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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
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カテゴリ:雑記( 244 )


ある本屋の話(最終回)



Y子は古本屋である。古本屋と云つても、わづか五坪にも満たない小さな二階の部屋を借りて、主として絵本で生計を立ててゐる。
この小さな町に来て、いまの場所に店をあけてからちょうど六年になるが、来る日も来る月も、本を磨いたり、本を並べ替えたりする、同じやうなY子の姿が見られるばかりで、この小さな古本屋の店にはすこしも変化が見られなかつた。

小山清の「ある靴屋の話」の「靴屋」をおひさまゆうびん舎に変えたらこんな書き出しになるでしょうか。部屋の坪数は適当です。

実際にはこの数年間、とても大きな変化が起きているおひさまゆうびん舎。すべては店主の窪田さんの努力のたまものですね。「ある靴屋の話」の最後の言葉を使えば、


自分にはこのY子の真似はとても出来ないと思つたのである。


さて、「ある本屋の話」と題された世田谷ピンポンズさんのライブ。1曲目は「春」。ピンポンズさんのファーストアルバム『H荘の青春』の1曲目に収録された曲。今年は『H荘の青春』が出てちょうど5年目ということでそれにからめたイベントも東京で行われるとのこと。ということで、『H荘の青春』の中からの曲や東京に関する曲が多く歌われていました。今回のライブは歌われたのは全部で20曲くらいだったでしょうか。アルバムに収録されていない曲も含めてライブでは初めて聴く曲がいっぱいでした。

とりわけ良かったのが『H荘の青春』のタイトル曲でもある「H荘の青春」。ずっと前にこのブログで書いていますが『H荘の青春』を初めて聴いたときにいちばん気に入ったのがこの曲でした。特にイントロが好きです。

今回披露されたのはアルバムに収められたものとは詞が少し変えられたヴァージョン。それほど大きく変えられているわけではありませんがずいぶん印象が違うのに驚きました。たぶん変えられたヴァージョンの方がより多くの人(特に女性)に愛されるはずなので、今後は新しいヴァージョンで歌われた方がいいように思いました。

この日初めて聴いていちばん気に入ったのは「東京、東京」という曲。これは新しい曲とのことなので、ぜひ次のアルバムに収録してもらいたいと思いました。


さて、姫路のライブといえばすっかりお馴染みの曲が、お馴染みのMCとともに披露されました。

ピンポンズさんの指差す方向に流れている川。そう、「船場川」です。

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考えたら今年は木山捷平が「船場川」の詩を書いてちょうど90年目。木山さんは昭和2年の3月31日付で姫路の荒川小学校の教師に任じられているので、90年前の今日ぐらいに岡山の新山から姫路にやってきていたかもしれません。

ぜひこれを機に「船場川」にかかる橋でピンポンズさんの歌う「船場川」を流してほしいものです。


ところでピンポンズさんのライブはおひさまふふふフェスティバルからほんの1週間後のことなので飾り付けはそのままにしておけばいいのにと思っていましたが、ライブのために新たな飾り付けをいっぱいされていました。

改めて、


自分にはこのY子の真似はとても出来ないと思つたのである。


心からそう思います。

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by hinaseno | 2017-03-29 12:08 | 雑記 | Comments(0)

ある本屋の話(その3)


おひさまゆうびん舎の6周年記念のイベント「おひさまふふふフェスティバル」にサプライズで登場した世田谷ピンポンズさんが1曲目に歌ったのは「早春」。考えてみると、この曲は5周年のイベントの時に初めて披露されて、窪田さんをはじめだれもが感激した曲。おひさまゆうびん舎がなければ生まれなかったはずの曲ですね。本当にいい曲。ピンポンズさんに合わせて歌っている声があちこちから聞こえてきました。

