大村雅朗作品集として最初に作ったのは(次があるかどうかはわからない)松本隆作詞、大村雅朗作曲で松田聖子が歌った曲を集めたもの。
作詞が松本隆さんではなくて大村雅朗が作曲して松田聖子が歌ったものや、松本隆作詞で大村雅朗作曲だけど歌ったのが松田聖子ではないものは省きました。やはりこの松本隆、大村雅朗、松田聖子というコンビが僕にとって最も思い入れの深いものなので。
収録したのは全部で15曲。大村雅朗が作曲した曲は1曲の例外を除いてすべて彼自身が編曲しています。
収録した曲を発表された年代順に紹介しておきます。
- 1. 「真冬の恋人たち」
1982年11月10日発売のアルバム『Candy』のB面の最後に収録。
何から何まで最高に魅力的な曲なのですが、この曲の魅力をさらに引き上げているのが途中で聞かれる男のパートの声。
「可愛いね 君」「ねぇ ひとりきりなの」の部分ですね。これを歌っているのが『ナイアガラ・トライアングルVol.2』のメンバーである杉真理さん。杉真理さんには本当は曲を提供して欲しかったんだけど、でもこの声は奇跡のように魅力的なものでした。
ところで、『作編曲家 大村雅朗の軌跡 1951-1997』を読んでいたら、その部分についてあっと驚くエピソードが書かれていました。それは大村雅朗がアレンジした曲でキーボードを演奏していた山田秀俊のインタビュー。実は山田さんはキーボードを演奏していただけではなくコーラスもやっていたんですね。しかも一人多重コーラス。『Candy』でも大瀧さん作曲の2曲以外のほとんどの曲で山田さんはコーラスをしています。大村さんのお気に入りの声だったみたいです。
山田さんのコーラスでとりわけ素晴らしいのが細野晴臣作曲の「ブルージュの鐘」。ここでは山田さんはまるでビーチ・ボーイズのような綺麗なファルセットの一人多重コーラスをやっているんですね。ちなみにあの「SWEET MEMORIES」でも山田さんの素晴らしい一人多重コーラスを聴くことができます。
で、その山田さんが「真冬の恋人たち」についてこんなことを語っていました。
僕なんて「真冬の恋人たち」で♪かわいい~ねきーみ♪って歌ったんだけど、出来上がって聴いてみたら杉真理に差し替えられてんの。だから「これどうしたの?」ってスタッフの人に聞いたら「山田さんの声がオジサンくさくていやらしかったから……」って言われて。
声の差し替えをしたのはどうやら大村さんのようですね。
ちなみに「真冬の恋人たち」のクレジットを見るとChorusのところには杉真理と山田秀俊の名が併記されています。
「可愛いね 君」「ねぇ ひとりきりなの」の部分は杉さんに差し替えたけれど、それ以外のところで聞かれる男性のコーラスはすべて山田秀俊さんの一人多重コーラス。今聞くとちっともおじさんくさくなくてとても爽やかなファルセットなんですが、でも、やっぱりあそこは杉真理さんのエンジェルヴォイスがあってこそです。
ところで本の冒頭の松本隆さんのインタビューでも、やはりこの「真冬の恋人たち」について触れられていました。松本さんも一番のお気に入りのようです。
彼(大村雅朗)はそんなに器用な人じゃなくて、どっちかっていうと朴訥とした曲を作る感じかな。いちばん印象的なのは「真冬の恋人たち」なんだけど、これは名曲。詞もかなりいいのが書けて、とっても好きですね。
彼の曲に詞をつけていると、物語とか場面とかがパーっと浮かんでくる。風景が浮かんでくるのは僕の詞の特色でもあるんだけど、特にそれが喜んで出てくるっていうのかな。「真冬の恋人たち」は自分でも映画を観ているような感じだね。そういうのは得がたい。あと「セイシェルの夕陽」もいい。
ということでその「セイシェルの夕陽」まで紹介するつもりでいましたが、ちょっと時間がないので今日は結局「真冬の恋人たち」1曲だけの紹介になってしまいました。