松本さんによって1番の「水いろの陽に濡れるテーブルに/きみはほおづえき/今朝の夢のつづき思い出す」に相当する3行分の歌詞が加えられたことで言葉数も整い、ようやく曲は完成に…と、行くはずだったのにそうはならなかったんですね。
原因はやはり松本さんが書いた本来の詞の行や段落分けを無視した大瀧さんの曲作りにありました。
改めて1番のサビまでの歌詞の確認を。松本さんが書いた詞はこうなっていました。
水いろのひかりさしこむ窓に
きみはひとりぽつん
風にきみの顔がにじんで
水いろの陽に濡れてるテーブルに
きみはほおづえつき
今朝の夢のつづき思い出す
さあ
あたまに帽子のせて
でかけなさいな
ほら外はいい天気だよ
ここを大瀧さんはこう歌うようなメロディにしたんですね。
水いろのひかりさしこむ
窓にきみはひとりぽつん
風にきみの顔がにじんで
水いろの陽に濡れてるテーブルに
きみはほおづえつき今朝の
夢のつづき思い出す
さあ
あたまに帽子のせて
でかけなさいな
ほら外はいい天気だよ
さて、この形で新たに書かれた3行の入った2番の歌詞を1番で作られたメロディに入れてみると、こう歌うことになります。
水いろのひかりあふれる
部屋に朝は悲しすぎる
風にきみの夢がにじんで
水いろの陽に溶けだした朝
きみの肩のうえでやさ
しさが小さくふるえている
さあ
あたまに帽子のせて
でかけなさいな
ほら外はあんなにいい天気だよ
1番で、本来は次の行の最初に置かれている「今朝の」という言葉を前のフレーズの最後に入れたために、2番では「きみの肩のうえでやさ/しさが小さくふるえている」と歌わなければならなくなっているんですね。
「やさしさ」が切り離されている!
いくら大瀧さんでもこれには抵抗があったようです。多少つながりがおかしくなっても(でも、不思議な面白さが生まれる)言葉を切り離してしまうことをしばしばされますが、それはあくまで文節単位。一つの単語まで切り離してしまうことは(たとえば「颱風」のように自分で書いた詞でない限り)まずやらない。
それからもう一つ、この「外はいい天気(だよ)」にはリンダ・スコットの「I've Told Every Little Star」のイントロの部分を取り入れていて、で、「I've Told Every Little Star」は最後に再びイントロのフレーズに戻るという構成になっているので、それと同じようにするにはサビを最後に持ってこない方が自然な感じがすると判断したかもしれません。
ということで、最後のサビと「きみの肩のうえで/やさしさが小さくふるえている」の2行をカットして、「水いろの陽に溶けだした朝」まで歌って最初のフレーズに戻るというパターンも考えてみたはず。でも、「溶けだした朝」で終わるのも歌ってみたらかなり不自然。
で、結局、松本さんにわざわざ考えてもらった3行をバッサリとカットして「風にきみの夢がにじんで」で終わる形にしたんですね。限られた時間の中で曲を仕上げなければならなかったので仕方がなかったんだと思います。歌詞メモに大きく×を入れたのはもちろん大瀧さんのはず。
曲を完成させたものの大瀧さんにはいくつかの不満足感が残ったので(もっといい曲になるという感触があったんでしょうね)、たぶん早い段階で、おそらく帰国してすぐくらいに曲の作り直しを始めたにちがいありません。
とりわけ気になったのがカットした3行のうちの最後の2行。「きみの肩のうえで/やさしさが小さくふるえている」の部分ですね。いい言葉だけにカットしたことにうしろめたさを感じたのかもしれません。
というわけでそれをなんとか入れようといろいろ考えて仕上げたのが「風にきみの夢がにじんで」のすぐあとに、「きみの肩のうえで/やさしさが小さくふるえている」を「小さく」を重ねてつなげるという形。言葉数を整えるために「ふるえている」を「ふるえてる」にして。で、出来上がったのがこのフレーズですね。
きみの肩のうえで やさしさが
小さく 小さく ふるえてる
そしてもう一度繰り返す。
小さく 小さく ふるえてる
で、イントロのフレーズに戻る。
見事という他ないです。
それからもともとは「あんなに」が入る予定でメロディを作ったはず「ほら外はい~い~い~い~天気だよ」を「ほら外はあんなにいい天気だよ」に戻して。
もう一つ言えば、一番のサビの後に転調して半音上がる形になっているのも素敵です。
というわけで今年最初にギターで弾いているのはもちろん「外はいい天気だよ」。単純な巡回コードを使った曲なんですが、「やさしさが」の後に一瞬ポロンと出てくるディミニッシュ・コードがたまりません。でも、そこにそのコードが入るのはねらったわけでなく、たまたまなんですね。