そして次に歌われたのが「純喫茶ルンバ」。

曲の題名を聞いていちばん興奮していたのが窪田さん。

この曲、昨年の12月に純喫茶関係の本をいくつか出されている難波里奈とのイベントのためにピンポンズさんが作られたそうですが、なぜかそのイベントでは披露できないままで終わったようです。でも、ひと月ほど前ににその曲のデモがSNSでアップされて、窪田さんがすごく気に入っていたんですね。

それにしてもピンポンズさんのライブはそもそも高橋さんのためのサプライズということだったのにそのサプライズを仕掛けたはずの窪田さんがいちばん驚いて感激されていたという予想通りの展開に…。微笑ましいというかなんというか。

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で、最後の3曲目は「わが町」。この曲、何度聴いても泣けます。


ところで、幸運なことにピンポンズさんの演奏をそばで聴けたので、ちゃっかりピンポンズさんの楽譜をのぞきこんでしまいました。以前にある程度聞き取りはしてたんですが、こんなふうに楽譜も完成。最近はこればっかりギターで弾いています。

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さて、この日のイベントの最後はじゃんけん大会。なんとこれに優勝してしまいました。日頃はからっきしじゃんけん弱いのに。

持ってますね。

ということでこの日来られた3人のサイン&イラストつきの重版バックをいただきました。

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この日のイベントの主役の方々。本当にありがとうございました。

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by hinaseno | 2017-03-28 12:31 | 雑記 | Comments(0)

ある本屋の話(その2)


3月16日におひさまゆうびん舎で6周年記念のイベントが行われ、それに参加させていただきました。ゲストは夏葉社の島田潤一郎さんと絵本作家の高橋和枝さん。このお二人がいなければ、お二人によって作られた『さよならのあとで』がなければ今の自分はどうなっていたんだろうと思ってしまうくらいに僕にとっては大切な存在な人。窪田さんからお二人が来られると教えてもらったときからドキドキワクワクでした。


さて、お二人の対談。

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『ノーラ、12歳の秋』、『きれいなココロとカラダって?』に添えられた高橋さんのイラストを示しながら島田さんの部屋の「半径3メートル」から始まる物語が語られます。終始和やかな雰囲気の中、高橋さんが島田さんから最初のメールを受けたときは、その丁寧な言葉遣いからもっと年配の人だと思ったとか、制作過程の中で島田さんは高橋さんから断りの連絡が来るのではとずっとびくびくしていたとか、次第に二人が会うときには島田さんが恋愛相談をするようになったとか、なかなか順調には進まなかった制作の話が語られていました。でも、そこで島田さんが学んだことも多くあって、夏葉社の最新作である『美しい街』(尾形亀之助 著  松本竣介 画)は『さよならのあとで』のスタイルをそのまま使ったとのこと。

この本は、この日におひさまゆうびん舎で買ったんですが装幀も含めてなにからなにまで本当に素晴らしいんですね。しかもイラストはこのブログでも何度も書いてきた僕が最も好きな日本の画家である松本竣介! すごい。 

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島田さんは高橋さんともう一度何かをやってみたいと、あのような(試行錯誤の連続であったはずの)本づくりをもう一度やってみたいと語られていました。ぜひ実現させてほしいですね。

対談の後、島田さんと高橋さんから次に出る作品の話を少しうかがいました。島田さんからは以前話されていたものがついに来月出ると。そして高橋さんからも絶対に好きになるような絵本の話を。どちらも心から楽しみにしています。


お二人の対談が終わってからはサプライズの連続。まず窪田さんが一冊の本の読み聞かせをされました。『よかったねネッドくん』という絵本。幸運と不幸が次々にやって来る話ですが、いや面白かったです。こういうの子供は大喜びだと思うけど、大人も十分楽しめます。

で、今日はネッドくんの誕生日だったというオチから、実は明日(3月17日)は高橋さんの誕生日ですということになって、おひさま音楽隊の方々が「ハッピー・バースデイ」を演奏。そしてその次にサプライズ・ゲストとして登場したのがなんと世田谷ピンポンズさんでした。実はピンポンズさんはそれまでずっと僕のそばに座って島田さんと高橋さんの対談を聞かれていたのでちっともサプライズじゃなかったけど。


