先日、日本映画専門チャンネルで放送された成瀬巳喜男の『女が階段を上る時』、主演が大好きな高峰秀子さんでDVDも出ているんですが、見るのはこれが初めてでした。高峰さんが演じるのは銀座のバーの雇われマダム。というわけで銀座近辺と思われる風景がいくつも出てきます。ただ、路地が多くてほとんどわからないけど。
でも、少し前にこのブログで紹介した佃の渡しはすぐにわかりました。『東京の編集者』(夏葉社)の表紙に使われた山高登さんの写真と同じ風景だったので。
実はその前にこんなシーンがありました。高峰秀子と仲代達矢がどこかの橋の上を歩いています。
昔の映画に出てくる東京の風景の中で、とりわけ気になるのが橋と川。というわけで、映画を見終えた後で調べてみたらびっくり。なんと、あの三吉橋の上を歩いていたんですね。大瀧さんが通っていた音響ハウスのすぐそばの橋。で、驚いたことに…。
その前に戦前の三吉橋周辺の地図を。
以前、三吉橋の絵葉書を紹介しましたが、実は三吉橋の絵葉書は同じ時期に撮影されたものが3枚あります。三又の橋を3方向からとらえているんですね。
まず、これ。
地図の癌研究会付属病院と書かれている建物のあたりから緑の矢印の方向をとらえています。三吉橋の向こうにはいろんな映画によく出てくる築地橋が見えます。左端に映画のシーンに映っている建物がありますね。
次がこれ。
地図の水色の矢印の方向をとらえています。正面にある建物は京橋区役所。
で、その京橋区役所から撮影したはずの絵葉書がこれ。
地図の赤色の矢印の方向を写しています。向こうに見えるのはあの新富橋。
年代を知りたかったのでこの絵葉書だけ手に入れました。でも残念ながらどこにも年代の記載はありませんでした。
さて、『女が階段を上る時』に戻ると、高峰さんは地図の紫の方向を歩きます。そして橋の途中で立ち止まって振り返ります。
なんと向こうに見えるのは新富橋、そして(たぶん)鈴木ビル。
で、次のカット。
高峰さんのバックにはっきりと新富橋が映っています。橋の上を車も走っていました。
ところで『女が階段を上る時』が公開されたのは昭和35年(1960)1月。『秋立ちぬ』と同じ年に公開されていたんですね。『秋立ちぬ』の公開は10月。ちなみにこの年、成瀬は4本も映画を撮っていて『秋立ちぬ』が4本目。
成瀬が『秋立ちぬ』の構想をいつ立てたかはわかりませんが、その最も重要な場所である新富橋をちらっと写しこんでいるのは意図的なものなのか、それともたまたまなんでしょうか。
『地図の水色の矢印の方向をとらえています。正面にある建物は京橋区役所。』とありますが、これが癌研究會附属病院です。旧京橋區役所は築地橋が写っている写真の右に見切れている建物で、規模が全く異なります。
以上ご報告いたします。
で、その京橋区役所から撮影したはずの絵葉書がこれ。