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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno

「自分が良いと思う感覚をアーティストが持っているなら、絶対いつかは売れるということは、僕はずっと信じていた」


朝妻一郎さんの『ヒットこそすべて オール・アバウト・ミュージック・ビジネス』(白夜書房 2008)には、大瀧さんの『A LONG VACATION』が生まれる経緯を知るのに大変興味深いエッセイが2つ収録されています。ひとつは以前少し紹介した「A LONG VACATION」と題されたエッセイ。そしてもうひとつは「70年代のナイアガラ」と題されたエッセイ。いずれもこの本のために語り下ろしされたものです。それぞれ結構長い話なんですが、とても興味深い話ばかりなので紹介しようと思います。まずは「70年代のナイアガラ」を。一部省略しているけど、著作権、大丈夫かな?


 ...そのうちはっぴいえんどのメンバーの大滝詠一がソロを出すということになって、三浦さんから「この著作権をPMP(朝妻さんが現在会長を務めている音楽出版社のこと。現在のフジパシフィックミュージック)で預かってもらえませんか」とオファーがあった。そこで最初の接点が出来た。「恋の汽車ポッポ」と「空飛ぶクジラ」の2曲かな。
 その少し後に、はっぴいえんどのマネージメントをしていた風都市の松下典聖君から「朝妻さん、大滝詠一がレーベルを作りたいって言うんですけど、協力してくれませんか」って頼まれた。配給はELECと契約をするというので「じゃあ協力するよ」と答えた。それから制作する予定になっていたナイアガラの一番最初のレコードであるシュガー・ベイブの『ソングス』や『ナイアガラ・ムーン』の著作権をうちで預かるということになったんだ。
 僕は、ちょうど大滝君の5歳上なんだ。僕は1943年生まれ。大滝君が48年で、山下達郎君が53年。だから5歳ずつ違う。でも大滝君とは、初めて話をしたときから5歳違う感じがあんまりしなかった。要するに僕たちは「同じ音楽を聴いてて、同じのが好きだな」と思えた。「最高、最高!」みたいな感覚を共有できた。亀淵さんのことを僕は「すごくいろんなことを知っているなあ」と思ってきたんだけど、大滝君も負けないくらいすごかった。
 そもそも、自分でレーベルを作るという発想を持った日本のミュージシャンは珍しいし、実際、実行に移したという意味でも初めてだったと思うよ。その当時で、まだ彼は23、4歳だからね。
 もちろんフィル・スペクターのフィレスとか、そういう例がアメリカにあることは僕たちも知ってはいて、ナイアガラというレーベルのアイデアに関しても「そうかそうか、そういうふうに考えるのも当たり前だよな」と思っていた。だけど、そのときはまだそんなにすごいことに参加しているとは実感してなかったんだ。
 ビジネスとしては、うちで制作費を持ちましょうということで、PMPが原盤権を持つことになった。そして一応、「ナイアガラ」という会社を設立するということで、資本金をうちも出した。
 まだまだ若者だった大滝君に対してそこまでできたのは、ひとえに「この人、すごい才能があるな」っていう敬意と、ぜひこの才能と一緒に仕事をしたいと言う気持ちが強くあったからだよ。自分と同じような音楽が好きで、知識も豊富で、音楽で何か新しいことをやりたいと思っている。そういう人と一緒に仕事ができるのはすごくうれしいものだったんだ。
 あと、彼はやっぱりポップスに対するセンスでは図抜けてた。僕も基本的にポップスが好きなんだよね。ロックじゃなくて、ポップスなんだということがお互いの認識の中にあったと思う。
 でもビジネス的には、すぐに成功したわけじゃない。ELEC時代のシュガー・ベイブも『ナイアガラ・ムーン』も売れはしなかった。特に『ソングス』は内容もすごくポップで良かったのに、実売は数千枚。経費に対する売上という面では「ちょっと大滝くんさ、これお金かかり過ぎだよ」と言いたくなるときもあったね。
 だけど、自分が良いと思う感覚をアーティストが持っているなら、絶対いつかは売れるということは、僕はずっと信じていた。現実的にはそうはいかないものもあったけど、今じゃなくてもちょっと時間がたったらそれが絶対に評価される時が来ると思っていたんだ。
 上司に呼び出されて「おまえ、これ大滝詠一のプロジェクトはどうするんだ」とか問いつめられたこともあったよ。当時、僕は制作部長か制作課長で、まだそんなに立場も大きくなかったけど、「大丈夫です。絶対才能ありますから、絶対売れますから!」って突っ張った。「また金かかんのか」って言われても、「もうちょっとです、もうちょっとです」とか言って粘ってね。

(次回に続く)


by hinaseno | 2017-09-06 12:48 | ナイアガラ | Comments(0)