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by hinaseno | 2017-03-27 12:53 | 雑記 | Comments(0)

ある本屋の話(その1)


まずはこの写真から。

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左に首を傾げてギターを弾いているのはもちろん世田谷ピンポンズさん。いい表情ですね、バックにはたくさんのくまくまちゃん。場所はもちろんおひさまゆうびん舎です。


昨日は姫路のおひさまゆうびん舎さんで行われた世田谷ピンポンズさんのライブに行ってきました。ピンポンズさんのライブは昨年12月以来3か月ぶり…いや、正確には一週間ほど前にシークレット(?)のミニ・ライブがありました。

今回のライブのタイトルは「ある本屋の話」。このタイトルを聞いて僕はすぐにピンとくるものがありました。これは小山清の短編のタイトル「ある靴屋の話」からとられたにちがいないと。

「ある靴屋の話」というのは小山清の『日日の麺麭』に収録された話。ただ現在講談社文芸文庫から出ている『日日の麺麭/風貌 小山清作品集』には収録されていないけど。

実は僕が小山清で最初に読んだ作品はもちろん「落穂拾い」でしたが、その次に読んだのが「ある靴屋の話」でした。

おひさまゆうびん舎に行くようになってまもなく窪田さんから貸していただいたのが『小山清全集』でした。「落穂拾い」以外は何も知らなかったので、とりあえずずらっと並んだタイトルで心が惹かれたものから(結構多くありました)読んでみようと思って、まず最初に選んだのが「ある靴屋の話」でした。これがよかったんですね。絵本にしてもいいような話。こんな書き出し。


兼吉(かねきち)は靴屋である。靴屋と云つても、わづか一坪にも満たない小さな床店を借りて、主として修繕もので生計を立ててゐる、しがない職人である。年は四十になるが、まだ独りものである。顔にすこし痘痕(あばた)のあとが見える。身寄りもたよりもない。この小さな町に来て、かれこれ六、七年になるが、いまの場所に店をあけてから、来る日も来る月も、靴底を叩いてゐたり、縫針を動かしてゐたりする、同じやうな兼吉の姿が見られるばかりで、この小さな靴屋の店にはすこしも変化が見られなかつた。

で、最後はこんな終わり方。


けれども、自分にはこの兼吉の真似はとても出来ないと思つたのである。

これを書き写しながら今、ふと思いついたのですが、これに絵をつけて1冊の本を出すというのもいいかもしないなと。とするならば、絵を描いてほしいのは高橋和枝さんしか考えられないし、出版社はもちろん夏葉社。島田さんに提案してみようかな。

それはさておきこの「ある靴屋の話」は窪田さんも大好きだったようで、これのコピーをずっと以前にピンポンズさんにも渡していたそうです。たぶんピンポンズさんもこの作品のことを心にとめられていたようで、それで今回のライブのタイトルになったみたいですね。

いいタイトル。これだけで心ときめくものがありますね。


さて、ピンポンズさんのライブの話。でもその前に、先週の3月16日に行われたおひさまゆうびん舎6周年記念イベントの話から始めようと思います。そのイベントのタイトルは「おひさまふふふフェスティバル」。「ある本屋の話」はそこから始まっていました。


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by hinaseno | 2017-03-26 16:22 | 雑記 | Comments(0)

いつか行けたらとずっと思い続けているのが京都の善行堂さん。その善行堂からつい先日届いたのが岡崎武志さんのこの本。タイトルは『詩集 風来坊ふたたび』。

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袋から取り出して、まず、その素晴らしい装幀に目を奪われてしまいました。装幀をされたのはこのブログでも何度か紹介した林哲夫さん。表紙等の写真も林さん。さすがにどれもいい写真です。出版社は善行堂。古書善行堂出版の第一号とのことです。送られてきた本には著者の岡崎さんのサイン&イラストが入っています。

