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by hinaseno
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Springsville in Tokyo #12 - 野口久和 THE BIG BAND with “BREEZE”ライブ(5)


2017年5月7日。時刻は午後6時半ごろ。場所は東京神田の岩本町にあるライブハウスTOKYO TUC。その時間、外にどれくらいの明るさが残っていたのか地下だったのでわからない。

BREEZEの4人のメンバーがこの日2度目のステージに登場。第1部で野口さんによって振られていた小さなネタを受けた話を磯貝さんがされて観客の笑いを誘う。その笑いが収まって、会場は静謐な空気に。

その瞬間、僕も、そしておそらく石川さんも”そのとき”がやってきたことを知る。このブログでぽろっと書いた夢が実現するときが。


BREEZEのメンバーの小菅けいこさんが次に歌う曲の紹介を始める。「あまり知られてはいない曲で、私たちも知らなかった曲だった」。と。曲のタイトルは言わないまま。

ここで野口さんがBREEZEによってその曲が歌われることになったいきさつを語り始める。ジャック・ケラーという作曲家によって書かれて、ペリー・コモに歌われた曲だと。その場にいた観客のどれくらいの人に届いたかはわからないけど、たくさんの人を前にしてジャック・ケラーの名前が語られたことに心から感動する。「ジャック、聴いてる? これから君の書いた素晴らしい曲がここで演奏されることになるんだよ」と心で叫ぶ。

そしてその知られていない曲を野口さんに教えた「ある方」の話が始まる。「ある方」という表現で通されるかと思ったけど、野口さんはその人の紹介を始める。「武蔵小山のアゲインというライブカフェのオーナーの石川さん」と。なんだか自分のことのようにうれしくなる。そして野口さんが呼びかける。

「その石川さん、今日、来てくださっているんですね。石川さん、どこにいらしゃいますか?」

目の前に座っている石川さんがテーブルの下に潜り込もうとするが、逆にその動きが目立ってしまう。僕も後ろから石川さんの背中をたたく。全員の視線が石川さんに集まり、石川さんが恥ずかしそうにおじぎをする。たまらないくらいに幸せな気持ちになる。

野口さんは石川さんがいかにポピュラー音楽に造詣が深いかを説明し、大瀧さんや山下達郎さんの話を交えながら今回5年ぶりにこの曲が演奏されることになった経緯を紹介。石川さんとの具体的なやりとりも話されていました。で、石川さんの友達(僕のことですね)も今日のライブに来ていると言われ、このときに初めてBREEZEのメンバーと目が合う。

野口さんは「知られていないけどこんなにいい曲があるんだということを知ってほしい」と話されて小菅さんにバトンタッチ。


ここで小菅さんはペリー・コモにまつわる興味深い話を披露。それはペリー・コモの最後の来日公演の時の話。調べたら1993年3月。

この公演、NHKで放送されたということがわかったのでもしやと思って調べたら、なんとYouTubeにありました。




実はこの来日公演ときにドラムを叩いていたのが今回の野口久和 THE BIG BANDのドラムを演奏していた稲垣貴庸さんだったことがわかりみんなびっくり。そしてそのあと、さらにびっくりするようなとびっきり素敵なエピソードが紹介されます。

それはペリー・コモの歓迎パーティーのときのこと。上の貼ったYouTubeの最初の方にそのパーティーの様子がちらっと映っていますね。加山雄三さんもいることからもわかるように会場はかなり騒然とした雰囲気に包まれていました。そんな中、一人の女性がステージに呼ばれ歌を歌うことになります。後藤芳子というジャズシンガー。騒然とした会場で、きっと自分の歌が誰の耳にも届いていないことを感じながら後藤さんは歌を歌ったにちがいありません。

ところが後藤さんが歌い終えたときに、彼女のところに一人の男性がやってくる。ペリー・コモ。そして彼は彼女にこう言う。「僕は聴いていたよ」と。この後藤芳子さんというのがBREEZEの師匠に当たる人。

さらに興味深いのはBREEZEが結成されたのはまさにこのペリー・コモの最後の来日公演があった1993年。いや、縁というのはなんて不思議なんだろう。

いくつもの”たまたま”がきっかけで今回野口久和 THE BIG BAND with “BREEZE”で演奏されることになったペリー・コモの「Beats There A Heart So True」。もちろん、演奏した野口さんも、歌を歌ったBREEZEも素晴らしい曲であると判断したからこそだろうとは思いますが(磯貝さんは例のeBayでこのレコードを手にいれて聴いたそうです。磯貝さんはレコードマニアなんですね)、ペリー・コモとのこんな素敵な繋がりがかくされていたとは。歌われる前から胸がいっぱいになってしまいました。

こうなったらBREEZEには絶対に『Sings Perry Como』というアルバムを出してもらわないと。もちろん演奏は野口久和 THE BIG BANDで。


さて素敵なエピソードが披露された後、小菅さんによって曲のタイトルが告げられついに「Beats There A Heart So True」の演奏が始まる。すぐに石川さんの背中が激しく震え出すのがわかる。手で顔をおおい、しばらくは顔を上げることができないでいる。僕もすぐに涙が溢れてくる。願いが叶ってうれしいということもあるけど、何よりも目の前で演奏されている曲の素晴らしさに感動して。なんとなく歌っているBREEZEのメンバーの目も潤んでいるように見える。

曲の素晴らしさにについて説明する言葉はない。哀しみを表現するような金管楽器とその哀しみを優しく包み込むような木管楽器の織りなす演奏にBREEZEの4人のハーモニーが見事に重なっていく。哀しみにつつまれ曲だけど、なんて希望に満ち溢れた曲なんだろうと思う。

永遠に曲が終わってほしくないと願いながら、最後のエンディングが近づく。音が完全に消えるまでは誰も拍手をしないでほしいと願い続ける。

そして音が消え、一瞬の間があって盛大な拍手。石川さんは「すごい!すごい!」と叫び続ける。BREEZEサポーターの席に座られていた人が「BREEZEにぴったりの曲」とさけぶ。僕と石川さんだけでなく、演奏していたバンドやBREEZEのメンバーも含めてみんながこの曲のすごさに心を打たれていることがひしひしと伝わってくる。まちがいなくこの日のライブのハイライト。

少しだけ正気に戻ってきたときに石川さんが振り返って、ふたりでがっちりと握手。この素晴らしい瞬間をひとりではなくふたりで共有できたことは喜びを何倍にもする。ああ、いっしょに来てよかった。石川さんに、そして野口久和 THE BIG BANDとBREEZEのメンバーに心から感謝する。


これはこの日のライブの写真ではないけど、TOKYO TUCのサイトに貼られていた少し前に行われた野口久和 THE BIG BAND with “BREEZE”のライブの様子を撮ったもの。お借りしておきます。

Springsville in Tokyo #12 - 野口久和 THE BIG BAND with “BREEZE”ライブ(5)_a0285828_13201823.png


by hinaseno | 2017-05-23 13:27 | 雑記 | Comments(0)