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by hinaseno

マイクロスター@アゲイン(その5)ーーラリー・レヴィン、笛吹銅次、そして…


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マイクロスターのトーク・イベントでは「She Got The Blues」の曲の歌詞に「ロマンチックな曲を聴く」という歌詞が出てくるということで、佐藤さん、飯泉さんそれぞれのロマンチックだと思う曲をあげてくださいという質問がされました。イベントは基本的にはペットサウンズの特典のリーフレットに掲載されたインタビューに沿って勧められたのでそれぞれの答えはこの日のブログに書いた通り(でも、ときどきそのインタビューで何を答えていたかを忘れられていたようでしたが)。
で、僕にとってのいちばんロマンチックな曲のことを考えていましたが、いろいろ考えてやはりロビン・ワードのこの「Wonderful Summer」だなと。



この曲が収められたロビン・ワードのアルバムもようやく今月の末に発売されるようです。以前希望を書いたように「Wishing」も収録。そして長門芳郎さんの解説。言うことないです。一体何年この日を待っていたことか、ですね。
今年も後半に入りましたが、考えてみたら、今年は何年も待っていたものが発表される、実現するということが結構多かったな。

さて、やはりずっと待っていた『レッキング・クルー 伝説のミュージシャンたち』を3分の1ほど観ました。考えてみたらここ何年間、レッキング・クルーの人たちの姿はいろんな形で見ていたので、ハル・ブレインが出てもキャロル・ケイさんが出ても、おおっ!とか思わなくなりました。
でもこの人が登場したときには、思わず、おおっ! となってしまいました。
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ラリー・レヴィン。
テロップには「ゴールド・スター・エンジニア」と書かれていますね。ゴールド・スターというのはレコーディング・スタジオの名前。何と言ってもフィル・スペクターがそこでレコーディングしたことで知られています。エンジニアというのはミュージシャンがスタジオで演奏した音を録音し、それをミックスして最終的にレコードに刻まれる音を作り上げる人。
ラリー・レヴィンの写真はいつもこんな形で見ていました。
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ミキシング・コンソールの前に座っているのがラリー・レヴィン。その隣に立っているサングラスの怪しい男がフィル・スペクターです。

スペクターの頭の中にある音像を具体的な形にしたのがラリー・レヴィンなんですね。スペクター・サウンドが完成したのは「He’s A Rebel」からだと大瀧さんが何度も語っていますが、ラリー・レヴィンが初めてスペクターのエンジニアを務めたのがまさに「He’s A Rebel」。実はたまたまだったんですね。
スペクターはその後ずっと彼を使い続けたことから、スペクター・サウンドにおいてラリー・レヴィンというエンジニアがいかに重要であるかがわかると思います。

ラリー・レヴィンは6年前の2008年に亡くなっているのですが、その前に何度かメディアに出てインタビューに答えられていたようで、YouTubeにはいくつか彼のインタビュー映像がアップされていました。その中で驚いたのがこれ。



あのロビン・ワードの「Wonderful Summer」はゴールド・スター・スタジオで録音されて、その時のエンジニアがラリー・レヴィンだったと。
あの曲は見事なウォール・オブ・サウンドではあるのですが、まさかラリー・レヴィンがエンジニアを務めていたとは。ロビン・ワードの「Wonderful Summer」については謎が多くて情報が本当に少ないのですが、このあたりのこと、今度発売されるCDに記載されるんでしょうか。

ところでラリー・レヴィンと言えば先日紹介したパイザノ&ラフのアルバムも彼がエンジニアを務めていました。更に言えばあのロジャー・ニコルス&スモール・サークル・オブ・フレンズのアルバムのエンジニアもラリー・レヴィン。彼はスペクターと離れた後はA&Mのエンジニアを務めていたんですね。

さて、マイクロスターの話に戻りますが、作曲家の佐藤さんはずっとエンジニアの仕事をされてこられた方だったんですね。
ということで、佐藤さんはスタジオもお持ちなわけですが、その名はCatchball studio。キャッチボール好きなので、思わずにっこりです。
ロゴもいいんですね。CDにもしっかりとロゴが載っています。
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CDにスタジオ名をこんな形で記しているのはめずらしい。佐藤さんのエンジニアとしての自負(とユーモア)が感じられます。ユーモアと言えばこのロゴ、キャピトル・レコード(Capital Records)のロゴにそっくり。高瀬さんが考えたのかな。

ところでエンジニアと言えば忘れてはならないのが大瀧さん。大瀧さんもエンジニアとしての自負も強かったようで、レコード盤には「Producer 大瀧詠一」の下に必ず「Engineer 笛吹銅次」と記載していました。
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笛吹銅次というのは大瀧さんの変名。
歌手、作曲家、編曲家、プロデューサーとしては高く評価されていきましたが、絶対に忘れてはならないのがエンジニアとしての大瀧さんの評価。これについては山下達郎さんが『SONGS』の40周年記念盤の解説でかなり書かれていましたが、もっともっと評価されてもいいことではないかとずっと考えていました。もしかしたら大瀧さんはエンジニアとしての仕事をしたくて、その仕事をしたいがために自分でスタジオを作ったのではないかと思うくらい。で、いちばんその仕事が好きだったんだろうなと。
でも、エンジニアというのは評価されにくい仕事なんですね。最終的にレコードに刻まれた音を作った人であるにもかかわらず。

フィル・スペクターという人は、これ以上ないほどのエゴイストだったのですが、その彼がレコード盤には必ず「Engineer Larry Levine」と刻んだのは(レコード盤にエンジニアまで記載しているのはそんなにありません)、いかにレコードを作ることにおいてエンジニアという存在が欠かせないものだということを知っているからこそのはず。ラリー・レヴィンはスペクター・サウンドを作った大事な人物の一人であると示しているんですね

前置きが長くなりすぎましたが、佐藤さんのソングライティングのことを考えるときに、佐藤さんがエンジニアであるという視点はとても重要なポイントになるはず。大瀧さんもまさにそうでしたがエンジニアの仕事まですることのできる人が曲を作る場合は、そうでない人の曲作りとは決定的な違いがあるような気がします。
大瀧さんの影響というよりもむしろ、エンジニアの仕事もできるアーティストとしての共通性というのを強く感じました。

ふと思ったのですが、佐藤さんがいちばん好きな音楽関係者は、もしかしたらラリー・レヴィンなのかもしれません。
by hinaseno | 2016-10-09 12:28 | 音楽 | Comments(0)