タイトルに「ふたたび」とあるのは10数年前に『詩集 風来坊』を出されていたため。個人的にはタイトルに「ふたたび」(=again)とあるだけで親しみを持ってしまいます。収められた作品はシリーズとなっていて、タイトルとともに「風来坊11~29」の番号が振られています。全部で19編。


岡崎さんのあとがきによると「おそらく二十代後半の若者が、たった一人で日本国中をあてどなく旅している。いつもお腹を空かせ、胸には愁いを帯びている。シリーズ「風来坊」は、そんなシチュエーションに我が思いを仮託した詩編」とのこと。

本当はゆっくりと読むつもりでしたが、結局一気に読んでしまいました。ちょっとしたロードムーヴィーを見たような気分。名所と呼ばれるような場所は出てこない。それでも不思議にいくつかの風景が心に残っています。時間を間違えて列車に乗り遅れ、仕方なくホームのベンチに座ったらそこに一冊の文庫が置かれてあった話とか、あるいは村人たちに聞きながら書き上げた手書きの地図を雨で濡らしてだめにしてしまった話とか。

詩集を手に入れる前に善行堂さんのブログで、この詩集に収められたいくつかの詩に世田谷ピンポンズさんが曲をつけられたという話を読んでいたので、いったいどの話に曲をつけられたのだろうと思いながら読んでいましたが、実は僕の頭の中にずっと流れていたのはこの「風来坊」という曲でした。




はっぴいえんどの3枚目のアルバム『HAPPY END』のA面1曲目に収められた曲。作詞作曲は細野晴臣さん。実はこのアルバムは持っていなくて僕が持っている音源は『HOSONO BOX 1969-2000』に収録されたもの。なんで「風来坊」という歌詞の曲を書いたのか気になって、細野さんが楽曲解説を読んだらこんな興味深いことが書かれていました。


誰にも言ったことはないけど、「風来坊」の元になっているのはディズニーの「三匹の子豚」なんだよ。その英語のうたを聴いた通りに”風俗 低俗 風来坊”ってなっているんだ。でも、他の部分はどうしても詞ができなくて、”ふらりふらふら風来坊”っていうので押し通しちゃった(笑)。困ってこうなっちゃたんだよ。イイやって。

で、ディズニーの「三匹の子豚」を聴いてみたら、なるほど!でした。これですね。主題歌のタイトルは「狼なんか怖くない (Who's Afraid of the Big Bad Wolf)」。




曲の最初の♫Who's Afraid of the Big Bad Wolf♫の部分。確かに♫風俗 低俗 風来坊♫と聴こえなくもない。「Big Bad Wolf」を「風来坊」と聞き取るのは苦しいけど、でもメロディーはほぼ同じ。

それにしても細野さんって以前紹介した『白雪姫』の♫ハイホー♫

といいディズニーの映画にかなりの影響を受けてるんですね。


さて、ピンポンズさんは岡崎さんのどの詩に、どんな曲をつけたんでしょうか。


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by hinaseno | 2017-03-25 10:13 | 雑記 | Comments(0)

待ってたこの日


今日はかなり前から楽しみにしていた日。行けるかどうか心配していたけど、どうやら大丈夫。
きっと幸せな時間を過ごさせてもらえるだろうと思っています。

詳細についてはまた後日。

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by hinaseno | 2017-03-16 14:40 | 雑記 | Comments(0)

私の青空


今日は3.11。3月は記憶すべき大事な日がたくさんありますね。3月15日はアゲインの開店記念日。そして3月21日はナイアガラ・デイ。

震災の起きた年のナイアガラ・デイ前日の2011年3月20日、武蔵小山のアゲインでは予定通りナイアガラ・デイを祝うイベントが行われました。自粛ムードが広がって、大瀧さんがらみのイベントもいくつかは中止される中での開催。

そのイベントがあった日はまだ、アゲインの石川さんとメールや電話のやりとりをできるようになる前のことでしたが、心はアゲインにとんでいました。その日のアゲインのイベントのゲストは平川克美さん。その頃平川さんは父親の介護の日々を送られていて数日前に父親の胃ろうの手術をされたばかり。その平川さんが父親の介護のことを記した『俺に似たひと』に、その日のアゲインでのイベントの話が出てきます。


