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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
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2017年 01月 12日 ( 1 )



川島雄三の『銀座二十四帖』に武蔵新田が映ると書きましたが、実は川本三郎さんの『銀幕の東京』の『銀座二十四帖』の章では武蔵新田のことは一切書かれていません。あるいは東京のどこかの場所に行ったときにそこでロケされている映画やあるいはそこを舞台にした文学があれば必ず触れている『東京の空の下、今日も町歩き』でも、武蔵新田についての話で『銀座二十四帖』のことは出てきません。どうやら川本さんは『銀座二十四帖』が武蔵新田でロケされていたことまでは確認されていなかったようです。そればかりかネット上でもそれについて書かれたものが(1日で消えてしまう石川さんのブログ以外には)見当たりません。とすると、それを発見したのはやはり大瀧さんということになるのでしょうか。ただし、あくまでそれは間接情報。


さて、川本さんの『東京の空の下、今日も町歩き』では、武蔵新田が舞台となっている文学が一つ紹介されています。加賀乙彦『炎都』(平成8年)という小説。そこには戦後間もない武蔵新田の風景を描写したこんな記述があるそうです。


武蔵新田の駅から小川に沿って歩くと農家のような祖父の別邸にたどり着く。庭は菜園になっていてトマト、ナス、キュウリが実っている。井戸があり、池がある。付近一帯は田圃で、夕暮れどきにはそこからカエルの合唱が湧き起こる。近郊農村の面影が残っている。

びっくりするのは、『銀座二十四帖』(昭和30年公開)は、まさにこの描写を逆回ししたような風景からはじまるんですね。カエルも登場します。

映画は最初に森繁久彌の歌う映画の主題歌「銀座の雀」(作曲は仁木他喜雄)が流れる中、出演者などのクレジットを紹介。そして森繁久彌自身のナレーションが始まります。


みなさん、こんにちは。あ、いや、おはようございます。私、ただいまちょっと素人離れした歌をお聴かせいたしました森繁久彌でございます。画面の進行に従いましてときどきお邪魔をいたします。え、さて、今は夜明けです。たくさんのカエルたちが夕べっから一睡もしないで夢中で恋の歌を歌い続けています。おいおい、カエルくん、少しは遠慮したまえ。どうもカエルなんてやつは常識がなくて。
おや、どこからかいい匂いが漂ってまいりました。ああ、なんという馥郁たる香り。芳しくも健康な匂い。新鮮な空気といっしょに朝がやってまいります。穏やかなそしてとてもなごやかな銀座の朝。
こりゃあ失礼しました。
銀座は銀座と言ってもここは東京郊外にある有名な多摩川新田銀座。

「新鮮な空気といっしょに朝がやってまいります」という言葉のあたりで映るのがこのシーン。

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一人の農夫がおそらくは野菜がいっぱいに詰まったカゴを担いで川沿いの道をやってきます。そしてそこからカメラが左の方向に回って映し出されるのがこの場面。アーチには「新田銀座」との文字。
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『銀座二十四帖』というタイトルから誰もが都内のあのおしゃれなビルの立ち並ぶ銀座を思い浮かべているときに、いきなり田圃近くの木造のとてもおしゃれとはいえない建物が立ち並ぶ場所が映るわけですから、おやっとなりますね。ってことで、森繁は「こりゃあ失礼しました」と言って「銀座は銀座と言ってもここは東京郊外にある有名な多摩川新田銀座」と説明します。

ただし森繁は新田銀座を「しんでんぎんざ」と言います。東京には荒川近くの足立区や江戸川区にも「新田」という地名があるのですが、いずれも「しんでん」と読みます。荷風が晩年住んでいた市川市にも新田がありますがやはり「しんでん」ですね。

「新田」という地名はおそらく江戸時代に新たに開墾して作られた田圃に由来しているのが多いはずなので「しんでん」と呼ばれるのがふつうなんですね。ということで森繁さんも読み間違えたんでしょうか。でも、監督の川島雄三も知らなかったんでしょうか。

川本さんも『東京の空の下、今日も町歩き』で、こんな説明をされています。


「新田」は「しんでん」ではなく「にった」と読む。鎌倉時代、この地で討死した武将、新田義興(にったよしおき)を祀る新田神社から取られている。

正直、ナレーションの「たまがわしんでんぎんざ」という言葉と、アーチに「新田銀座」と書かれた文字を見ただけで(それは映画用に作られた可能性もあるので)、そこが目蒲線の沿線の武蔵新田だとわかる人なんてまずいないでしょうね。

それでは、まずは上の2枚の写真の場所を特定することからはじめます。


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by hinaseno | 2017-01-12 13:20 | 雑記 | Comments(0)