりました。現在はマンションが建てられたためにそこにあったはずの高い木が切り倒されたのではないかと。
で、改めて考えたらこの「未来門」のアーチの立っている場所がまさに映画の「新田銀座」のアーチのある場所では。
よくみたら映画のシーンではアーチのすぐ下に道が横切っているのが見えるのですが、現在のアーチの下あたりにも道がありました。
そしてさらにびっくりしたのは、ストリートビューでもう少し下がって「未来門」をとらえたこの風景。
右に見える現在「さわやか整骨院」となっている建物があの「サロン ひとみ」にそっくり。ちなみにこれは2009年のストリートビューの画像。
「さわやか整骨院」の場所はシャッターが降りていて、正面から見ると「肉の大田屋」も文字がうっすらと。
2階の窓のあたりなど、何度か手を加えた跡が見えますが、建物の高さといい、外装の感じといいあの「サロン ひとみ」の痕跡があちこちに見えます。たぶんここがあの場所にちがいありません。この建物がかつてカフェーだったのかどうかはわかりませんが。
ちなみにこれはこのあたりを上空から見た現在の風景。
水色の丸をした場所にある水色の屋根が「サロン ひとみ」があったと考えられる現在の「さわやか整骨院」の場所。水色の丸の左上あたりに「未来門」のアーチがあります。で、その上の木の生い茂った場所が新田神社。
写真の手前にある大きな建物は「マルエツ」。この左手あたりにカフェー街があったようです。カフェー街のすぐ近くだったんですね。
というわけで、あとは古い住宅地図で確認できたらとは思いますが、まず推測は間違いないはず。結果的には大瀧さんの「木を見て森を見ず」という言葉と平川さんが目に留めた「未来門」に助けられました。
いつかここを歩いて見たいですね。本物の「銀座」を歩くよりもこちらの商店街を歩いた方がはるかに楽しいだろうな。