 ……かれらが福島第一原子力発電所に入って大活躍した日の翌日、友人の石川茂樹が武蔵小山でやっているライブカフェ「アゲイン」で、ちょっとしたイベントがあった。
 石川は、俺が内田樹らと興した翻訳会社のほぼ創立メンバーで、最後までこの会社の専務として働いてくれた竹馬の友である。俺が会社を辞めると、しばらくして彼も会社を去り、武蔵小山駅前でライブカフェを開いた。この日は四周年記念日であり、大瀧詠一さんの「ロング・バケーション」三十周年記念アルバム発売日ということで、俺にも何かやってくれないかとの打診があった。会場には、大瀧詠一さんのファン(大瀧さんが1974年につくったレーベル、「ナイアガラ」にちなんで、ナイアガラーと呼ばれている)が全国から集まってきていた。全国からといっても二十名ほどなのだが、そのなかには福島原発から二十キロ圏内の相馬にご実家のある方が駆けつけてくれていて、現地の状況をスライドで見せてくれた。彼も熱烈なナイアガラーのひとりだった。
 俺は場違いな人間であったが、石川くんの求めに応じて、移行期的混乱のこと、進行中の原子力発電所の事故に関して、自分が日頃感じていることなどを話した。意外にも、ナイアガラーの諸君は熱心に俺の話を聴いてくれた。 
 俺の話が終わると、大瀧詠一さんゆかりの曲が、会場に流された。そのなかに大瀧さんが歌う「私の青空」があった。
 その歌は、俺にとっては特別な歌だった。
 もともとは、アメリカでつくられ、1920年代に大ヒットして以来スタンダードナンバーとなった「マイ・ブルー・ヘブン」という曲である。日本語にしたのは堀内敬三で、二村定一、天野喜久代の歌唱によりコロムビアから発売された。
 1920年代の発売であったが、以後時代を越えて多くの日本人歌手がこの歌をカヴァーしてきた。エノケンこと榎本健一が中心となって合唱する映像や、「上海バンスキング」での吉田日出子の歌声も印象的なものであった。特に、俺と同じ年の破天荒な酔っ払いである高田渡のライブ演奏を映画で見たときは、心が震えた。
 日本で歌い継がれた理由はその曲調にもあったが、なによりも堀内敬三の詞が、当時の日本人の生活にぴったりと合致したからだろう。小市民的な幸福を歌った歌詞だが、昭和初期の日本を生きてきたものなら誰もがこの歌が指し示す「家庭の幸福」に、痺れるような懐かしさを覚えるだろう。
 その理由は、今はもうそれが失われて久しいというところにあるのかもしれない。「日暮れて辿るは、我が家の細道」というところを聞くと、俺も父親と歩いた銭湯帰りの光景を思い浮かべてしまう。不思議なことに、この歌は状況が悪ければ悪いほど身に染みるのである。デスペレートな空気のなかで、なお湿度と温度を吹き込んでくれる。
 この日の大瀧さんの歌声は、この歌が最初に歌われたクルーナー唱法を思い起こさせてくれた。そして、感傷を排除して歌えば歌うほど、身に染みるということも。俺は手元の携帯電話からツイートした。

3月20日(日)15:32
 大瀧さんの私の青空がかかっている。滲みる。

 その晩、自宅へ戻ってパソコンを開くと、くだんのナイアガラーくんから俺の話が的確で、意義のある会話ができたとの返信があった。そして「よかったですね。私の青空」と書き添えてられていた。
(中略)
「アゲイン」でのイベントが終了して、俺はその足で病院へ向かった。
 届かないことを承知で、「どうだい、顔色いいじゃないか」と声をかける。しばらく様子を見てから、おむつと尿とりパットを補給し、汚れ物を持って病院を後にした。
 家に戻る車中で、購入した大瀧詠一さんの「A LONG VACATION(ロンバケ)30th Edition」のCDを聴きながら、これからのことを漠然と考えていた。とはいえ、これからのことが何を意味しているのかよく分からなかった。それは、今のこの生活がいつまで続くのか、あるいはどこかで終止符が打たれるのかということしかないはずだった。それでも、俺はそのようには考えなかった。
 これからは来るのだろうか。それは、どんなこれからなんだろうかーー。
 ただそれだけを漠然と考えていたのである。


というわけで、僕は3.11がやってくると大瀧さんの「私の青空」を聴きたくなります。大瀧さんはあえて「私の天竺」というタイトルにして歌っています。




今日は青空が広がった一日。で、僕もいろいろと「これから」のことを考えていました。漠然としか考えることのできない「これから」のことを。


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by hinaseno | 2017-03-11 18:19 | 雑記 | Comments(0)

池上線沿線にくま、ならぬ、くまくまちゃんが出没しているという情報を得たのは2週間ほど前のこと。まさかくまくまちゃんが池上線に乗ってたびをしているんだろうか。

ひと月ほど前に、ある人から池上線沿線のある店で、ちょっとしたくまくまちゃんブームが起こっているとは聞いていたけど。


噂の震源地は池上線「荏原中延」から歩いて5分くらいのところにある隣町珈琲。こんな写真がアップされていました。

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なんと『くまくまちゃん』『くまくまちゃんのいえ』『くまくまちゃん、たびにでる』の3冊がずらりと並べられています。下に貼られたポップにはこんな言葉。


隣町に遂に登場!!
一度癒されたら とまらない……!?
隣町書店に初の絵本が登場!!
一度出会ってしまったら好きになってしまう
くまくまちゃん、お店でひそかなブーム
ぜひお手におとりください。

隣町珈琲に、本を販売するコーナーがあることは知っていましたが、基本的にはマスターの平川克美さんと縁のある出版社の本が中心だと思っていたので、まさかポプラ社の絵本が! でした。

それからもう一つ目が止まったのはポップの横に貼られているくまくまちゃんの栞。これはまぎれもなくおひさまゆうびん舎の窪田さんが、現在おひさまで開催中のくまくまちゃんフェアのために作ったはずのもの。いったい何がおこっているんだろう。

いずれにしても、隣町珈琲で『くまくまちゃん』を手に取った人が、池上線に乗って電車の中で『くまくまちゃん』を読んでいる風景はたまらないものがあります。


さて、その隣町珈琲が今日、3月4日で3周年を迎えられました。おめでとうございます。このブログを読まれている東京近辺にお住いの男性の方で、『くまくまちゃん』には興味があるけれども絵本売り場に行くのはちょっとはずかしいという方は、ぜひ隣町珈琲に行って『くまくまちゃん』を買い求めてください。もしかしたらマスターがコーヒーをおごってくれるかもしれません。こんな感じのマスターが。

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そういえばかなり昔、平川さんが子供を主人公にした物語を書いているという話を聞いたことがあります。もしかしたら今年くらい、平川さんが書かれた「童話」がポプラ社から出版されるかもしれません。楽しみに待っていよう。


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by hinaseno | 2017-03-04 13:38 | 雑記 | Comments(0)

明後日を見て進む


最近、「明後日」(あさって)という言葉に反応するようになってしまいました。そういえばさっき、ある約束を今週の土曜日にということに決めたら「では、明後日の土曜日に」と言われて、おお、明後日! と思ってしまいました。たいした用事ではないけど。


きっかけは小泉今日子さんでした。以前、武蔵新田の話の最後だったか小泉さんの「未来」のことを書きましたがそれにつながる話。

実は彼女、昨年、舞台、映像、 音楽、出版などを企画製作するプロジェクトを立ち上げて、その組織名が明後日(あさって)。付けたのはもちろん小泉さん。実際には小泉さんといっしょにプロジェクトを運営している女性の名前が明日子ということで、今日子、明日子ならば明後日になったみたいですが、でもいい名前ですね。

ここのほぼ日に載っている糸井重里さんとの対談で、糸井さんがそれに触れています。


糸井:小泉さんが新しく作った組織の名前が「明後日」(あさって)というらしいですね。
小泉:はい。偶然、今日と明日、で揃ったから、名前は「明後日」がいいかなと思ってつけたんです。「今日子」は、2人ほど会ったことあるんですよ。岸田今日子さんとか宮下今日子ちゃんとか。でも「明日子」は、はじめて会った! と思って。
糸井:ぼくは、小泉さんが演出もやるという話と、それから、組織名が「明後日」だというのを前にちらっと聞いたときに、えらく感激しちゃってさ。
小泉:本当?
糸井:うん。つまり、明後日が見えない明日ってないんだよね。それに最近気づいたんです。みんな明日のことは考えられるんですよ。でも、ひとつ先の明後日が目に入ってこないと、明日のことにつながらないんですよね。
小泉:ねぇ。あまり遠すぎる未来はまた違うし。だから、明後日くらいを見ているのがいいかなと思ってつけました。それと、音もいいなって。音だけ聞くと何語かわからない感じが。
糸井:センスがいいなあと思いました。あと、悪口として通用するのもいい。
小泉:そう、「明後日の方向を向いてる」とかね。なんか自分を卑下する感じもあって。
糸井:そうそう。本当に見事だなと思ってます。
小泉:ありがたい。

「未来」「未来」とか声高に語っているくせに、目先のことばっかり考えている(考えさせようとしている)人たちが多くてうんざりしているときに、小泉さんの「あまり遠すぎる未来はまた違うし。だから、明後日くらいを見ているのがいいかな」という視点はとても新鮮でした。「音もいい」というのも同感です。先のことはよくわからないことだらけですが、明日よりももう一日伸ばした明後日くらいのことを見すえて物事を考えるのがいいかなと。


話はころっと変わりますが、今読んでいるのは中村明さんの『小津映画 粋な日本語』(ちくま文庫)という本。中村明さんといえばなんといっても小沼丹の研究者の第一人者で、講談社文芸文庫から出ている小沼丹の本の解説をすべて書かれています。中村明さんのことは日本でいちばんの小沼丹ファンだと思っているたつののYさんから教えてもらって、中村さんのラジオの放送を聞いたり『名文』を読んだりしていました。その中村さんが実は小津の映画の大ファンで、『小津の魔法つかい』という本を出されていることを知ったのはつい最近のことでした。で、その『小津の魔法つかい』を加筆修正して文庫本となったのが『小津映画 粋な日本語』。川本三郎さん以外、あまり映画評論は読みませんが、これは楽しく読んでいます。

で、一昨日読んだところに「明後日」が出てきて思わず反応してしまいました。それは『秋日和』のワンシーンのセリフ。しゃべるのは岡田茉莉子さん。この映画の岡田茉莉子さんはとにかく最高。友人の司葉子にこんな言葉をぶつけます。


「ナンダ、まだおこってンの? おこってろおこってろ。今日も明日も明後日も」


ああ、あのシーンとすぐに思い起こすことができます。言葉のリズムもいいですね。悩んでいる友人を突き放すような言葉ですが、けっしてそうじゃない。言われた側も、明後日まで怒り続けている自分のことを考えると、怒っているのがばからしくなってくるような言葉。


ところでこの言葉を見つけた一昨日の3月1日は姫路のおひさまゆうびん舎の6周年の日。ということで、この言葉をちょっと借りて、明日も明後日もおひさまが続くことを願っています、とのメッセージを送りました。明後日来る人のために頑張ってください。明後日のことと考えたら、ちょっとくらい手を抜けるしね。


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by hinaseno | 2017-03-02 15:09 | 雑記 | Comments(0)

雪ケ谷?

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画面に映った手紙の宛先の住所に記された地名を見て、ちょっと首をひねる。「ゆきがたに」? 

大森区、現在の大田区の地図は何度も見ていたけれどもピンとこない。どこだろう。実際に存在する地名なんだろうか。堀江敏幸さんの小説に出てくる架空の町「雪沼」を思い浮かべてしまう。いつもだったらここでストップして地図で場所を調べるけれど、もう少しドラマを見続ける。


見ていたのは小泉今日子さんが出演している久世光彦演出の向田邦子新春ドラマシリーズの一つ『終わりのない童話』。小泉さんが出ていることもありましたが、タイトルに惹かれるものがあって、ずっと見たいと思っていましたがようやく。

舞台はやはり東京・池上。例によって池上本門寺の大坊坂の石段を登ったところに家があるという設定。長女はいつものように田中裕子さん。ただこのドラマではこの家に住むのは3姉妹ではなく、姉と妹のほかに男の兄弟がひとり。妹役を演じているのは小泉今日子さんではありません。

主人公の田中裕子さんがある日、お寺の境内のはずれで不思議な老人に出会います。「転向」という過去を持っている人ですが、童話を書いている。その人の住所が雪ケ谷。そしてその家の一人娘が小泉今日子さんでした。


池上に住んでいる田中裕子さんはある日お見合いをすることになります。偶然にもその相手の男性も雪ケ谷の人。こんな会話がなされます。


「お宅が池上だとすると、同じ電車に乗り合わせているかもしれませんね」
「どちらですか」
「雪ケ谷(ゆきがや)です」

この電車はもちろん池上線ですね。とすると雪ケ谷は池上線の駅。地図を調べたら雪が谷大塚駅というのを発見。そうかここだったか。

で、先ほどの手紙の住所を確認。

「大森區雪ケ谷廿八」

例によって戦前の地図を見たらその番地が載っていました。この地図の青丸で示した場所。

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すぐそばに池上線が走っています。そこには笹丸橋との文字。ネットで調べたらその笹丸橋の下を池上線の電車が走る写真(1957年ごろ)がありました。このあたりは谷になっているんですね。

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ところで地図をよく見たら「雪ケ谷廿八」の最寄りの駅は石川台。石川台といったら、なんといっても小津安二郎の『秋刀魚の味』のこのシーンですね。

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岩下志麻さんが立っているのは石川台駅のホーム。ホームの表示を見ると隣が「雪が谷大塚」と「洗足池」。で、「雪が谷大塚」の方から電車が入ってきます。

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この電車は洗足池、長原、そして平川克美さんの隣町珈琲のある荏原中延を通って五反田に向かいます。


さて、田中裕子さんはある日思い切って雪ケ谷に住む老人に会いに行きます。こんな番地が書かれたものが取り付けられた電柱が映りますが、もちろん全てセット。

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ただし線路に近いことを示すためか電車が走る音が聞こえます。玄関を入るとそこに小泉さんが現れます。『風を聴く日』で演じた次女とは違って不思議な役柄。でもとても魅力的。

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ドラマで見たのはここまで。このあと一体どんな物語が展開するんでしょうか。

ところで雪ケ谷に住む老人から田中裕子さんのところに手紙が届きます。その手紙に書かれていた住所は『風を聴く日』の住所「東京市大森區池上本町十九番地」とは番地が違っていました。

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「東京市大森區池上本町一三八」。

地図の青丸をつけた場所にありました(赤丸で囲んでいるのは唯一ロケがされている大坊坂の石段)。

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近くに流れているのは呑川ですね。そこに長栄橋という橋がかかっています。現在もあるようですね。

それにしても住所がはっきりと示されているのは小泉さんが出演するドラマだけ。実際にはそこでロケをされていないにしても、それぞれの場所がとても身近に感じられます。


(追記)雪ケ谷大塚駅は昭和18年までは雪ケ谷駅という名前だったようです。つまりこのドラマで設定されている時代には雪ケ谷駅でした。


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by hinaseno | 2017-02-28 13:27 | 雑記 | Comments(0)